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『週刊新潮』甲府殺人放火19歳少年の実名・顔写真掲載で改正少年法めぐり日弁連と応酬

篠田博之月刊『創』編集長
『週刊新潮』10月28日号の記事(筆者撮影)

日弁連の批判に『週刊新潮』が翌集合で反論

 『週刊新潮』の19歳少年の実名・顔写真掲載が波紋を広げている。

 最初に問題になったのは同誌10月28日号「『19歳生徒会長』闇の奥の”素顔”」で、10月12日に甲府市で夫婦が殺害され家が放火された事件で逮捕された19歳少年についての記事だ。少年法に基づいて新聞やテレビの報道では少年の名前が伏せられているのだが、同誌は敢えて実名と顔写真を公開した。そしてそれを批判した日本弁護士連合会(日弁連)に対して、翌週号で同誌が反論を掲載した。

 最初の『週刊新潮』10月28日号の発売日は10月21日。その日のうちに山梨県弁護士会が会見を開いて抗議。翌日には日本弁護士連合会(日弁連)も会長声明で抗議した。

 これまでも『週刊新潮』は少年法に異議を唱える立場から、逮捕された少年の実名を報じることが何度もあった。ただ今回、大きな問題になったのは、改正少年法との絡みだ。『週刊新潮』はこう書いている。

 「今年5月に成立し、来年4月1日から施行される改正少年法では、18歳、19歳を『特定少年』と規定し、起訴された場合は実名報道も可能となる。○○(原文実名)がその第1号となった場合、犯行時には名前が伏せられたにもかかわらず、起訴時に大手新聞などで実名が報じられる可能性があるのだ」

「明らかな違法」と日弁連は批判

 それに対して日弁連の声明ではこう批判がなされている。「本件のような捜査段階や、家庭裁判所の審判段階での推知報道は、改正少年法下であっても、なお違法であることは明らかである」。改正少年法で推知報道禁止が一部解除されるにしても、それは条件付きであり、今回のケースは違法だという指摘だ。

 さてそれに対して『週刊新潮』は、28日発売の11月4日号で「『少年法』を金科玉条に”生きた化石”『日弁連』」と題して日弁連に全面反論する記事を掲載した。少年犯罪の凶悪化や被害者救済といった流れに日弁連は対応せず原理主義に陥っているという批判だ。

 日弁連の主張と、この『週刊新潮』の主張は、少年法をめぐる典型的な対立と言えよう。

 たとえ犯罪を犯そうと、少年はまだ変わり得る(可塑性がある)という理由で、実名報道の制限など規定した少年法の精神は私も支持しているが、それを変化する現実社会にどう適応させるべきかということで少年法改正論議はなされてきた。ただそれが社会全体が必ずしも十分理解し納得する状況には至っていないことが今回の騒動の遠因かもしれない。19歳の少年をどう考えるべきかというのは、確かに難しい問題だ。

他の週刊誌はどう報じたか

 この事件、他誌はどう報じたかというと、『週刊文春』10月28日号「甲府一家放火殺人19歳犯人は皆勤賞の生徒会長だった」では目線を入れた写真を掲載。『女性セブン』11月4日号「19才”片思い”少年の『死刑』と『実名』」は実名も顔写真も載せていないが、どちらかといえば少年が匿名であることに疑問を呈する記事だ。副題に「『改正少年法』の施行まであと半年だった」とある。

 

 改正少年法に関わるこの問題、もう少し社会的な議論が必要だ。ただそれ以上に気になるのは、片思いの後輩女性の家に深夜忍び込み、両親に見つかって殺害してしまうというその犯行の異常さだ。同じ定時制の高校で少年は生徒会長、襲われた女性は役員だったというが、両人ともかつて不登校だったという。少年は後輩女性の家に忍び込む際、見つかったら殺害してしまおうとあらかじめ考えていたというが、その犯行動機を含め、週刊誌記事を読んで、とても深刻な事件だと感じた。

学校教育をめぐる深刻な事情が事件の背景に

 例えば『週刊文春』10月28日の記事には、生徒会長を務めていた19歳少年は「先生からもすごく信頼されている」という他の生徒のコメントも載っている。学校における少年の状況がどうだったのか、あまりにも凄惨な今回の犯罪の背景は何で、どうすれば防げたのか。そういうことをきちんと検証しないと、殺害された夫婦も、残された姉妹も浮かばれないと思う。少年法の精神に則って少年の処罰や処遇をどうするかという問題はもちろん大事だが、それ以前に、こういう深刻な犯罪についてはきちんと解明しなければいけない。

 改正少年法の適用の問題ももちろんだが、そもそもこの事件異は解明すべき事柄があまりにも多いと思う。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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