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近藤良平が演出・振付を手がける演劇とダンスを融合させた「導かれるように間違う」(松井周・作)が上演

新川貴詩美術/舞台芸術ジャーナリスト
左より宮下今日子、近藤良平、荒木知佳

 演劇とダンスが一体化した舞台作品というのがたまにある。

 この7月、彩の国さいたま芸術劇場で上演される「導かれるように間違う」も、その一種だと考えるのが自然だろう。というのも、劇作家・演出家の松井周が演劇とダンスを融合させた不条理劇を書き下ろし、コンドルズを率いる近藤良平が演出と振付を務めるのだから。

 だが本作は、「演劇か、それともダンスなのか?」というよりも、「演劇も! ダンスも!」といったニュアンスに近い。近藤と、出演者である宮下今日子と荒木知佳の話を聞いていて、そのように思えたからだ。

 まずは、リハーサルの様子について聞いてみた。

荒木 リハーサルではいろんな体の動きを試したりして楽しいですね。とにかくメンバーがみんな面白い。体も面白いし。見たことない体の動き方をする人がいたり。

近藤 今回の出演者は体が面白い人たちばかり。というか、もともと体が面白いように書かれた本(脚本)なんです。そういう、体の動きを面白がる感覚の持ち主たちを出演者として選び、一緒にクリエイトしていこうと思いました。

 で、今回の作品は松井さんと意気投合したところから始まりました。キャスティングを決めつつ、本が進んでいったので、あて書き(特定の俳優を決めて脚本を執筆すること)の要素もあります。

荒木 今回の作品は、何が起きるのか予想がつかなくて、つねに驚かされる。そういうところが面白い。

芝居好きもダンス好きも楽しめ、見たことないものが見られる

クラシックバレエで磨き上げた身体性を活かして舞台を中心に映画、ドラマでも活躍する宮下今日子
クラシックバレエで磨き上げた身体性を活かして舞台を中心に映画、ドラマでも活躍する宮下今日子

宮下 演出家や振付家として良平さんとご一緒するのは初めて。以前、カンパニーデラシネラの公演で良平さんが音楽を担当したことはありましたけど(「あらかじめ」、2011年再演)。

近藤 そうだった、そうだった!

宮下 今回、お話をいただいた時、即答でした。「絶対にやる〜!」って。というのも、初めて良平さんのダンスを見たとき、ああいう風に舞台に立ちたいなあと思って、ですからこの機会に、そのヒミツが知りたくて。良平さんが何を面白いと思ってリハーサルを見ているのか、その様子を私は見ています。

近藤 それ、スパイだよっ!

宮下 今回の作品は、お芝居が好きな方も踊りが好きな方も楽しめるし、どちらの方にも見たことないものが見られるかと。あと、音楽も普通の公演の使い方とは違うので、こちらにも注目して下さい。

何でもみんなで取り組み、みんなで意見出し合ってって進めていく

初出演・主演映画「春原さんのうた」でマルセイユ国際映画祭の俳優賞を受賞した荒木知佳
初出演・主演映画「春原さんのうた」でマルセイユ国際映画祭の俳優賞を受賞した荒木知佳

 今年4月、近藤は彩の国さいたま芸術劇場の芸術監督に就任。「ジャンル・クロス」というテーマを掲げた。では本作では、どうように演劇とダンスがクロスするのか?

近藤 演劇とダンスをあんまり分けて考えてないんだけど、ただダンスは周囲360度のどこから見られても成り立つ。一方、演劇の場合、台詞は口から発するので方向があって、どこかを正面としなきゃいけない。その違いを面白がってるところがあって。そこで今回はステージをU字型にして、三方向の客席でステージを囲んで上演します。

荒木 ですから、舞台のどこに立って、どっちを見ればいいのか、よくわかんなくて。他の出演者やスタッフと相談しながら進めています。

近藤 今回の出演者はみんな声にも特徴がある。声で選んだわけじゃなくて、たまたまですけど。そのせいか、台詞をしゃべってるときに、音の響きとしても楽しめる。

 で、演劇とダンスがクロスするだけじゃなく、今回は音楽との関係も重視してます。音楽の森洋久は中学校の同級生。音楽家というより超天才な音の研究者なんですが、今回は音の新しいアプローチを試したい。

 なお、森は東京大学総合研究博物館の准教授でもある。

 それから、近藤が振付家として評価が高いのは周知の通りだが、では、どのような演出を見せるのか?

近藤 先ほどデラシネラで音楽を担当した話がありましたが、振付も音楽も僕の中では区別があまりない。だって自分が振付した作品で、自分が演奏するときもあるし。だから、今回も演出をしてるという思いはそんなになくて。ただ、責任はちゃんと持ちたいと思います。

宮下 演出家としての良平さんは何でも聞いて下さるし、「こうしろ、ああしろ」とはまず言わない方で。

荒木 いや、もうサイコー! とにかく何でもみんなで取り組んで、みんなで意見出し合ってって進め方は初めて。

近藤 もともとそういう作り方が好きだから。「なんか、よくわかんないなあ」と言うと、みんながアイデア出してくれますし。みんなで想像を膨らませて一緒に取り組んでいくのが性に合ってて。

1996年にダンスカンパニー、コンドルズを結成。以来、全作品の構成・振付を手がける近藤良平 photo takasix(このページすべて)
1996年にダンスカンパニー、コンドルズを結成。以来、全作品の構成・振付を手がける近藤良平 photo takasix(このページすべて)

ジャンル・クロスⅡ「導かれるように間違う」

日時:2022年7月10日(日) 17時

         11日(月) 14時

         12日(火) 14時、19時

         13日(水) 休演

         14日(木) 14時

         15日(金) 14時

         16日(土) 14時、19時

         17日(日) 14時

         18日(月・祝) 14時

会場:彩の国さいたま芸術劇場 小ホール

料金:一般5000円、U-25:3000円(公演時25歳以下、要身分証提示) 

   ※いずれも全席指定

作:松井周

演出・振付・美術:近藤良平

出演:成河、亀田佳明、宮下今日子、荒木知佳、中村理、浜田純平

【北九州公演】

日時:2022年7月31日(日) 14時

会場:北九州芸術劇場 中劇場

料金:一般5000円、ユース3000円(24歳以下、要身分証)、高校生〔的〕1500円(要学生証)

   ※いずれも全席指定

美術/舞台芸術ジャーナリスト

出版社に勤務した後、執筆活動を開始。国内外の現代アートをはじめ演劇やダンスなど舞台芸術に関して、雑誌や新聞、ウェブメディアなどに執筆。主な著書に『残像にインストール 舞台美術という表現』(光琳社出版)、主な編書に『蓬莱山 蔡國強と大地の芸術祭の15年』(現代企画室)などがある。早稲田大学第一文学部卒業、同大学院情報通信専攻修了。多摩美術大学演劇舞踊デザイン学科非常勤講師。プロフィール画像撮影:松蔭浩之

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