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もしも生活保護や児童扶養手当を批判するなら、妊娠した女子高校生を退学にしてはならない

千田有紀武蔵大学社会学部教授(社会学)
(写真:アフロ)

京都府立の高校が1月、妊娠7カ月の3年女子生徒に対し、卒業の条件として体育の実技をするよう求め、さらに保護者や本人の意向に反し、一方的に休学届も送りつけていた。新聞の取材に対し、副校長は「妊娠すると子育てに専念すべきで、卒業するというのは甘い」「全日制では妊娠した生徒は学業から離れないといけない。府民の要請がある」などと説明し、補習の実技として「持久走などハードなこと」を例示したという妊娠生徒に体育実技要求 京都の高校に批判殺到、対応見直しへ)。

高校へ批判が殺到し、「学校の認識にかなり古い部分があった。見直さないといけない」として、今後、妊娠生徒への対応を改める意向を示したことはとてもよかった。当該生徒は同級生と一緒に卒業したがっていたが、結局、休学したという。しかし高校に批判が殺到したと同時に、ネットなどを見ていると、「高校生のうちに妊娠したのだから、高校の対処は当然である」という声も目立つ。だがこれは何重にも問題をはらんでいる。

女子生徒は卒業を目前としていた。もしもあと数か月妊娠がずれていて、卒業まで気が付かれずに出産したとしたら、「おめでとう」と周囲から祝福されたはずだ。高校も卒業後の出産までも咎めることはしないだろう。たった数か月の差で、慶事どうかが変わってくるというのは、やはりおかしいのではないか。高校生の女子の5人に1人はすでに性経験がある第7回青少年の性行動全国調査結果など)。望まない妊娠は、確かにないことが望ましい。しかしそれでも起こるものだ。産むと決めたときに、高校の先生たちが守ってくれるどころか、全力で「嫌がらせ」をしてくるとわかっていたら、妊娠した女性はどのような気持ちがするだろう。

学校は、病気や障害には配慮するのに、妊娠には配慮できないという。しかし職場でも妊娠や出産などを理由とした不利益取り扱いは禁止されている(男女雇用機会均等法第9条)。また妊娠中の女性が請求した場合には、他の軽易な業務に転換させなければならない(労働基準法第65条第3項)。もしも無理に持久走をさせたとして、万が一のことが起こったらどうするつもりだったのだろう。これはマタニティハラスメントである。

少子化の解決が叫ばれ、現政権では「一億総活躍社会」が目指され、女性は「活用」されて「輝く」ことを要請されている。「妊娠すると子育てに専念すべき」と決めつけ、少子化解消に一役買ってくれるはずの女性を尊重しないのは、政権の方針にも反していることになるのではないか。少なくとも「府民の要請」を楯に、女子生徒の妊娠を処罰したり、嫌がらせをすることは間違っている。

日本におけるシングルマザーは離別によるものが多いが、アメリカではむしろ、結婚しない若年層のシングルマザーの貧困が社会問題になっている。就労を続けて欲しい行政は、手当の要件として学業の継続を強くすすめている。日本では10代の結婚の8割は、「できちゃった結婚」によるものであり、離婚率も高い。そうでなくても、一般に3組に1組の結婚は、離婚に至る。この生徒が結婚しているかどうかは不明だが、いずれにせよ高校を中退することになった場合、中卒の学歴で働いて子どもを育てていくのは並大抵のことではない。共働きをする機会も奪われかねない。

多少刺激的なタイトルをつけたが、福祉に対するまなざしが厳しい現在だからこそ、なおさら学業の継続をサポートしてあげなければいけないのではないか。少なくとももしも児童扶養手当てや生活保護に対する批判をするのであったら*、その口で妊娠したら高校を続けるべきではないということは、明らかに矛盾をはらんでいる。また母親が知識を持つことは、子どもの健康や衛生、教育の状態を大きく左右する。妊娠を理由として教育の機会を奪われるべきではない。

*著者は、児童扶養手当も生活保護も重要で必要であると考えている。

武蔵大学社会学部教授(社会学)

1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。

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