トランプ氏「票を見つけて」要求(日本語訳つき) ── この「依頼」は法的にどうなのか?
いまだ大統領選の敗北を認めていないトランプ大統領。だが、その任期満了まであと2週間に迫った。
そんな中、ジョージア州で得票を「見つける」よう州務長官に要求したトランプ氏の電話音声が3日、ワシントンポスト紙によってスクープされた。
トランプ氏は前日の2日、ジョージア州のブラッド・ラッフェンスパーガー州務長官らと電話会談を行った。電話でトランプ氏は、同州で勝利したと主張し、「ただ私は、1万1780票を見つけたいだけだ」などと述べている。
ワシントンポスト紙が独自入手し公開した音声 (1時間の電話会談が4分30秒にまとめられている)
電話の概要
トランプ氏:
私たち(共和党)はこの選挙に勝ったのです。ジョージアの人も国民も、この選挙結果に怒っています。あなた方が再集計したと言っても、何の問題もありません。
ラッフェンスパーガー氏:
大統領、課題はあなたが勝ったと主張しているデータが間違っているということです。
【編集カット】
トランプ氏:
ところで、(不正があったとされる同州)フルトン郡で、投票用紙がシュレッダーにかけられたという噂を聞いたが、そのようなことは可能だったと思いますか?ドミニオン(投票集計機)ごと撤去されたというような噂もあります。あなたはどう思いますか?違法でしょう?
ライアン・ジャーマニー氏(同州務長官の顧問弁護士):
(その事実を否定)
トランプ氏:
でも、投票集計機の内側の部分に手が加えられ、票が改ざんされていますよね。
ジャーマニー氏:
(再び否定)
【編集カット】
トランプ氏:
あなた方が正確な投票結果であって欲しいのは明らかです。共和党員であるし。
ラッフェンスパーガー氏:
私たち(ジョージア州)は正確な投票結果だと信じています。
トランプ氏:
いいえ、いいえ、いいえ、まったく(正しくない)。正確とはほど遠いものです。数万票がないではありませんか。
【編集カット】
トランプ氏:
あなたは、彼らが何を起こしたか知っていますよね。そしてそれを報告しなかった。それは犯罪です、刑事犯ですよ。あなたはそんなことをさせてはいけなかったのです。それはあなたたち2人にとって、大きなリスクです。しかしこれまでに耳にしたことをベースにして考えると、(私の)票はシュレッダーで裁断され、ないものにされたというのが、私の見解です。彼らは素早く、投票集計機ごと撤去もした。あなたはそのような犯罪行為を防がなければならなかったのです。
それで私が言いたいのは、私はただ(追加で)1万1780票を見つけたいのです。そうすると1票多くなる。私はジョージアで勝っているのだから(問題ない)。
注:ジョージア州の大統領選は、バイデン氏が247万3633票、トランプ氏が246万1854票。両者は1万1779票差なので、トランプ氏に1万1780票を足すと247万3634票になる。
【編集カット】
トランプ氏:
それでブラッドさん、どうされるか教えてほしい。我々は勝ったのです。我々がこのように引き下がるのは公平ではありません。このままではあらゆるところで負担が出てくるでしょう。あなたは、もう一度集計をすると言うべきだと思います。あなたは再集計できるのです。そして、答えを見つけたい人たちと共に再集計をするのです。結果が変わって欲しくない人とするのではありませんよ。例えばライアンさん(顧問弁護士)の話を聞いていると、素晴らしい弁護士であり、そのほかにも長けた人であると感じています。でも得票についての発言を聞いていると、何も知らないようです。人々(の気持ち)がバイデン氏に向いているので、ライアンさんも答えがわかっていないようです。
ラッフェンスパーガー氏:
大統領、そのような情報を主張している人々があなたの周りにいるのと同じように、我々にも(このような結果になった)情報を主張している人々がいます。そして法廷に持ち込まれ、法廷は決定を下した。現時点での投票結果について、我々は支持しなければなりません。得票数は正しいと我々は信じています。
【編集カット】
トランプ氏:
(やや苛立った口調で)法律の下では、不正選挙の結果を認めることはできませんよね、そうでしょう?許されませんよ。でもあなたはやってしまった。これは不正選挙の結果なのです。正直に言って(この是正は)素早く、明日にでも行わねばなりません。なぜなら、あなたには火曜日に大きな選挙(同州での上院議員選)が待っています。ジョージアの人々はこの詐欺行為についてやあなたが大統領に対してしたことについて知っているので、もう投票に足を運ばないでしょう。そして多くの共和党員がネガティブな気持ちで投票することになるでしょう。なぜならあなたが大統領にしたことは許されないことだから。彼らは、あなたがやったことに虫酸が走っているのですよ。もし不正が正されれば、あなたはとても敬意を払われるでしょう。
法律に抵触するのか?
筆者はトランプ氏の発言内容を聞いて、外交でも得意としてきた「脅しをかけてうまく相手をコントロールする」手法が顕著に表れていると思った。もちろん全1時間の会話がたったの4分半に凝縮されているため判断が難しいが、ワシントンポスト紙が報じた内容を聞く限り、トランプ氏の言動には主に2つ問題があると感じた。
1つは、刑事犯の可能性を示唆することで「脅し」のようにも聞こえたこと。2つ目は再集計を依頼し「(バイデン票を1票上回る)追加票を見つけたい」と要求したことだ。
ワシントンポスト紙に追随し、全米各紙もいっせいに報じたが、いずれも「結果を覆すため、投票を再集計するよう圧力をかけた」と非難されている。
さらにこの要求内容について「州法および連邦法に違反する可能性がある」(ニューヨークタイムズ紙)、「トランプは法律違反をしたか? 犯罪捜査の需要に拍車をかけた」(USAトゥデイ)などと書かれている。
ニューヨークタイムズ紙では、さまざまな専門家の声を拾っている。
これらの意見を踏まえ同紙によると、電話の向こうにはラッフェンスパーガー氏以外にも人がおり、そのような中でトランプ氏が後ろ暗い雰囲気をまったく見せず堂々と発言を行ったことで、起訴されても「法律を破るつもりはなかった」「そのような行動を禁ずる法律自体を知らなかった」と主張するかもしれない。
連邦と州の選挙への干渉を禁ずる法律に違反している可能性があるという見方が強まったが、弁護団がそのような告発を追求するのは難しいのではないだろうか。またポッター氏の言うような、勝利したバイデン政権が山ほど課題が積み上がる中で、そのような国益にもならない問題に骨を折りたいかどうかだろう。
トランプ氏がこのまま大統領を退任したら、その後このほかにも訴訟問題に直面するのか、こちらにも注目が集まっている。
(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止