ノート(192) 受刑者の能力差や力関係が示される「塀の中」の大運動会
~工場編(20)
受刑148/384日目
台風が直撃
この日は静岡に台風が上陸したため、朝から雨や風が激しく、午後3時ころには大荒れとなり、作業を中止して早足で舎房に戻った。それでも入浴日なので、居室で一息ついたあと、隊列を組んで浴場に向かったが、その途中、「バチン」という大きな音がし、停電になった。
浴場も真っ暗であり、急きょ防災用のガソリン発電機が用意され、そこから電力をとって簡易のクリップライトに点灯し、排ガスと騒音、薄暗さの中で入浴を行った。全体で手早く済ますため、他の工場の受刑者と合同の「芋洗い」状態だったが、非常事態であり、警備隊の職員も興奮し、いつになく声を荒げていた。
舎房に戻る際にグラウンドを見ると、ベンチの上の日陰用のすだれが風で吹き飛ばされ、バラバラになってグラウンドを舞っているほどだった。舎房に戻ってもずっと停電したままで、全く復旧の兆しが見えず、夕食後の時間には居室内がほとんど見通せないほどの暗さとなった。
刑務官もバタバタと走り回っており、監視が手薄で、もしこのタイミングで自殺したら、間違いなく成功するだろうと思われた。当然ながらテレビはつかず、真っ暗な室内で本も読めず、書き物もできなかったため、あきらめて早めに布団を敷き、横になった。
くしくも、僕の電撃逮捕はちょうど1年前のこの日のことだった。夜半、大阪拘置所の自殺防止房に放り込まれ、悪臭が漂う布団の上に寝転び、目を閉じたあの夜のことを思い起こした。時が経つのは本当に早い。
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