旭川―網走間、約3時間50分で結ぶ特急大雪 来春ダイヤ改正で快速化検討も、懸念される2つの問題
JR北海道は、来春の3月ダイヤ改正で、現在、旭川―網走間に2往復が運転されている特急大雪号を快速列車に格下げする方向で検討していることが明らかになった。理由はマイカー利用増加や都市間バスとの競争によって利用者が低迷するなかで、現在車掌乗務の3両編成で運転されている特急大雪号をワンマン運転の2両編成の快速列車にすることで運行にかかる要員を減らし、車両の維持や更新にかかるコスト削減も狙うという。
特急大雪号は、2017年、それまで札幌―網走間に4往復運転されていた特急オホーツク号が車両不足に陥ったことから、2往復を旭川―網走間に運転区間を短縮することにより誕生した特急列車だ。特急大雪号と特急オホーツク号は、2023年3月までは国鉄型のキハ183系4両編成により運行されていたが、すでに製造から35年余りが経過したキハ183系の車両老朽化にともない、2023年3月のダイヤ改正以降は元特急スーパーおおぞら号に使用されていたキハ283系気動車に車両が更新された。とはいえ、特急スーパーおおぞら号の誕生によってキハ283系が登場したのは1997年のことで、こちらの車両の老朽化も進行していることから、ネット上にはキハ283系の引退を危惧する声もあがっている。
こうした中で、筆者は、特急大雪号の快速化については、2つの問題を感じている。1つはJR北海道が発表した快速列車格下げの理由について。そして、もう1つは車両グレードの低下による客離れの心配だ。
JR北海道が主張する利用者低迷の理由は本当か
JR北海道は、特急大雪号の快速列車への格下げについて、「マイカー利用者の増加」と「都市間バスとの競争」による利用者の低迷を理由に挙げているが、この理由は本当なのだろうか。
モータリゼーションの進展により「マイカー利用者が増加」し、鉄道利用者が著しく減少したのは高度経済成長期から1980年代の話である。昨今は、Z世代のクルマ離れや高齢者の免許返納によって、むしろ鉄道利用者を回復させるだけの社会的な環境は整っているはずである。加えて、現代はスマートフォンやノートパソコンの普及により通信環境さえ整っていれば場所を問わずどこでも仕事ができる時代となっている。こうした状況下においては、面積が広大でちょっとした都市間移動でも数時間程度の時間を要する北海道でクルマの運転に時間を取られることは北海道民の生産性を下げることにも直結する。にもかかわらず、こうした社会環境の変化に意識を向けることなく、いまだに鉄道利用者の減少の理由を「マイカー利用者の増加」とすることは理解に苦しむ。
加えて、「都市間バスとの競争による利用者の減少」についても、昨今深刻化するバスドライバー不足の中で、都市間バスを始めとした多くのバス路線で廃止・減便が進む中で、むしろ減便した都市間バスから流れてきた乗客の受け皿として鉄道を活かすチャンスがあるはずだ。JR北海道の子会社であるジェイアール北海道バスが運行する都市間高速バスの高速ひろおサンタ号でさえ、ドライバー不足のため昨年2023年11月に突如として無期限の運休状態に入ってしまった。自社子会社の都市間バス路線でさえドライバー不足から維持が難しくなっている中で、特急大雪号の快速列車への格下げの理由を「都市間バスとの競争による利用者の減少」とするのは不自然ではないだろうか。
この3月のダイヤ改正では、特急すずらん号の全席指定席化と窓口での往復割引切符の廃止によって乗客の利便性を低下させた結果、客離れを招き、これまで特急すずらん号を利用していた乗客が高速バスや普通列車に流れたことは2024年6月7日付記事(札幌―室蘭間、約1時間40分で結ぶ特急すずらん号 JR北海道社長記者会見で乗車状況の質問相次ぐ)でも詳しく触れている。特に、特急すずらん号の利用者低迷については、JR北海道の経営姿勢そのものが招いた問題であるが、こうした経営姿勢の中で他線区の特急列車であっても利用者低迷の理由を、昨今の社会情勢を正しく把握しているとは言いがたい「マイカー利用者の増加」や「都市間バスとの競争」とするのは自社のマーケティング能力の無さを棚に上げた議論のすり替えではないだろうか。
車両グレードの低下による客離れの心配
JR北海道は、特急大雪号から格下げする快速列車については、2両編成のワンマン運転を想定しているとする。こうしたことから使用車両については、現在、JR北海道が増備を進めているH100形が導入されるのではないかという見方が大勢だ。しかし、現行のH100形は特急型のキハ283系と比較して車内設備のグレードが劣り、さらに座席数も少ないことから、こうした車内環境のグレード低下を嫌って客離れを招くことが心配される。
H100形の車内設備については、4人掛けと2人掛けのボックス席が3組で残りはロングシートとなり1両あたりの座席数はわずか36席だ。これに対して現行の特急大雪号に使用されているキハ283系は1両あたりの座席数は50席前後でリクライニングシートとなることから、H100形をそのまま導入すると座席数が大幅に減るうえ、リクライニングシートと比べて椅子が固いボックス席とロングシートの設備となることから、快適性は大きく劣ることになる。さらに座席数の減少から繁忙期には数時間立ちっぱなしでの乗車を強いられることにつながりかねず、こうした混雑が表面化するとより一層の鉄道の客離れを招きかねないのではないだろうか。
近年では、移動時にスマートフォンの操作やパソコン作業をしたいというニーズの高まりから、都市間高速バスにはコンセントやWi-Fi環境を整備する車両も増えている。こうしたなかで、H100形を旭川―網走間の長距離快速列車に投入するにあたり選ばれる鉄道となるためには、相応の車内設備の仕様変更が必須となるであろう。
仮にH100形の快速列車が旭川―網走間に投入されるとした場合について、「さすがにそれなりの仕様変更をするのではないか」「今のJR北海道の経営姿勢だと現行のH100形を仕様変更なくそのまま投入しかねないのではないか」などさまざまな声が筆者のもとに寄せられた。
(了)