パブリックドメインなら何をしても許されるのか?:「星の王子さま」のケースを検討(追記あり)
「銀座ソニーパーク"星の王子さま"で荒れ模様」というニュースがありました。銀座ソニービル跡地に開園する銀座ソニーパークで限定販売される「星の王子さま」の"コラボ"商品(バオバブの苗木)が原作の世界観を壊す等としてファンが批判しているというお話です。
本記事では、この問題について知財的な観点から検討してみます。
ご存じの方も多いと思いますが、「星の王子さま」の作者であるサンテグジュペリは1944年に亡くなっていますので、戦時加算を考慮しても「星の王子さま」の日本での著作権保護期間は満了し、パブリックドメインとなっています。有名な表紙絵もサンテグジュペリ作なので同様にパブリックドメインとなっています。
これにより、既に多くの新訳本が出版されています。その中にはオリジナルの表紙絵を使っている物も数多くあります。著作物がパブリックドメイン化されたことで文化の発展に貢献している良い例かと思います。
さて、ここまでは著作財産権の話ですが、著作者人格権(特に同一性保持権)も考慮すると話は変わってきます。
死者に人格権はなく、また、著作者人格権は相続もできませんが、日本の著作権法には以下の規定があり、著作者の死後も著作者人格権は保護されます。
ただし、この規定に基づいて権利行使できる人は限られています(一部省略、強調は栗原)。
今回のケースに当てはめてみると、オリジナルの「星の王子さま」の表紙絵を改変していることが同一性保持権の侵害にあたるとするならば、(配偶者、父母、祖父母、兄弟姉妹はとっくに亡くなっていると思われますので)サンテグジュペリの孫(または、もし存命であれば子)であれば権利行使は可能です。なお、細かい話ですが、サンテグジュペリが遺言で別の人(典型的には財団)を116条第1項の請求を行なえる者として遺言で指定していた場合でも遺族(孫または子)が存命であることが権利行使の条件です(116条3項)。いずれにせよ、サンテグジュペリの子または孫がいない、または、現時点で存命でない場合には誰も著作者人格権に基づく請求をできる人はいないということになります。
次に、著作権ではなく商標権について見てみましょう。「星の王子さま」の商標登録はイラストのみのものも含め30件ほどあります(権利者は「ソシエテ プール ルーブル エ ラ メモワール ダントワーヌ ドゥ サンテグジュペリ “シュクセシオン ドゥ サンテグジュペリ ダゲ”」です、いわゆる「サンテグジュペリ財団」のことと思われます)。
結構広範囲で権利化されていますが、苗木(31類)を指定商品としては登録されていませんので、仮に無許諾で商品化されたものとしても、商標権の行使は困難でしょう。不正競争防止法による権利行使の余地はあるかもしれませんが、「星の王子さま」が(書名として著名なのは明らかとしても)商品等表示として周知・著名なのかは微妙なところかと思います。(追記:この”コラボ”商品は「オリジナルストーリー」も付いているようなので16類の「印刷物」等で権利行使可能ではとの指摘がありましたが、通常、書籍の題号は商標的使用ではないとされますので難しいのではと思います。)
今回のケースの詳細はわかりません(そもそも、遺族や商標権管理者の許諾を取ってやっているのかもしれません)が、著作物がパブリックドメインになったからと言って許諾なしに何をやってもよいかというと、そうでもないケース(特に改変を伴う場合)もあるという点を周知するために記事化してみました。
追記:ツイッターに現物の写真を(お店の許可を取って)掲載している方がいました。
これを見ると”le Petit Prince (r)”および”(c)LPP612 2018”の表記があります。ということで、権利関係はクリアーしている可能性が高そうです(もちろん、法的な話とは別にファンとして批評・批判するのは自由ですが)。
追記^2:販売店の判断で販売中止になったようです。法律的には(おそらく)問題なかったですが、世間の悪評を考えてビジネス的に好ましくないと考えたということでしょう。結局、法律論ではなかったですが、この記事自体は著作権切れの作品を利用する場合の注意点としてご参考にしてください。