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【長崎県】九州商船におけるストライキについて

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 年末のこの時期に以下のニュースが配信されました。

九州商船ストライキ 可能性高まる 労使紛争、公的解決至らず

 このニュースの背景には、経緯があり、少し複雑なので、以下、解説します。

 登場するのは九州商船という会社と、全日本海員組合という労働組合です。

仕掛けてきたのは会社

 ことの発端は、これまで船員(=全員組合員)で構成していたジェットフォイル整備場の整備員を、陸上の従業員に置き換えるということを同社が提案したことに始まります。

 これに対し、組合側が「待った」を掛けているのに、一方的なスケジュールを提示して会社がこれを強行し始めました。

 その後、交渉は重ねられますが、会社は結論を変えることなく、どんどん既成事実を積み上げていきました。

 そこで、たまらず組合は、長崎県労働委員会に救済を求めることになります(その組合側の代理人の一人が私です)。

労働委員会で審議中も既成事実を積み重ねる

 労働委員会で審議中も会社は整備場の従業員の置き換えを進め、既成事実を積み上げます。

 その間に行われていた団体交渉で、組合側が、人件費等の問題であれば話し合いに応じるとの姿勢を見せるのですが、会社は、整備員がどの組合に入るかも重要な要素、と発言し、組合弱体化目的が大事な要素ということを口にしてしまいます。

組合差別をする会社

 ここで九州商船の組合事情がちょっと複雑なので解説しますと、船員は全日本海員組合(=ストしようとしている組合)、陸上の労働者は陸上の労組にそれぞれ加入することになっています。

 そして、ジェットフォイル整備場の整備員は、平成2年のジェットフォイル就航時から、全日本海員組合に所属していました。

 しかし、先に書いたとおり、これを会社が陸上の労働者に置き換えようとしているのです。

 しかも、本来、どっちの組合に入るかは労働者の自由なのですが、会社は新たに整備員として採用した労働者に対しては、陸上の労働組合のみを紹介し、加入用紙まで渡し、書かせていることも判明しました。

 組合が2つあるのに、1つの組合だけを紹介して加入用紙を交付し、書かせては、組合差別です。

会社が紛争を拡大させる

 そんなこともあり、組合は態度を硬化し、抗議の街宣活動を行っていました。

 ところが、街宣活動に会社は腹を立て、長年、船に乗らずにいた職場委員(会社の仕事に従事しつつ船員の苦情処理を行う役目の人)に乗船命令を出し、慣例を破ってきました。

 これに対して、組合も団体交渉上で撤回を求めるのですが、会社は姿勢を全く変えませんでした。

法律を完全に無視

 さらに、陸上の労働者として採用されたものの、海員組合に加入する者も現れ始めました。

 当然、組合はその者らに対して、会社と組合とで締結している労働協約にあるとおりの賃金の支払いを会社に求めます。

 しかし、会社は「個別合意が優先する」として、これを拒否しました。

 ただ、分かる人には常識なのですが、個別合意より有利な労働協約がある場合、協約が優先するというのが法律です(労組法16条)。

 つまり、会社は法律を完全に無視して強弁しているのです。

団体交渉の決裂とスト権確立

 会社は、次々と既成事実を積み上げ、不合理な施策を撤回せず、法律を無視する態度を変えないままですので、団体交渉は手詰まりとなっていきます。

 そして、ついに、10月4日に団体交渉は決裂します。

 10月22日には、組合は、

  1. ジェットフォイル整備場の問題
  2. 職場委員の問題
  3. 組合員に協約どおりの賃金を払わない問題

の3点でスト権を確立します。

長崎県労働委員会から救済命令が発令

 そのため、いつストに入ってもおかしくない状態となります。

 しかし、組合は軽々にストはできないので、会社の態度が変わるのを期待していました。

 そんな中、11月になって長崎県労働委員会から救済命令が発令されます。

 それが次の命令書です。 

'''長崎県労委平成28年(不)第1号不当労働行為救済申立事件命令書'''

