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「野口英世アフリカ賞」授賞式間近。エボラ対策新体制で総指揮をとるのは

谷口博子東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学 博士(保健学)
エボラワクチンの準備をするウガンダの医療従事者(2019年6月)(写真:ロイター/アフロ)

コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)で流行が続くエボラウイルス病(以下、エボラ)をめぐる状況は、ここ数週間、めまぐるしく変化している。

首都キンシャサでは、年初に着任したフェリックス・チセケディ大統領が、エボラ対策の新体制を7月20日に発表。二日後、それまで指揮命令系統のトップに就いていたオリィ・ルンガ・カレンガ前保健相が辞任した。保健省から毎日配信されていた感染者数などを知らせるリリースは7月24日から1週間滞り、省内の実務上の混乱ぶりが伺えた(現在も不定期)。

新体制では保健省ではなく、大統領府直下に専門家委員会が設置され、保健省、緊急人道省、内務省、防衛省など複数の省庁が連携を図る。社会的政治的問題が複雑に絡み合った今回のエボラ流行に対して、より多角的に取り組む体制が整備された。

新体制で指揮をとるのは、コンゴ国立生物医学研究所(INRB)所長でキンシャサ大学医部教授のジャン=ジャック・ムエンベ=タムフム医師だ。1976年にエボラウイルスを発見したチームのひとりで、エボラ等の研究と疾病対策の人材育成における長年の功績をたたえて、今年、「第3回野口英世アフリカ賞(医学研究分野)」を授与されることが決まっている。今月末に横浜で開催されるアフリカ開発会議(TICAD7)に合わせて来日し、授賞式が開催される運びだ。

移動制限は疾病の制御能力も奪い、さらなる事態の悪化に

他方、エボラの感染が続くコンゴ東部では、大都市ゴマで7月15日に最初の感染者が確認され、騒然となった。以降、4人の感染が確認され、うち、第1・第2感染者は残念ながら先月末までに亡くなっている。大都市での流行をくい止めるため、現地では接触者の追跡や大規模予防接種などの対策が、背水の陣で行われている。

ゴマでの感染確認は、周辺諸国での対策強化も後押しした。従来、ウガンダやルワンダなどコンゴ東部と隣接する国々は国境での感染検査や最前線で勤務するスタッフへの予防接種などを続けていたが、モザンビークのように直接国境を接していない国でも、間にあるマラウイとの国境に新たに検査所を設け、渡航者の感染確認を開始した。

ルワンダは8月1日に感染対策としてコンゴとの国境を封鎖したが、コンゴや国際社会からの批判を受け、数時間後に封鎖を解除した。その後6日に改めて両国の保健相が国境管理の強化やサーベイランス(感染症の調査監視)の協力などで合意、共同声明を発表している。

日本では8月4日のエボラ感染疑いの発表から陰性判明の一連の動向の中で、政府が水際対策にいっそう注力していくことを確認。他方、中東では、9日から始まったサウジアラビアのメッカ大巡礼「ハッジ」で、サウジ政府がコンゴからの入国を認めない措置に踏み切った。

2013~2016年の西アフリカでのエボラ流行時にも、一部の国が移動制限や航空機の往来を中止する動きは見られた。しかし、医療・非医療の支援のみならず、食料・生活物資の供給や、感染国・周辺地域の経済活動を抑止するようなことは、疾病の制御能力も奪い、さらなる事態の悪化を招くとして、世界保健機関(WHO)は、移動や貿易などに制限を設けないよう勧告している。今回、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言した際にも、コンゴを孤立させない点が繰り返し強調された。

「トレーナー向けのトレーニング」で対策人材の裾野を広げる

感染拡大の防止策がコンゴ国内外で広がる中、サーベイランスや症例管理、死因の確定などを担う人材の数の確保も鍵となっている。コンゴ保健省の疾病管理部でフィールド疫学のトレーニングをとりまとめる疫学者のLさんは、保健省が医療従事者を採用し、キンシャサ大学が外国からの資金協力を得てトレーニングを実施している仕組みを説明してくれた。6月からはゴマで「Training for trainers(トレーナー向けのトレーニング)」を開始し、さらに人材の裾野を広げている。

今回のエボラ対策で、現地住民の理解と対策受け入れがいかに要であり、かつ困難かはこれまでの回でもお話してきた。これはLさんたちが行う疫学調査でも同じことだ。だが今回の研究で、保健省、国際機関、政府系援助機関、NGOなど対策に関わる多くの方から聞き取りを行う中で、地元住民を批判する人は皆無だった。歴史的・政治的にもとても繊細な事柄で、軽々しく意見を言えることではないのも確かだが、皆同様に、地元の理解とセキュリティが最大の課題と言いながらも、住民に対してはむしろ同情的な声が多数を占めた。感染症専門家のLさんは、エボラに対策が集中することで、元々国内で深刻なコレラやはしかの対策が影響を受け、地元の人々がより苦しむことを懸念していた

新体制下での、現地との連携を軸とした新戦略が、早急に実を結ぶことが期待されている。

東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学 博士(保健学)

医療人道援助、国際保健政策、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ。広島大学文学部卒、東京大学大学院医学系研究科国際保健学専攻で修士・博士号(保健学)取得。同大学院国際保健政策学教室・客員研究員。㈱ベネッセコーポレーション、メディア・コンサルタントを経て、2018年まで特定非営利活動法人国境なき医師団(MSF)日本、広報マネージャー・編集長。担当書籍に、『妹は3歳、村にお医者さんがいてくれたなら。』(MSF日本著/合同出版)、『「国境なき医師団」を見に行く』(いとうせいこう著/講談社)、『みんながヒーロー: 新がたコロナウイルスなんかにまけないぞ!』(機関間常設委員会レファレンス・グループ)など。

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