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米2月失業率、大幅低下でも喜べない訳とは?

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

失業率推移=Briefing.comより
失業率推移=Briefing.comより

米労働省が8日に発表した2月の新規雇用者数(非農業部門で軍人除く、季節調整済み)は、前月比23万6000人増と、前月の11万9000人増の約2倍に急増し、市場予想の16万5000人増を大幅に上回った。また、雇用者数は全体として2010年10月以降、25カ月連続でプラスの伸びを続けている。

一方、失業率も前月の7.9%から0.2%ポイント低下の7.7%と、2008年12月以来の4年2カ月ぶりの低水準となった。これは2月の新規雇用者数の増加ペースが人口の自然増を吸収して失業率の上昇を食い止めるために必要な月平均12万5000人増を上回り、失業率を短期間でかなり低下させるために必要といわれる25万人増にかなり接近したためだ。

失業率の低下、FRBの金融政策変えるほどでない

しかし、失業率が7.7%に大きく低下したとはいえ、FRB(米連邦準備制度理事会)が今の金融政策を超低金利政策から利上げに転換し、量的金融緩和からも脱却する、いわゆる“出口戦略”に方向転換するほど改善しているわけではない。

FRBは出口戦略への転換を決める判断基準として、(1)失業率が6.5%を下回ること(2)1-2年先のインフレ率がFRBの長期達成目標(2%上昇)を0.5%ポイント超えない見通しであること(3)インフレ期待が抑制されていること―の3点を挙げているが、2月の失業率はこの6.5%の基準を依然として大幅に上回っている。失業率が2013年末までに、リセッション(景気失速)前の2007年12月の5%の水準に戻るには月平均40万人増が必要といわれるが、まだ、それにも程遠い状況だ。

また、今回の雇用統計で見つかった問題点は、労働力人口(就業者数と求職者数の合計)が前月比で13万人も減少し、労働市場への参加の程度を示す労働力人口比率(労働力人口を軍人除く16歳以上の総人口で割ったもの)も前月の63.6%から、32年ぶりの低水準の63.5%にまで低下したことだ。

これは求職者が減少したこと、言い換えると、就職難から仕事を探すことをあきらめた人が増加したことを意味する。米経済分析サイト、ブリーフィング・ドット・コムによると、仮に2月の労働力人口比率が前月と変わらなかった場合、失業率は前月と同じ7.9%にとどまったと指摘している。

今回、失業率が低下したのは、統計上、分母の労働力人口が増加(前月比0.1%増)する一方で、分子の失業者数が30万人も減少(同2.4%減)したためだ。統計上、職探しをあきらめている人は失業者として分類されず、反対に働く意思をもって仕事を探すようになれば失業者として分類される。このため、失業者数が減ったのは、職探しをあきらめた労働者が増えたためと見られる。

失業率については、米経済専門サイト、マーケット・ウォッチのレックス・ナッティング記者が8日付で、雇用統計で発表される表向きの失業率だけで判断すると誤解を招きやすい、と警鐘を鳴らしている。同記者によると、米国でリセッション(景気失速)が始まった2007年12月以前の労働人口比率は66.2%と高水準だったが、2月の雇用統計でもこの比率が続いていたと仮定すると、失業率は12.1%になるという。つまり、2月の失業率が7.7%に低下したとはいえ、それは求職を断念した人が増えたことによる労働人口比率の低下が要因なので素直には喜べないというわけだ。

また、“本当の失業率”を知りたければ、25-65歳の労働力人口の失業率を見るべきだとしている。同記者の試算によると、この年齢層の労働人口比率は77.5%と高いが、大半は求職を断念した労働者で、この年齢層の失業率は全体の失業率よりもおよそ2%ポイント高くなっており、政府はより一層の雇用創出対策が必要になる、と指摘している。

長期失業者比率、40.2%に上昇

また、失業状態の深刻さを示す6カ月以上(27週間)の長期失業者数は、前月の470万8000人から2月は479万7000人と、5.7%増加し4カ月ぶりの増加(悪化)となった。また、失業者全体に占める長期失業者の比率も前月の38.1%から40.2%に上昇。ただ、前年同月の水準(42.3%)は下回っているが、それでも、長期失業者数は依然高水準には変わりはない。

