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できすぎたシナリオ以上の軌跡を描き続ける藤井聡太七段(17)竜王戦3組決勝に進出し師弟戦を実現させる

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 4月3日。東京・将棋会館において竜王ランキング戦3組準決勝▲藤井聡太七段(17歳)-△千田翔太七段(25歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は17時57分に終局。結果は75手で藤井七段の勝ちとなりました。

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 藤井七段はこれで竜王ランキング戦19連勝で3組決勝に進出。2組昇級を決めました。

 また杉本昌隆八段(51)との大舞台での師弟戦を実現させました。藤井七段は次戦、史上初の4期連続優勝をかけて、師匠と対戦します。

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藤井七段、強敵を相手に快勝

 藤井七段先手で、戦型は相矢倉に。藤井七段は矢倉の銀を中央に進めて攻勢を見せます。

 千田七段は引き角から飛車先の歩を交換しました。41手目、藤井七段は強く角の退路を立ち、午前の早い段階で、大決戦へと突入しました。

藤井「けっこう激しい展開になって、よくわからなかったです」

 千田七段は角損の代償に飛車を藤井陣に成り込みました。強豪の千田七段が選んだ順です。なるほど、観戦者にはそれで大変に見えました。藤井陣は玉形がわるく、あっという間に寄せられそうです。

 昼食休憩後に指された53手目。藤井七段はじっと金を引きました。これがさすがの好手です。飛の横利きを通して受けつつ、反撃の順を見せています。これでわずかに藤井七段がリードを奪いました。

 千田七段には誤算があり、そこで形勢を損ねてしまい、以後は劣勢が続いたと感じていたそうです。

 藤井七段は飛車を転回して千田陣に成り込みます。千田玉は金銀3枚健在の矢倉城に逃げ込み、難しそうに見える終盤戦に入りました。

 「難しい」というのは多くの観戦者の主観です。しかし千田七段は既に、そうは思っていなかったようです。

千田「ちょっと、午前中で将棋が終わってしまいましたね。そう思って、あとは半分形作りの感じではありました」

 藤井七段は先まで見通した上で、歩頭に桂を打ち捨てる手筋の寄せを放ちました。それで千田玉は受けが難しくなります。

 対して千田七段に寄せのターンが移った時、藤井玉はどれだけの耐久力があるか。

 千田七段もまた、歩頭に桂を打ちます。これが盤上下段にいる藤井玉への王手となっています。この王手に対して、藤井玉はひらりと身をかわしました。角を捨てる代償に、自玉が安全となっています。

「勝ちになったと思ったところはなかったです」

 藤井七段自身は局後にそう語っていました。75手目、藤井七段は自陣にがっちりと銀を受ちました。時間は大差で千田七段が残しています。一方で盤上の形勢は、客観的に見れば藤井七段勝勢のようです。

 そのまま18時からの夕食休憩に入ろうかというところで、千田七段が盤側の記録係に声をかけました。

「記者室の方に声をかけて」

 これは投了予告でした。そして17時57分になったら告げるようにも頼みました。

 そして17時57分。千田七段は駒台に手を置き「負けました」と一礼。夕食休憩前に終局となりました。

シナリオでは描けない師弟決勝実現

藤井「竜王ランキング戦という大きな舞台で戦えることは非常に楽しみです」

 藤井七段は決勝で師匠と戦うことについて、そう述べていました。

「杉本-藤井の2度目の師弟戦が、3組決勝で実現すればドラマチックだな」

 3組の表が発表された際、多くの人がそう思ったはずです。続けてまた、こうも思ったかもしれません。

「竜王ランキング戦デビュー以来19連勝で、史上初の4期連続優勝まであと1勝。そこで立ちはだかるのが、少年時から成長を見守ってきた師匠。ははは。いやいや、そんなまさか」

 そのまさかが、本当に実現してしまうとは・・・。

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「映画、ドラマ、小説、漫画などの創作物でそんな筋書きにしたら、設定盛り過ぎ、リアリティなさ過ぎなので、企画段階でボツにされる」

 藤井七段のこれまでの軌跡を語る際、何度もそういうことが言われてきました。しかしそのリアリティのないことが、次々と現実になっていく。今回の師弟戦実現もまた、同様でしょう。

 それはもちろん、藤井七段だけではなく、師匠の杉本八段も強いからこそ実現されました。師匠は村山慈明七段、行方尚史九段、菅井竜也八段を相手に、見事な勝ちっぷりで決勝にまで駒を進めました。

 2018年度C級1組では、順位戦の規定により直接対決はなかったものの、9勝1敗の同成績で師匠と弟子が並び、順位の差で師匠が昇級するということがありました。師弟といえども、勝負の世界では互いに競い合う関係であることに変わりはありません。

 藤井七段は竜王戦3組決勝進出で2組昇級を決めました。

藤井「昇級が決まったことはうれしいですけれど、決勝が非常に大切なので、しっかり戦えればと思っています」

 3組決勝を制し本戦に進出するのは、はたして師弟のどちらでしょうか。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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