「結果を出し続けて生き残っていく」。仙台のエース、FW浜田遥が泥臭く、熱いプレーで切り開いたもの
【男子とのトレーニングマッチで連続アピール】
173cmの長身と長い手足を連動させ、ストライドの広い走りで、最前線からボールに食らいついていく。その動きはダイナミックで躍動感があるが、プレーは泥臭くて、熱い。FW浜田遥は、試合終了の笛が鳴る瞬間まで走り抜くファイターだ。
「結果を出し続けることでしか自分は生き残っていけないと思うので、誰よりもゴールという結果にこだわっていきたいと思います。しんどい時こそ、諦めずに踏ん張れば必ずボールは転がってくると信じていますし、FWは最前線にいるので、自分が諦めずにボールを追えば、みんなにも伝わるものがあると思っています」
浜田は昨季、なでしこリーグで15ゴールを決めて得点ランク2位になり、同年11月の候補合宿でなでしこジャパンに初招集された。代表デビュー戦は28歳と遅咲きだったが、東京五輪が延期になったことで、出場選手18枠への挑戦権を得た。コロナ禍でマッチメイクが難航していることもあり、海外勢との対戦は、代表デビューを果たした4月のパラグアイ(○7-0)、パナマ戦(○7-0)のみ。アメリカや欧州勢など、強豪国との対戦経験はなく、国際大会で通じるかどうかは未知数だが、国際経験豊富なライバルが多い中で、ここまで候補に残ってきた。
高倉麻子監督は、「彼女は去年のなでしこリーグで、どんな形でも点を取るという形で結果を残しました。なでしこにはいないタイプで泥臭く、ゴールへの嗅覚が高い選手です」と評価。また、「彼女はとにかく学ぶ姿勢が素晴らしい」と、サッカーに向き合う姿勢についても絶賛している。
国内合宿では、海外勢を想定した男子チームとのトレーニングマッチでコンスタントに得点し、アピールしてきた。最初の福島合宿ではいわきFC U-18戦で豪快なロングシュートを決め、逆転勝利(○3-2)に貢献。3月の鹿児島合宿では、鹿屋体育大学サッカー部相手に、裏への抜け出しから2ゴールを決め、逆転勝利(○3-2)に導いた。
海外組も加わった4月のパラグアイ、パナマとの強化試合は、2試合とも日本がリードした後半途中からの出場で、チャンスはあったものの得点はできなかった。だが、5月の福島合宿ではふたば未来学園高校(○3-1)戦で得点し、いわきFC U-18(2-4)との試合では自らのシュートでFW上野真実のゴールを演出した。
所属するマイナビ仙台レディースでは、守備の貢献度も高く、フォア・ザ・チームを体現する。個で勝負するよりも、味方とのコンビネーションや、こぼれ球を押し込む形のゴールが多い。
「自分は足元の技術がないので、そこで勝とうと思っても無理です。その代わり、一瞬の隙を逃さないで、『自分がゴールを決めるんだ』という強い気持ちで取り組み続けています」
得意な形は、相手の背後への抜け出しからのフィニッシュ。代表では、ゴールに直結する精度の高いパスが出てくる。だからこそ、FWはそのパスをいかに質の高い動き出しで引き出すことができるかが、腕の見せどころだ。
浜田は、限られた合宿期間の中で代表のコンセプトや戦術をスポンジのように吸収し、全体練習後の自主練習では、コーチングスタッフの力を借りて、相手DFとの駆け引きのスキルを学ぶ。スピードのある海外選手をイメージしながら、フェイントで相手DFの視野から消えたり、DFの目線が自分から外れる瞬間を見逃さずに背後をとる。高いレベルで通用するスキルの引き出しを増やしながら代表のトレーニングで実践し、新たな感覚を掴んだ。
「ボールが自分のところに来るまでの間に見る場所が増え(て、予測して駆け引きする材料が増え)ました。完全に相手の逆を取れた瞬間は本当にフリーな状態で受けられるので、『これか』と、感覚を掴むことができました」
学び、成長することへの意欲は若手選手にも負けない。浜田が放つのは、ギラギラした闘争心ではなく、真っ直ぐな向上心だ。3月の合宿では、率直な想いをこう明かした。
「毎日、『自分が下手くそだな』と思いながらプレーしています。でも、上手い選手たちと一緒にサッカーができることが本当に楽しいし、もっとみんなと一緒にサッカーがしたい、という気持ちと、『五輪に出たい』という強い気持ちがあります」
【大谷翔平流「目標達成シート」で実現した二桁得点】
仙台では、クラブの歴史を知る選手の一人であり、ストライカーとしてチームを牽引してきた。
JFAアカデミー福島の1期生で、2012年のU-20女子W杯(3位)など、年代別代表で活躍している。2011年に東京電力女子サッカー部マリーゼでリーグデビューを果たし、11年の東日本大震災による休部後は、故郷のスペランツァFC大阪高槻で13年までプレー。翌14年には、マリーゼの受け皿となったベガルタ仙台レディースに戻ってきた。8年目を迎える今年、クラブは今年発足した女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」に参入し、浜田はプロ選手になった。
