崩壊寸前! 宮崎市の建物に見る、既存の制度で賄えない問題点を不動産鑑定士・税理士が専門的見地から探る
ちょっと前ですが、宮崎市の「青空ショッピングセンター」という店舗が「建物が崩壊しかけ」だけど「民間の所有であるため、県や市が手出しをできず困っている」との記事を目にしました。
不動産鑑定士・税理士としては、現地が気になる…。
筆者は、東京の不動産鑑定士・税理士ですから、さすがにおいそれと宮崎には行けません。
ところが、たまたま鹿児島市の不動産鑑定の案件を頂きました。鹿児島と宮崎はJRの特急で2時間強かかりますので少々強引かと思いましたが、どうせ南九州まで行くならと、思い切って現地を見てみることにしました。
※この記事の写真は、全て令和5年4月24日に筆者撮影。出典元を明記いただければ二次利用して構いません。
■宮崎市役所で色々聞いてみた
鹿児島での鑑定評価は4月25日になりましたので、4月24日の昼、筆者は宮崎駅に降り立ちました。
曇天で太陽がさんさんと輝く宮崎らしさはありませんでしたが、駅の観光案内所でレンタサイクルを借り、まずは市役所に行きます。
「町づくり課」に行き、「青空ショッピングセンターは、崩壊寸前で危険と思うのですが、市として何か対処されているのですか?」と問いました。
「あそこは民間の土地ですので、市としては何ができるか考えているところでして…」
結局、何もできていないのね…というのが筆者の感想でした。
次に、税理士らしく固定資産税担当部署に行きます。
ニュース記事にある現地の写真を提示して
「この崩れかけた建物でも、固定資産税や都市計画税を課すのですか」と問います。
固定資産税の建物ご担当によると、一般論として
「一応、登記があって建物の形であれば、課税すると思います」とのことです。
結局、役所としては、民間の不動産には手出しをできず、但し建物が崩壊状況にあっても粛々と課税するようです。
まあ、規模もあまりないのであれだけ古ければ、建物の固定資産税都市計画税の額も知れている…といえばそれまでですが。
■いよいよ現地に
市役所から「青空ショッピングセンター」は自転車で10分かそこらです。
周囲は典型的な地方の県庁所在地の街並みですが、そこに明らかに異様な建物が。
シャッターが下りている区画もあるのですが、そこには悪質な落書きもなされています。
こういうものが蔓延る時点で、地域の治安にも悪影響を及ぼしているのは言うまでもありません。
ところが、驚いたことに、これだけ崩壊状態にある建物の一角で、一階の道路に面した部分で店舗を営業しているおじいさんがいらっしゃいました。
筆者は聞いてみました。
冨田 「あの、この建物で店をしていて、怖くないんですか?」
おじいさん「怖いよ」
冨田 「この建物、いつ崩れるかわからないですが、大丈夫でしょうか?」
おじいさん「何とかなるだろ」
ご迷惑になるのでその程度の会話で止めましたが、客の側だって危ないので店に近寄りたくないでしょう。
あくまでも筆者の勝手な推測ですが、他に行きようがないのかなぁとも感じました。
■この建物を見て思ったこと
確かに既存の制度では、民間所有の建物に簡単には手を出しにくく、また、建物の税金も粛々と課す以外にはありません。
ただ、見ての通り、建物はいつ崩れ落ちるかもわからず、漏電による火事の危険も否定できません。そうなると、たまたま道路を通りかがった人など、本来はこの建物とは無関係な尊い命が犠牲になることすら考えられます。
また、落書きに代表されるように、治安の悪化ももたらします。
はっきり言って、既存の制度は「放置されている危険な建物」に甘すぎではないでしょうか。
確かに、私人の所有物に過剰な制限を課すのは間違っているでしょう。財産権の侵害に他なりませんから。
ただ、特に不動産については公共性についてもある程度は考えるべきです。
そして、もしも法律的な観点での私権の制限ができないのであれば、「無駄に危険な建物を放置すれば建物解体費用以上に負担がかかる」制度にすべきと思います。
その負担は固定資産税都市計画税に代表される税制でもよいですし、それ以外の刑罰的なものでもよいでしょう。
それと社会的な風潮として、放置された空き家を許さない世論にもっていくことも一つの鍵と思います。
そうすれば、崩壊しそうな建物に固執する人も減り、危険な建物の淘汰につながるのでは。
もしかして、筆者を含め日本人は「自己主張に意識を注ぎ過ぎた結果、自分勝手になりすぎている」のかも知れません。
「オレのものだからオレが放置しようとオレの勝手」だというのではなく、制度的な面でも吟味しながら、「他人任せではなく、一人一人が公共も意識して、良い街をつくる努力をする意識」を持つこと。
これが、国土の有効利用に際して求められる一つの要素かなと思います。