いまさらながら……2017年夏の甲子園、名采配をプレーバック。(その9・盛岡大付)
▼第2日第1試合 1回戦
作新学院 100 000 000=1
盛岡大付 010 030 00x=4
「1回のチャンスで1本出ていれば……直球とスライダーをいいところに決められました」
敗れた作新学院(栃木)の小針崇宏監督はそう語った。栃木大会を7年連続で制し、夏連覇への挑戦権を得たが、わずか2安打。盛岡大付(岩手)の先発・平松竜也の力投に、1点に封じられた。その1点も、初回1死満塁から暴投で得たもの。そこで追加点を挙げていれば、確かに展開は違っていたかもしれない。だがそれよりも、「相手とはスイングスピードの差を感じた」と小針監督がいうように、盛岡大付の力強い打線が目を引いた。
もともと盛岡大付、打撃には自信を持っていた。岩手大会では、6試合の平均得点が9、チーム打率.395。その強力打線が昨夏、今春に続く、岩手初の3季連続出場に導いた。とくに4ホーマーの植田拓を筆頭に、チーム10本塁打の長打力は特筆だ。花巻東に大谷翔平(現日本ハム)がいた時代、「2死からでも長打2本で点が取れる攻撃」を求めたのがその源流にある。さらに今チームは、センバツベスト8で敗退後、外野の前にちょこんと落とす「軽打練習」にも取り組んだ。「あと1本が出なかった、という言葉は使いたくない」という関口清治監督の考えからで、それが2死からのしぶとい得点につながっている。
そして盛岡大付は、甲子園に出場するときの調整方法を、昨年からがらっと変えた。関口監督によると、
「過去、打力に自信を持っていたチームでも、甲子園では思うように力を発揮できなかったんです。原因を分析してみると、県大会の疲れが甲子園で出ていたのではないか、と。ですから昨年は岩手を勝ったあと、バッティング練習よりもトレーニングを優先しました。県大会の間に落ちていた体力を、取り戻すためです」
すると昨夏の甲子園では、3試合で28得点。因果関係は定かじゃないにしても、トレーニングによって目減りしていた体力を回復すると、確かに打線は力を発揮してくれた。だから今年も、調整は同じである。出場が決まると、甲子園入りするまで、岩手大会の期間中に二の次だったトレーニング、走り込みをみっちり。選手には酷だ。せっかく甲子園行きを決めたのに、なんでまたこんなに苦しいことを……という反感も、技術練習を後回しでいいのかという懐疑もあっただろう。
気づき、感じて、動く。"気感動"がテーマ
だが植田や比嘉賢伸といった主力は、前年夏に効果を実感している。また、「ふだんの練習は甲子園に行くためだけじゃないだろう。勝つためじゃないか」(関口監督)というモチベーションが、単調な真夏のトレーニングに耐えさせた。一番を打つ林一樹はいう。
「県大会のあとトレーニング期間があったおかげで、筋力は戻っているし、スイングスピードも上がりました。確実に、効果はあります」
1対1と同点の5回。盛岡は1死からこの林のものを含む5連打で大きな3点を加えたが、作新・小針監督が脱帽した「スイングスピードの差」には、夏のトレーニングという下地があったわけだ。作新のエース・大関秀太郎は、こう語る。
「自分の調子は悪くなかった。だけど、甘い球はすべて痛打されました」
かと思うと、打て打ての強打ばかりではない。2回の同点は2死一、二塁から、二塁走者の小林由伸がスルスルと三盗に成功し、後続の臼井春貴が三遊間を破って……と足をからめてのものだ。関口監督はいう。
「"気感動"というのがチームのテーマなんです。日常からゴミが落ちていることに気づき、かたづけようと感じ、実際に動く。これは野球にも通じることで、小林の三盗はまさにそう。相手投手が無警戒だと"気づき"、いけると"感じて"、動いたんでしょう」
盛岡大付はその後も、2回戦では松商学園(長野)を下すと、済美(愛媛)との3回戦は、1点差の9回に植田が同点ホームランを放ち、10回には2打席連続となる3ランで劇的に勝負を決めた。8強だった今春に続き、夏のベスト8は、チーム最高成績である。