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地方移住成功の秘訣は「ビジネスキャリア積んでから」

吉田大樹労働・子育てジャーナリスト/グリーンパパプロジェクト代表
家族で移住することで、子どもたちものびのびと成長するはず。(写真:アフロ)

働き盛り世代の移住を促進させるべき

「地方創生」と声高に叫ばれている昨今。雇用、子育て、婚活、地域活性化、はたまたインバウンドなど地方創生を巡って様々な取り組みが進められている。こうした取り組みを有機的に連携させることにより、地方の人口減少を少しでも歯止めをかけることが求められているが、「東京一極集中」と言われるように、日本の構造そのものが東京圏を中心に成り立ってしまっており、その岩盤をいかに突き崩すかが問われている。

ただ、地方に人口を分散させるべきというのはいまに始まったことではなく、1972年に田中角栄氏により出版された「日本列島改造論」の中でも、東京一極集中を打破するために、

工業再配置と交通・情報通信の全国的ネットワークの形成をテコにして、人とカネとものの流れを巨大都市から地方に逆流させる“地方分散”を推進する

出典:「日本列島改造論」(田中角栄著)

――ことが力説され、公共事業に巨額な投資が行われた。しかし、40年以上の時を経てもなおその構造に何ら変わりはない。むしろ交通網が整備されればされるほど、東京圏はストローのように地方のエネルギーを吸い上げていると言っても過言ではない。地方が東京圏のエネルギーを吸い上げる力はその逆に比べれば現状は微弱なものでしかない。東京圏というエネルギーをいかに地方に分散させていくかが、地方創生のカギと言えるだろう。

地方にエネルギーを分散させるには、働き方を多様化し、地方に移住してもらうことが重要な方途である。しかし、効果的に地方がエネルギーを吸い寄せていくためには、ある程度ターゲットを絞っていくことも必要だろう。なぜなら世代によって地域への影響力が異なるからだ。

若年層であれば、身動きの軽さはあるが、ビジネスキャリアが浅いこともあり、仕事を生み出すことができずに定着しづらい面がある。また、持続的に人口を増やしていくためには結婚や出産というハードルも越える必要もある。反対に、日本創成会議(座長:増田寛也氏)の「首都圏問題検討分科会」が今年6月に発表した提言の中で、「東京圏の高齢者の地方移住環境の整備」を掲げているが、高齢者層の移住も地域の活力という面ではインパクトが欠けるとともに、地域に貢献できたとしてもその活躍の時間はあまり長くはない。

ということを考えていくと、今後移住のターゲットとしてより力を入れていくべき層は、30代後半~50代前半の働き盛り世代・子育て世代ではないかと考える。「東京圏でビジネスキャリアを積み、出会いの多い東京圏で結婚・出産してから地方に移住をする」という選択であれば、地方の人口を2倍、3倍と家族の人数に応じて増やしていくことができ、次世代を見越した施策も打つことができるだろう。つまり、「家族」での移住を促進させることが地方創生を成功させる大きなエネルギーとなり得るのではないだろうか。

政府が昨年行った「東京在住者の今後の移住に関する意向調査」によると、東京在住者の4割(うち関東圏以外出身者は5割)が地方への移住を「検討している」または「今後検討したい」と回答しているが、男性で最も高いのが50 代、次いで40代となっている(両者とも約5割)。

そこで、移住に当たって最も不安視されるのがどのようにして生計を立てていくかであろう。自治体が企業を誘致し雇用を確保していくにも限界がある。これからはビジネスキャリアを積ませ、経済的な「自活力」を高めていくということにもっと注力していくべきではないか。「会社に雇われて働く」だけのスタイルではなく、それ以外の収益源も確保できる力が求められている。また、テレワークも積極的に活用することで転職をしなくても生き残る道もある。東京圏で培ったビジネスキャリアを生かしながら、地域の仕事などにも多面的に関わっていくことによって自分なりの生計モデルを確立していくことが求められるだろう。

東京圏で獲得したビジネスキャリアを地域の活力として生かしていくためには、東京圏において様々なチャネルを模索し、ビジネスキャリアをどのように地方で生かしていくのか、必要な情報を得ていくことが必要になる。最近では、地方自治体や民間レベルでも地方移住に関連するイベントが東京でも積極的に行われている。

群馬へのUターン移住で子どもたちものびのびと

イベントが行われたシェア複合施設型「theC」
イベントが行われたシェア複合施設型「theC」

そこで今回、筆者は、地方創生および東京からの移住を推進している脱東京ビジネス研究会(東京都千代田区 代表:東大史)が8月26日夜に開催した「脱東京移住計画~群馬編~」(共催:経済産業省中小企業庁委託事業シニア等のポジティブセカンドキャリア推進事業)というイベントを取材した。場所は、東京・千代田区にあるシェア型複合施設「theC」。