 上記命令書にあるとおり、会社の交渉態度が不誠実とされ、陸上の組合に事実上加入させていたことも不当労働行為と判断されました。

 これに対し、会社は不服であるとして長崎地裁に取消訴訟を提起します。

 しかし、労働委員会の命令は訴訟を提起しても失効しませんので(労働組合法27条の12第4項)、当然、組合はその履行を会社に要求します。

 もちろん、会社はこれを拒否し、溝は埋まりません。

それでも会社は態度を変えない

 労働委員会の命令が出された後、会社はジェットフォイル整備場の件で、結論は変えない前提で組合に交渉を申し入れてきます。

 しかし、これでは労働委員会命令で不誠実交渉とされたことと変わってないとして、当然、組合は反発します。

 そして、12月5日、組合は、このままでは12月25日からストに入らざるを得ないことを公表します。

 これはメディアでも報じられました

 会社は、理由はよく分かりませんが、このストライキは違法ストだと主張します。

スト中の代替船員を募集する会社

https://twitter.com/furukawa1917/status/944828223417753600より
https://twitter.com/furukawa1917/status/944828223417753600より

 ストが行われると知った会社は、話し合いをするのではなく、なぜか代替船員を大々的に募集をしはじめます。

 しかし、ストの間だけ船員として雇うという究極の不安定雇用ですから、集まるはずもありません。

 また、操船は車の運転と違って、免許さえあれば誰にでもすぐできるというものではありません。

 この会社の姿勢は、スト破りというだけではなく、安全面でも大きな疑問があるものだと言わざるを得ません。

ストライキ禁止の仮処分を申し立てる会社

 その後も、会社の歩み寄りはないまま12月中旬になります。

 ストの可能性がいよいよ高まっていきます。

 その中で、長崎県労働委員会が50年ぶり(?)に、職権であっせんを行うと通知してきます。

 また、同じ頃、会社が、違法ストを主張して、ストライキ禁止の仮処分を長崎地裁に申し立てます。

 スト禁止の仮処分は、違法ストでないとまず認められませんが、今回のストには違法性はありません。

 したがって、長崎地裁での審尋では、会社の言い分は成り立たないことから、会社の申立が却下されることになりそうでした。

 しかし、会社は公的に負けるのを避けるためか、審尋のあった翌日である12月22日、ストライキ禁止仮処分の申立を取り下げます。

 ちなみに、この手続で会社が出してきた和解案がありますが、結論ありきの姿勢を変えないもので、歩み寄りのないものでした。

残念なあっせん案

 労働委員会のあっせんの方は、出されたあっせん案が、ストライキの目的のうち2つを見落としてしまっているものでした。

 これは会社としてはラッキーなものですが、組合が受け入れることができないものでしたので、12月21日、あっせんがあったその日に手続は終了しました。

本日からストライキ突入

 そして、冒頭のニュースとなります。

 会社も正式に25日からストライキのため運休となることを発表しています。

ご利用のお客様へ

本日、平成29年12月25日(月)の始発便から全日本海員組合のストライキにより全航路全便におきまして運休となることが決定しましたので、お知らせします。

ご利用のお客様には、多大なるご迷惑とご心配をお掛けすることになり、深くお詫び申し上げます。

出典:九州商船HP

労組批判はお門違い

 ストライキを起こすと、労組が批判されることがあります。

 しかし、憲法28条は、労働基本権の1つとして団体行動権を保障しています。

 そして、団体行動権の中心はストライキ権です。

 これは、使用者に対して劣位の立場に置かれる労働者が団結して、ストライキなどの団体行動を行うことによって、使用者と対等な地位を確保し、その生存権を守ることが目的とされる極めて重要な基本的人権です。

 他方で、ストライキ等の団体行動は、市民法秩序(所有権や契約の自由など)と緊張関係に立ちます。

 そして、時には市民らの生活に影響を及ぼすこともあります。

 ただ、現代社会においてはこれを受容していかなければ、労働者は自らの首を絞める結果となります。

ストライキを止める方法

 なお、このストライキはすぐに止めることができます。

 それは、会社が組合の要求を飲めばいいだけなのです。

 今回の組合の要求は特に大きなことを求めているわけでもありません。

 会社の決断しだいというところです。

五島産業汽船が九州商船のストライキに関連して特別ダイヤで運航するそうですので、利用者の方はそちらの情報もご確認ください。

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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