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新年の大一番は角換わり腰掛け銀に 叡王戦本戦トーナメント1回戦▲藤井聡太七冠-△増田康宏八段

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 2025年1月8日10時。東京・将棋会館において、第10期叡王戦・本戦トーナメント1回戦▲藤井聡太七冠(22歳)-△増田康宏八段(27歳)戦が始まりました。


 新しい年に、新しい将棋会館でおこなわれる大一番。まず注目されたのは振り駒でした。番勝負とは違い、トーナメントではその都度、振り駒によって先後が決められます。「完全情報ゲーム」の将棋は、理論的には「運」(うん)の要素が介在しないゲームです。しかし振り駒だけは運ともいえます。

 記録係が藤井七冠の側の歩を5枚取って振った結果、畳の上には「歩」が3枚、「と」が2枚出て、先手は藤井七冠と決まりました。

 藤井七冠はグラスに注がれた冷たいお茶を一服したあと、初手、飛車先の歩を突きます。

 叡王戦本戦の持ち時間は各3時間で、チェスクロック方式。序盤は両者ともによどみなくすらすらと進めていき、戦型は角換わり腰掛け銀となりました。

 34手目、増田八段は7分考えて、自陣四段目に角を据えます。対して藤井七冠は6分で、増田八段の離席中、角を合わせます。再度の角交換によって先手7筋の歩が五段目に伸びる、目新しい指し方。対して、盤の前に戻ってきた増田八段の表情は変わりません。

 11時35分現在は、藤井七冠が41手目を考慮中。まだ序盤の段階で、形勢は互角です。

 12時からは40分間の昼食休憩。通例では夕方頃の決着となります。


八冠チャレンジのトーナメント

 藤井七冠にとって、2023年の王座戦挑戦者決定トーナメントは「八冠チャレンジ」を目指す戦いでした。

 日程は以下の通りでした。

1回戦 5月10日 中川大輔八段 東京

2回戦 6月20日 村田顕弘八段 大阪

準決勝 6月28日 羽生善治九段 東京

 挑決 8月4日 豊島将之九段 大阪

 2回戦の村田顕弘六段戦は必敗に追い込まれてからの大逆転。ほとんどの棋士に対して大きく勝ち越している藤井七冠であっても、一番勝負の積み重ねであるトーナメントを勝ち抜くことは、そう容易ではないことが示されました。

 挑戦者決定戦の豊島九段戦も大変な名局で、結果は159手で藤井七冠が勝利。永瀬拓矢王座(当時)への挑戦権を獲得しました。五番勝負は3勝1敗で藤井挑戦者が制し、全八冠を制覇しています。

 藤井八冠(当時)は2024年、叡王戦五番勝負で伊藤匠七段に2勝3敗で敗退。八冠の一角を崩されています。本局(増田八段戦)はリターンマッチ、八冠再挑戦につながるかどうかという、大きな一番です。


 タイトル戦番勝負は各地を転戦しておこなわれます。公式戦対局の多くがタイトル戦番勝負の藤井七冠。挑戦権を目指す戦いは、2023年8月4日の王座戦挑決(豊島九段戦)以来、523日(1年5か月4日)ぶりとなります。

 藤井七冠が東京・将棋会館の特別対局室で指すのは、旧会館での2023年6月28日の王座戦準決勝(羽生九段戦)以来、560日(1年6か月11日)ぶりです。

 藤井七冠の東京・旧会館での最後の対局は2025年9月27日、地下1階のスタジオで収録された銀河戦準決勝・丸山忠久九段戦でした。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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