<ガンバ大阪定期便・103>際立つ存在感。鈴木徳真と楽しむ進化。
■『我慢』を使いこなしてチームをコントロールする。
今シーズン、ガンバに備わった新たな心臓は、脈打つ音を大きくしながらチームをコントロールし続けている。
ここまでのJ1リーグ23試合での出場時間は、1880分。ダワン、ネタ・ラヴィ、美藤倫ら、ボランチを本職とする選手の中で最も多い出場時間を数える。徳島ヴォルティス時代に1年間ともに仕事をしたポヤトス監督からの信頼も厚い。
「徳真(鈴木)は、戦術、勝つことへの欲、ハングリー精神といったメンタリティを植え付けてくれた選手の一人。なかなか名前を挙げられることの少ない選手だが、苦しい時間帯、決まって彼はボールを奪い返し、自分たちの時間を回復させてくれる(ポヤトス監督)」
つい先日、キャプテン・宇佐美貴史が2024明治安田J1リーグ6月度の『2024明治安田Jリーグ KOMAMI 月間MVP』に選出されたが、彼を表のMVPとするならば鈴木はまさに影のMVPと言っても過言ではないはずだ。前節・サガン鳥栖戦も的確なポジショニングと戦術眼で守備に、攻撃にと顔を出しながら、チームをコントロール。相手の攻撃の芽を摘み取り、攻撃に転じる役割を90分にわたって体現し続けた。
この試合における走行距離は、チーム最多の12.237キロ。これは同節のJ1リーグで3番目を数える数字だ。鳥栖戦も然り、ゲームの流れを見極める『目』が常に安定していることも、それをチームの変化につなげられることも、彼がピッチに必要とされる理由だろう。
鈴木曰く「我慢」をいかに使いこなせるかだという。
「試合では90分間、ずっと自分たちの流れということはまずない。当たり前のことですけど、相手の流れが続いている時は、当然、自分たちには流れがこないし、僕にも流れが来ない。そういう時は、我慢だなと。でも相手の流れがずっと続くわけでもないので。相手の流れが終わった瞬間を見極めて、確実に掴むことを描けていれば、焦る必要はないと思っています」
わかりやすい事例が「今シーズンのカギになるかもしれない」と話した、2つ前の横浜F・マリノス戦だ。この試合、立ち上がり4分という早い時間帯にファン・アラーノが先制ゴールを決めて、リードを奪ったガンバだったが、以降は20分間ほど相手に押し込まれる展開が続く。つまり『流れ』を相手に渡した時間帯だ。2センターバックが開くことで、両サイドバックが高いポジションを、サイドハーフが内側にポジションを取り、攻撃に厚みを持たせてきたマリノスに手こずり、押し込まれたが、その『我慢』の時間帯も、鈴木は状況を把握しながら流れを取り返す瞬間を狙っていた。
「先制してからの時間帯は、相手のサイドバック、サイドハーフの立ち位置もあって、インサイドハーフの渡辺皓太選手や植中朝日選手がうまく間、間を消しながらアンデルソン・ロペス選手をうちのセンターバックにあてにいく、というやり方を続けていた。それをひっくり返す策も頭の中にはあったんですけど、それをあの序盤の時間帯でやるのはリスクも伴うし、ステイだと。じゃあ、今、目の前で起きている相手の攻撃にどう対応するか、なんですけど、さっき言った通り、永遠に相手の流れってことはないはずなので、テンポダウンする瞬間を見極めよう、と。つまり、相手の流れだった時間帯は、マリノスが自分たちより1テンポ上回っていたからやられることが多かったけど、マリノスがテンポダウンして僕たちのテンポと揃った時には僕らのところにボールが入ってくるだろうと予測していたので、そこまでは我慢しながら展開を受け入れ、でも摘み取るところはしっかり摘み取って、時を待とうと思っていました」
実際、25分の飲水タイムを過ぎたあたりから、相手がややペースダウン。その瞬間を見極めて一気にスピードアップしたガンバは、カウンターやロングボールを活かして流れを引き寄せ、それをフィニッシュで終わらせる攻撃を続けることで息を吹き返している。その中では例えば42分のように、マリノスにゴール前までにじり寄られ、シュートを打たれたシーンもあったが、前半アディショナルタイムのダワンによる追加点で突き放すと、後半も理想的に試合を展開。途中出場の選手たちも効果的に存在感を示しながら、今季最多の4得点、無失点と理想的に締め括った。
■この先の戦いに描く、もう一段階進んだチーム、とは。
そうした戦況を見極める目について鈴木は、過去の経験が財産になって活きている部分が大きいと話す。
「プロになってからずっと、いろんなタイプの選手のプレーをピッチで情報収集してきたし、少し余裕がある状況では敢えてポジションを落としてみて、相手がどう出てくるかを確認したり、ボールが回っていない時に、自分がポジションを落としたほうがボールを受けられるのか、高い位置に入ったほうがボールを回しやすいのかを試合の中でたくさん見つけてきたので。そうした経験則を毎試合、向き合う相手のスピードや利き足なども考慮して使い分けている感覚です」