全体の失業者数は前月比2.4%減の1203万人となったが、2007年12月のリセッション前の水準(2007年11月時点で724万人)の1.4倍で、依然高水準。これは景気回復のペースが緩慢なため、民間企業の雇用が慎重になっているためだ。

広義の失業率、14.3%

一方、広義の失業率(狭義の失業者数に、仕事を探すことに意欲を失った労働者数と経済的理由でパート労働しか見つからなかった労働者数を加えた、いわゆる、“underemployed workers”の失業率)は前月の14.4%から14.3%にやや低下した。

しかし、正規雇用をあきらめて、やむを得ずパート労働者(involuntary part-time workers)となった数は前月の797万人から2月は799万人と、2カ月連続で増加している。1年前の813万人を下回っているものの、依然、高水準だ。

新規雇用者数は、2007年12月のリセッション入り以降、2008年と2009年で計866万人減少し、2010年に計102万人の純増が見られたにすぎない。2010年は月平均8万5000人の増加ペースだったが、2011年は210万人増となり、月平均では17万5000人増と、増加ペースは加速した。

2012年は217万人増(月平均18万1000人増)とさらに加速し、同年時点で計529万人の雇用が回復したものの、866万人の雇用損失を帳消しにするにはあと337万人の雇用増が必要となる。今年2月までの過去4カ月の月平均は約20万5000人増なので、このペースで行けば過去の雇用損失を完全に取り戻すことができるのは、今から約16カ月後の2014年6月ごろになる計算だ。

民間部門、24万6000人増=前月を上回る

話は新規雇用者数に戻るが、前月(1月)の雇用者数は速報値の15万7000人増から3万8000人も大幅に下方改定された。一方、前々月(昨年12月)は前回発表時の19万6000人増から21万9000人増へ、2万3000人の上方改定となった結果、前2カ月合計で1万5000人の下方改定となっている。

ところで、減少が続いている政府部門を除いた民間部門だけの雇用状況を見ると、2月は前月比24万6000人増と、市場予想の17万8000人増や前月の14万人増(改定前16万6000人増)を大幅に上回った。

これより先、3月6日に発表された政府の雇用統計を占う、大手給与計算代行会社ADP(オートマチック・データ・プロセッシング社)の2月のADP雇用統計(政府部門を除いた民間部門だけ)は前月比19万8000人増と、前月の21万5000人増(改定前19万2000人増)を下回り、20万人台を割り込んだ。

今回の政府統計の民間部門は24万6000人増だったので、このADP統計を上回っている。政府の雇用統計では、民間部門の昨年1年間の雇用増加数は224万7000人で、これは月平均18万7000人増となるが、2月分のデータはその水準を32%も上回っている。景気が2番底に向かわないためには、民間部門だけで月平均10万人増、さらに、景気回復が持続安定的に進むためには15万人増が必要と見られているが、現時点ではこれらの判定基準値は上回っているといえる。

一方、政府部門は前月比1万人減となり、昨年10月の5万7000人減から5カ月連続で減少している。

◎2月失業率は7.7%=1月7.9%

◎2月サービス産業就業者、前月比+17万9000人=1月+9万9000人

うち、小売業就業者は同+2万4000人==1月+2万9000人

専門・ビジネスサービス業は同+7万3000人=1月+1万6000人

教育・健康関連サービス業は同+2万4000人=1月+9000人

レジャー・接待業は同+2万4000人=1月+3万人

政府部門就業者数は同-1万人=1月-2万1000人

◎2月建設業就業者数、同+4万8000人=1月+2万5000人

うち、住宅建築関連は同+2300人=1月+800人

非住宅建築関連は同+6200人=1月+1300人

◎2月製造業就業者数、同+1万4000人=1月+1万2000人

うち、自動車産業、同+700人=1月+1400人

家具製造業、同+1300人=1月+1300人

◎2月1時間当たり賃金、23.82ドル=1月23.78ドル

◎2月週平均賃金、821.79ドル=1月818.03ドル

◎2月週平均労働時間、34.5時間=1月34.4時間

うち、製造業の週平均労働時間は40.9時間=1月40.7時間

◎2月週平均労働時間指数、97.8=1月97.3 (2007年=100)

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◎1月雇用者数、前月比+11万9000人へ下方改定=前回発表時+15万7000人

◎昨年12月雇用者数、前月比+21万9000人へ上方改定=前回発表時+19万6000人 (了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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