年代別代表ではスピードを買われてサイドバックでプレーしたこともあるが、本職はFW。チームではエースナンバーである背番号「10」をつけて毎年、二桁得点を目標にピッチに立ち続けたが、リーグ戦18試合で6ゴール以上を決めることができず、不本意なシーズンが続いた。
そして昨季、背番号は「10」から「6」に変わった。また、FWに新加入選手が増えた中で開幕からベンチスタートが続き、第3節のアウェー戦はベンチ入りメンバーからも外れている。チームも開幕から3連敗と苦しんだ。その悔しさが、浜田の心を奮い立たせた。
変えたのは、目標ではなく手段だ。昨年まで浜田が勤めていた株式会社マイナビが運営する「マイナビアスリートキャリア」というプロジェクトで、野球の大谷翔平選手が目標達成のために実践した「目標達成シート」を知った。そして、自分でも作ってみたという。「目標達成シート」は、中央に目標を書き込み、そのために必要なことを周りに記入して可視化していく。達成するための筋道を論理的に導き出し、実践するためのツールだ。
昨年末に、浜田はその取り組みについてこう語っている。
「目標に『2桁得点』と書いて、そのためにやるべきことを具体的に言語化して、私生活などサッカー以外の部分でも何をすべきか明確にして取り組みました。自宅の見えるところにシートを貼って、朝起きて見て『絶対に達成するぞ』と気持ちを高めて、帰ってきた時には、自分の中でそれがちゃんとできたかどうかを自問自答する毎日を過ごしていました」
自主練習の取り組み方も変えた。ただシュート本数を重ねるのではなく、本数を減らすことで、一本一本のシュートに試合さながらの緊張感と重みを持たせた。効果はてきめんに表れた。
「以前はGKとの1対1の場面で、インサイドで流し込む(冷静な)シュートがなかったのですが、落ち着いて、コースを選択して打つことが多くなりました」
感覚が研ぎ澄まされ、決定力が向上した。例年10%台だった決定率は25.4%に上昇し、第4節からは1試合1点ペースでゴールを量産している。チームは10チーム中7位に終わったが、個人では、得点女王のFW菅澤優衣香(17ゴール)に2点差まで迫る追い上げを見せた。
【WEリーグと五輪代表への挑戦】
仙台は今季、松田岳夫監督の下、ボールを繋ぎ、自分たちからアクションを仕掛ける攻撃的なサッカーをしている。代表のサッカーにも親和性が高く、浜田にとっても学んだことを生かしやすい環境だろう。WEリーグのプレシーズンマッチでは、ここまで2試合に出場してまだ得点はない。だが、「代表で学んだ裏への抜け出し方を、チームでも生かせています。課題は、動き出しに対してパスを出してもらえるように自分からも要求していくことです」と、進化の手応えを感じている。
今年、浜田は再び背番号10をつけることになり、キャプテンも覚悟を持って引き受けた。
新しい目標達成シートの目標には、「WEリーグ初年度優勝」「得点女王」の二つを書き入れたという。そのためにやるべきことを逆算して、一つずつ丹念に積み上げている。
アマチュア選手だったこれまでは、午前中に勤務して16時ごろから練習していたが、今年、プロ化によってチームの練習が午前中に繰り上がり、午後は自分のために使えるようになった。その時間を利用してフィジカルトレーニングやアジリティ、体の使い方などを強化している。
「フィジカルコーチに器具を使ったメニューを考えてもらって、体幹や体の使い方を教えてもらっています。一瞬のスピードを上げたいのですが、細かいステップが苦手なので、ターンする時に無駄な動きをなくすことや、体の大きさを生かして手を使ったターンを強化しています」
リーグデビュー当時から認められてきたポテンシャルを結果で示し、誰もが認める仙台の顔になった。これからは、プロとしてのさらに厳しい戦いが待っている。リーグは9月開幕だが、プレシーズンマッチのパフォーマンスは、代表への重要なアピールの場でもある。
6月10日と13日には、なでしこジャパンが国際親善試合でウクライナ(エディオンスタジアム広島)とメキシコ(カンセキスタジアムとちぎ)との2試合を行うことが発表されている。
仙台はここまでプレシーズンマッチ2試合を消化して、結果は引き分けが2つ。残りは5月29日にフクダ電子アリーナ(千葉県)で行われるジェフユナイテッド市原・千葉レディース戦と、6月5日にセイホクパーク石巻(宮城県)で行われる日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦の2試合だ。代表のウクライナ戦とメキシコ戦のメンバーは、6月初めに発表されるだろう。
代表でチャンスを掴み、輝くために、結果を残すことができるか。自らのゴールで、浜田は未来を切り開いていく。
※文中の写真はすべて筆者撮影