もちろん、ダブルボランチを組む相棒によっても、それぞれのストロングポイントに応じて自分の役回りを調整することも多いそうだ。常に心がけているのは「絶対に使われたら嫌だなと思うポイントに自分が立つこと」。本来であればもう少し前線に出ていきたい気持ちもあるが、今はまだチームの構築段階であることも踏まえ、そこも「我慢」なんだそうだ。
「使われたら嫌だなって思うポイントに、チームとしてきちんと人がいる状況を作れるなら僕は前に出ていきたいし、相手のDFラインとボランチの間に僕がスッと入っていってボールを受けることも、相手を崩す上では今後、必要だと思っています。そこで僕がボールを受けてスルーパスを出すなり、リズムを作れたら、もっと前の選手が活きてくるんじゃないか、とも思います。ただ、その構築を急ぎすぎてしまうと、どこかで掛け違いが起きるからこそ、今は無理をせずにみんなが戦術理解を深めながら一緒に進んでいくことを考えたい。戦術が浸透すれば、というか、確実に今は、チームとしていろんなことを積み上げられていると考えても、さっき言ったようなプレーがスムーズにできるタイミングが必ずくるはずだから」
加入した時から「チームは積み上げることで形づくられていくもの」だと話し、どんな状況でもチームが足並みをそろえて戦術を深めていくことの必要性を説いていた鈴木らしい言葉。もっとも、この先の戦いに向けては、先に書いたボランチの攻撃参加は不可欠だという自覚もあるという。これは、ある程度『無意識』の基盤ができてきたという実感あればこそ。ポヤトス監督からも求められていることの1つでもあるという。
「ここまでの試合を通して、しっかり後ろから繋いだり、うまくサイドハーフを使ってショートカウンターを仕掛けられるようになったり、その時々で攻撃、守備のバランスをどうするのかっていうことがみんなの中で無意識に作られるようになってきたのは間違いないと思います。それが失点を少なく、点をとりながら勝てたという結果にもつながった。そうした基盤ができたからこそ、今後はそこに上乗せしながらもう一段階、前に進みたい。ダニ(ポヤトス監督)もそこはミーティングで言っていたことで…例えば、さっきの僕自身の攻撃参加の話もその1つです。もう少し、ボランチがケアしていたエリアをセンターバックに任せてボランチが高いエリアでボールを受けられるようにしよう、と。つまり攻撃に関わる人数をもう1枚増やすみたいなイメージです。
それを聞いて、ようやくもう一段階?! って思う人もいるかもしれないけど、僕はそれでいいと思っています。戦術を構築するのは簡単じゃないし、だからどのチームも苦労をする。チームとしての基盤ができていないうちに先を急いでしまうと、例えば点は取れるけど失点がものすごく多いよね、みたいなサッカーになりかねないですしね。もちろん、1点取られても2点取ればいいのがサッカーなのはわかっています。でも、実際にそれがピッチで起きると、選手は90分間休む間もなくやり合わなくちゃいけなくなるし、観ている分には面白いかもしれないけど常にギャンブルみたいなサッカーをすることになる。それは、この先、シーズンを通して『勝ち進む』ことを求めるチームになるにはナンセンスだな、と。実際、ボールを持つことで攻撃的に攻めることもできるし、ボールを持っているから相手を疲れさせる=自分たちも休むことができるという土台と、そこからの崩しの形も何パターンもあって点も取れる、というサッカーを使い分けられるようになれば、チームとしても『この相手にこれが通用する』『この相手ならこっちの方が得策』みたいな経験則が増えますしね。それは今後の戦いを考えても有効だと思っています」
そしてもう1つ、今後の戦いで意識するのは、セットプレーでの得点だ。リーグ戦も2巡目の戦いに入り、より難しい試合が増えることを想像し、言葉を続ける。
「ここ数試合、流れの中での得点が増えているのはポジティブなことですけど、今後、特に夏場の戦いではきっと、キツい試合も出てくるので。だからこそ、セットプレーでの得点をもう少し増やしたいなとは思っています。さらに言えば、今は出ている選手だけじゃなくて、チームの誰もがいいコンディションで準備ができている状況にあるので。途中から出てくる選手が…この間の、ジェバリのように、パッと出てきて点を取るみたいな状況が増えればさらにチームとしても勢いが出るし、競争も生まれるのかなと。そうなれば、チャンスをもらった選手が『自分も結果を』ってせき立てられることにもつながって、チームによりいい循環が生まれるんじゃないかと思っています」
■遠藤保仁の金言にもヒントを得ながら、鈴木徳真の目指す進化。
そうしたボランチの攻撃参加を描く上で、参考にしているのはガンバのレジェンド、遠藤保仁の存在だ。ガンバがタイトルを争ったシーズンには必ずボランチである彼のゲームコントロールがあり、攻撃参加があったことを思い返せばこそだ。