同研究会は、現実問題として東京で働くビジネスパーソンが地方に移住するための具体的な方法論を語る場として今回のイベントを企画。首都圏近郊の地方を中心に都心でのビジネスキャリアを維持しつつ、ローカルでの新しい働き方を開拓していく生き方について焦点を当てる。

今回のイベントでゲストとして招かれたのは、三菱UFJリサーチ&コンサルティングで公共経営・地域政策部主任研究員の阿部剛志さん(38)。

阿部剛志さん
阿部剛志さん

2012年に東京から親が住む群馬県勢多郡粕川村(現・前橋市)にUターン移住した阿部さんは、生業としても地域振興政策(国土・地域政策、農山漁村政策、環境地域政策等)の専門家だ。まさに自らが地域活性化を実践した形と言える。

現在、8、4、2歳の3人の男の子を育てるパパでもあり、阿部さんがUターンするきっかけも子育て環境を考えた結果であった。「東京で遊んでいると危険が多く制限させることも多かったが、こちらではその心配はなく、子どもたちものびのびと遊んでいる」と語る阿部さん。庭や畑がある家で豊かに生活できていることを実感しているようだ。

2012年以降、旧粕川村から東京まで2時間かけて車と新幹線で通勤している阿部さんは、東京で住んでいるときの賃貸コストなどを考慮しても、いまのほうがコストは下がっていると群馬に住む利点を説明する。さらに阿部さんは、今年になってから新潟県粟島浦村総合政策室長にも就任。地方創生戦略の策定と体制の整備、実行に奔走し、毎週、旧粕川村、東京、粟島浦村の3拠点を飛び回っている日々だ。ちなみに、ご存知の方もいるかもしれないが、新潟県には2つの島があり、1つは言わずもがな佐渡島であるが、もう1つが粟島で、村の人口は今年5月時点で365人という小さな村だ。

東京と群馬のコスト比較をする阿部さん
東京と群馬のコスト比較をする阿部さん

群馬から東京に通っている割合は、国勢調査を調べると100人に1人ということで、阿部さんは「魅惑の1/100Zoneに是非」と言って参加者を笑わせる。通勤圏としての群馬もキャリアを変えずに移住ができる1つの選択肢として「脱東京移住計画」ならぬ「With TOKYO移住計画」の考え方もありではないかと力説する。

阿部さんは、Uターンをきっかけにして群馬県の地域活性にも力を入れ、昨年から「NPO法人ぐんまを元気にする会」の理事にも就任。ビジネスキャリアを活かしながらNPO活動も支援している。これも地方に移住したことの副産物と言えるのではないだろうか。

地方に移住することで、仕事、地域、子育てなどが有機的に結びついていく1つの実践の在り方として阿部さんのライフスタイルは非常に興味深い。

会場の様子
会場の様子

40代からの移住就職希望者を支援する制度

今回のイベントを共催している経済産業省中小企業庁委託事業シニア等のポジティブセカンドキャリア推進事業は、40代からの移住就職希望者を支援するために支援金(最大185万円)を支給するというものだ。具体的には、引越し・交通費などの転居費、キャリアアップ研修などの研修受講費、毎月の家賃費用補助としての住居費、年収低下分を支援する生活支援費に活用できる。詳細は、同事業のホームページへ。

同事業の共催による「脱東京移住計画」イベントは9月にも2回開催する予定。次回は、9月16日(水)19~21時、場所は今回と同じシェア型複合施設「theC」で行われる。ゲストは、元群馬県中之条町町長の入内島道隆さん。

イベントで挨拶した脱東京ビジネス研究会代表の東大史さんは、「東京の人たちが地方の魅力を知り、接点を増やしていくイベントを今後も開催していきたい」と意気込みを語った。

脱東京ビジネス研究会の東大史代表
脱東京ビジネス研究会の東大史代表
労働・子育てジャーナリスト/グリーンパパプロジェクト代表

1977年7月東京生まれ。03年3月日大院修士課程修了(政治学修士)。労働専門誌の記者、父親支援団体代表を経て、16年3月NPO法人グリーンパパプロジェクトを設立。これまで内閣府「子ども・子育て会議」委員、厚労省「イクメンプロジェクト推進委員会」委員を歴任。現在、こども家庭庁「幼児期までのこどもの育ち部会」委員、「こどもの預かりサービスの在り方に関する専門委員会」委員、東京都「子供・子育て会議」委員などを務める。設立したNPOで放課後児童クラブを運営。3児のシングルファーザー。小中高のPTA会長を経験し、現在鴻巣市PTA連合会前会長(顧問)。著書「パパの働き方が社会を変える!」(労働調査会)。

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