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自転車の飲酒運転で逮捕→「片足こぎだから運転していない」と弁解…セーフか?

前田恒彦元特捜部主任検事
(提供:イメージマート)

 新潟で興味深い事件があった。自転車を飲酒運転したとして現行犯逮捕された女が「片足こぎだから運転していない」と弁解し、運転行為そのものを否認しているという。

どのような事案?

 報道によると、11月10日未明、パトロール中の警察官が警察を避けるように脇道に入った自転車を発見し、職務質問した。飲食店従業員だという52歳の女から酒の臭いがし、飲酒検知の結果、基準値を超えるアルコールが検出された。女は酒気帯び運転の容疑で現行犯逮捕され、酒を飲んでいたという事実については認めた。しかし、片足こぎをしていたから、自転車を運転していないと主張している。

 この女の「片足こぎ」がサドルにまたがって片足だけでペダルを踏み降ろし、すぐに蹴り上げる動作を続ける一方、残りの片足は全く使わないというものだと、かなり体力を消耗する。競技用自転車のペダリング訓練などで用いられるやり方だ。

 むしろ「自転車を運転していない」という趣旨の弁解だから、「ケンケン乗り」と呼ばれるものではないか。サドルにはまたがらず、両手でハンドルを握り、片方の足だけをペダルにかけながら、もう片方の足で地面を「ケンケン飛び」のような形で蹴り、前に進むというものだ。

「片足こぎ」だとセーフか?

 11月1日に改正道路交通法が施行され、自転車で酒気帯び運転に及んだら最高で懲役3年、罰金だと50万円以下に処されることになった。問題は「運転」とはどのような行為を意味するのかだが、道路交通法には定義規定が置かれている。道路において「その本来の用い方に従って用いること」だ。

 そもそも道路交通法は「自転車」について、レールにより運転するものなど一定の例外を除き、「ペダル…を用い、かつ、人の力により運転する二輪以上の車」などと定義している。

 そうした自転車の本来的な機能や道路における危険防止といった道路交通法の趣旨に照らすと、「片足こぎ」も自転車の「本来の用い方」の一つにほかならず、「アウト」ということになる。むしろ自転車が登場した19世紀には「ケンケン乗り」のほうが通常の乗り方だった。

 自転車に乗る際の一連の動作のうち、いつの時点で運転したと認定され、既遂になるのかについては、自動車の飲酒運転に関する最高裁の判例が参考になるだろう。発進操作を完了すればアウトであり、実際に発進することまでは要しないという。

 なお、道路交通法では自転車を「押して歩いている者」は「歩行者」とされる。とはいえ、自宅までの距離が長ければ、最初こそ押して歩いていても、「疲れたから、ちょっとだけ乗ろう」という気持ちが芽生え、実行に移す可能性が高い。酒を飲むことが分かっているのであれば、最初から自転車で行くべきではない。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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