「ガンバの攻撃を語る時に、ヤットさん(遠藤)の名前が必ず出てきたというのは、間違いなく僕が参考にすべき姿だと思っています。もちろん、当時とはサッカーも、やり方も全然違うとはいえ『サッカー』という括りで考えるなら、どの時代も、チームに結果に繋がるプレーができるボランチがいる方がいいに決まっている。それは前線の選手が活かされている証拠でもあるから」
それもあって、試合のハーフタイムを使って、あるいは練習でも試合運びやボランチの動きについてアドバイスをもらうことは多いという。
「ハーフタイムに『もうちょっと、テンポを管理して』『もう少し前で繋いだ方がいいんじゃないかな』って言ってもらってヒントになることはめちゃめちゃあります。例えば、第19節・ヴィッセル神戸戦の前半も、最初ボランチのラインで受けようとしていたんですが、相手のFWがそこをうまく消してくるような守備をしてきて、全然ボランチがボールを触れず、前にボールが入れられなかったんです。結果、蹴るしかなくなってしまい、そこから相手の攻撃を受ける状態を作られてしまっていた。そしたら、ヤットさんがハーフタイムに『崩しのところでもうちょっと下がっていいよ』と。実際、僕らが敢えてポジションを下げてボールを触ることでボランチがリズムを見出せるようになり、全体としてボールが動くようになった。守ってくる相手をどう崩すのか、って話をしていた時も『ボランチが枠の外に出ていけばいいんじゃない?』と言われたのも印象的です。そうすれば、ボールを触れるようになるし、そこでリズムを作ってボールを動かしていれば相手がだんだん疲れてくる、と。そうやって相手を少しずつ横に、横に広げた上で間に入っていけばいいし、逆にそれができなくなったら外を使えばいい、と。そういったアドバイスをうまく自分に引き入れてプレーしていることも今の自分につながっていると思っています」
ただし、自分は『遠藤保仁』ではなく、あくまで『鈴木徳真』としての勝負を求めなければいけないことを理解しているからだろう。先にも書いた通り進化は目指して、背伸びはしない。それによってチームのリズムを壊してしまっては、元も子もないからだ。
「チームはそれぞれに役割があって、その役割を120%でやるから、チームの最大公約数を発揮できる。だから、ボランチの攻撃参加もあくまで状況を判断した上でのこと。周りの選手がそれぞれの特徴が最大限に出せるようにすることも僕の仕事だと思っているからこそ、そこを一緒になって大きくすることを考えたい。そのために僕自身も成長しなければいけないと思っています」
そんな鈴木らしさを如実に表しているのが、試合の序盤によく見る光景だ。立ち上がりの時間帯、高いポジションをとった彼にボールがわたり、ミドルレンジからシュートを狙えそうなシーンで、鈴木はほとんどの場合、宇佐美貴史や、坂本一彩ら、周りにいる前線の選手にボールを渡している。本人曰く「もちろん自分が本当にベストな状況にいるなら狙っていたと思います」としながらも、理由があるという。
「ああいう早い時間帯は特に、僕よりも前の選手に足を振らせておいた方が、それ以降の決定機で決められる確率が上がるんじゃないか、と。実際、僕らボランチが足を振っている回数が多いより、FWやサイドハーフの選手がボールをいっぱい触って、いっぱい足を振っている方がチームとしては絶対にいい。彼らはゴール前で仕事をしなくちゃいけない選手なのに、わずか1〜2回のチャンスで自分のフィーリングを確認して仕留めて、では厳しすぎるし、イコール、チームにとってもプラスには働かない。だからこそ、できるだけ立ち上がりの時間帯は前の選手にいっぱいボールを触ってもらって、いっぱいシュートを打ってもらいたいな、と。その流れができた上で、僕は『このタイミングなら打ってもチームのテンポを下げることにはならないな』『逆に拍車がかかるかもな』っていう瞬間に打てばいいと思っています。ただ、その状況を早く見出せるに越したことはないと思うので。裏を返せば、できるだけ僕らが攻撃にかかっていく回数を増やさなきゃいけない、とは思っています」
そして、自分が足を振り抜く際には、それを枠内に飛ばすことも、今後の課題だと言葉を続けた。
「自分が一発で決めなくてもいいから、きちんと枠に飛ばしてそこに誰か前線の選手が詰めてくれる、ってシーンは増やしたいです。そうなれば僕自身のプレーの幅も広がるし、欲を言えば、アシストがつくくらいのところまで…高い位置でボールを受けた瞬間に、エリア内に短いタッチ数でパパンと入れられるなら、FWの選手も、ここで受けたいというエリアで受けられるシーンが増えるはずだから」
あとは、ケガなく、コンディションを保ちながら戦い続けること。それについては普段から休むこと、やるべきトレーニング、食事、栄養を摂るべきタイミング等を徹底できている分、心配していないそうだ。
「むしろ、試合をコンスタントに戦えている幸せとか、チームとして1つずつ積み上げながら前に進めていることへの実感とか楽しさが圧倒的に上回っているので、疲れなんて全く感じない。まだまだ僕らは良くなっていけると思っています」
常にチームとしての成功を求め、成長を描く、頼もしき『強心臓』。鈴木徳真の進化はすなわち、ガンバの進化でもある。