Yahoo!ニュース

藤井聡太七冠、叡王挑戦権獲得に向けて会心の勝利 本戦トーナメント1回戦で増田康宏八段を降す

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 2025年1月8日。東京・将棋会館において、第10期叡王戦・本戦トーナメント1回戦▲藤井聡太七冠(22歳)-△増田康宏八段(27歳)戦がおこなわれました。


 10時に始まった対局は16時52分に終局。結果は111手で藤井七冠の勝ちとなりました。藤井七冠は伊藤匠叡王(22歳)へのリターンマッチに向けて大きな勝利をあげました。

 本戦1回戦の以後の日程は以下の通りです。

1月9日 永瀬 拓矢九段-黒沢 怜生六段 東京

1月11日 斎藤慎太郎八段-大橋 貴洸七段 大阪

1月20日 豊島 将之九段-青嶋 未来六段 東京

1月22日 木村 一基九段-戸辺  誠七段 東京

1月23日 阿久津主税八段-狩山 幹生五段 東京

1月24日 鈴木 大介九段-黒田 尭之五段 東京

1月27日 糸谷 哲郎八段-本田  奎六段 大阪


 藤井七冠は木村九段-戸辺七段戦の勝者と2回戦で対戦します。

新年、新将棋会館での対局


 1月6日、藤井七冠は地元の名古屋将棋場でおこなわれた指し初め式において、次のように語っていました。

藤井「今年も新しいことに挑戦していくことを恐れずに、しっかりと実力を高めていけるように取り組んでいきたい。そうした一年にしたいなと思っています」 


 1月8日、本局は東京・千駄ヶ谷の新しい将棋会館でおこなわれました。藤井七冠、増田八段ともに、ここで公式戦を指すのは初めてです。

藤井「すごく対局室もきれいになって。改めて、すごくいい対局室、対局場になったのかなというふうにも感じましたし。その中で、自分自身も集中して、よい状態で対局に臨めたかなというふうに感じております」

 振り駒の結果、先手は藤井七冠。戦型は角換わり腰掛け銀となりました。後手の増田八段は工夫の駒組を見せます。

増田「後手番だった場合はちょっと、いつもとは違う形を指してみたいなとは思っていたんですけど」

藤井「けっこう序盤から、あまり指したことのない展開になって。序盤戦がうまくいってなかったような気がします」

 34手目、増田八段が自陣四段目に角を据えたのに対して、藤井七冠が角を合わせます。多くの観戦者にとっては、目新しく映る指し方でした。

藤井「△6四角に▲7五角と合わせてみたんですけど。その7五歩の形がキズになってしまうおそれもあるので。そのあたりが判断の難しいところかなというふうに思っていました」

 43手目、藤井七冠は4筋で歩をぶつけて仕掛けていきます。以下は中盤の戦いとなりました。

 藤井七冠の飛車が前線に出てきたところで、54手目、増田八段は強く銀を上がり、カウンターに出ます。

藤井「強く△3五銀と上がられて。こちらも飛車を引く手だと、ちょっと押さえ込まれてしまいそうな感じがしたので▲3四飛車としたんですけど。ただ、やっぱり飛車が本譜のような感じで取られてしまう形なので。どういうふうに形勢判断するか、難しい局面かなと思っていました」

 中段でのやり取りでは、駒割は飛と角銀の交換で、藤井七冠が駒得。増田八段も手にした飛車をすぐに藤井陣に打ち込んで香を取り返し、形勢は不明かとも思われました。

藤井「飛車角交換になったあたりの形勢判断もかなり難しいところかなという感じがしましたし。全体としてそういう判断に悩む局面が多かったかなと思います」

 一方で増田八段は局後にこの順を反省していました。

増田「本譜の飛車角交換の順がけっこう難しいかなと思っていたんですけど。そうなってみると、本譜は一方的にわるくなってしまったので。ちょっとそのあたりの形勢判断が間違っていたのかなという気がします」


藤井七冠、完璧な勝利


 増田八段は攻めを続けたものの、藤井玉は堅く、なかなか届かない形です。

増田「(形勢がよくないと感じたのは68手目)△4七香車と打って▲5八金と寄られて。▲6八金と金をくっつけられて。(73手目)▲7四歩と突かれたあたりで・・・。そうですね。本譜も入玉できないですし。攻め合いでも堅さで負けているので。そのあたりでかなり厳しくなったかなという気がしました」

 増田八段からの攻めが一段落したあと、藤井七冠は7筋の歩を突いて反撃に出ます。序盤で損得が微妙だった形が、見事に活きる進行となりました。

 増田八段は入玉を含みとして、玉を上部へと逃げていきます。互いに持ち時間も少なくなり、波乱があってもおかしくはなさそうなところ。しかし藤井七冠の指し回しは、終始完璧でした。

藤井「(97手目)▲4二馬と切って(1枚の馬を金と交換して、もう1枚の馬を)▲5三馬と入ったあたりで、攻めがつながりそうな形にはなったかなというふうに思いました」

 103手目。藤井七冠は自陣二段目に金を打ちつけます。これが相手玉の進出をはばむ決め手となりました。さらにもう1枚の金を打ったところでは、藤井陣(四段目まで)に、金4枚、銀3枚が並ぶ形に。最終111手目の歩打ちまで、流れるような手順で勝利へと結びつけました。

藤井「作戦の面でなにかこちらの方から、すごく工夫をしたという感じではなかったんですけれど。ただ、けっこう早い段階から経験のない形で。そういう局面に対して、いろいろ考えていけたのは、収穫になったかなとは思います」

 藤井七冠はあと3勝で叡王挑戦権獲得となります。

藤井「まだ挑戦を意識するような段階じゃないかなとは思っているので。また一局一局、がんばっていきたいと思います」

 増田八段にとっては残念な敗戦となりました。

増田「やってみたかった作戦はできたんですけど。中盤以降、難しい局面もあったかもしれないので。そのあたりの力不足を感じました」

2月からは棋王戦五番勝負

 両者の対戦成績は藤井6勝、増田1勝となりました。

 両者は2月から棋王戦五番勝負を戦います。増田八段はこちらでも、藤井七冠の八冠再独占を阻める立場にあります。

増田「今日の対局は藤井さんとの久しぶりの長時間の対局だったので。そういった意味で、角換わりの将棋を経験できたのは、すごいよかったかなとは思いますね2月はまだ時間があるので、もっと準備をして、いい将棋を指したいなと思っています」

 藤井七冠の今年度成績は28勝9敗(勝率0.757)となりました。


 増田八段の今年度成績は19勝6敗(勝率0.760)。本局では敗れはしたものの、依然ハイアベレージです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

松本博文の最近の記事