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長身のナイスガイ、元楽天のルーク・ファンミル死去

阿佐智ベースボールジャーナリスト
2013年WBCでのルーク・ファンミル投手の雄姿(写真:ロイター/アフロ)

 訃報が入ってきた。楽天で2014年シーズンを送ったルーク・ファンミル投手が34歳の若さであの世に旅立ったという。

 昨冬、彼はオーストラリアン・ベースボール・リーグのブリスベン・バンディッツでプレーしていたのだが、当地での休日のトレッキング中、大きな事故に遭い重傷を負っていた。既報では、母国オランダで死亡事故に遭ったというのだが、詳細は執筆時点、伝わっていない。

 オランダ生まれの彼は、高校卒業後、現地トップリーグ、フーフトクラッセのHCAWでプレーしているところをスカウトされ、ミネソタ・ツインズと契約、2006年から2013年まで4球団のマイナーでプレーし、3Aまで上り詰め、8シーズンで12勝26敗の星を残した。この間、2008年の北京五輪、2013年のWBCなどの主要国際大会のオランダ代表チームのメンバーにも選ばれ、WBCでの来日時には、長身から繰り出される速球が観ている者の目をひきつけた。この速球に魅力を感じたのはスカウトも同様で、2014年には楽天が彼と契約を結んだ。

 日本の一軍では結局、7試合の登板に終わり、契約を解除されたが、2015年はオランダに帰り、強豪チーム、キュラソー・ネプチューンズのマウンドに立ち、その後、ツインズに復帰、翌2016年まで3Aのロチェスターでプレーした。また、このシーズンオフからはオーストラリアのウィンターリーグでもプレー、昨冬はそれまでプレーしていたアデレード・バイトからブリスベン・バンディッツに移籍、リリーフとして活躍していた。シーズン途中に前述の事故があり、途中入院でチームから離れたが、終盤に復帰、レギュラーシーズンでは3セーブを挙げ、プレーオフのマウンドにも立っていた。しかし、帰国後、この夏のフーフトクラッセには参戦していなかったという。

2017年夏、在りし日のルーク・ファンミル投手(ネプチューンズ・当時)筆者撮影
2017年夏、在りし日のルーク・ファンミル投手(ネプチューンズ・当時)筆者撮影

 実は私は2017年夏、オランダで彼に会っている。楽天を去った後も、2015年のプレミア12、2017年のWBCで代表チームのメンバーに選ばれた彼は、オランダナンバーワン投手の名をほしいままにしており、日本から取材に訪れた私に気さくに対応してくれた。これから始まろうとする夏の甲子園高校野球の存在には「彼らは朝から晩まで野球をしてるんだろ」と驚きを隠さなかったが、「いつかは日本に戻りたい」と母国で腕を磨いていた。夏のシーズンが終わるとオーストラリアに行っていたのも、まだまだ向上していけると思っていたからに違いない。昨年末の事故の際はかなりの重傷であるという情報もあり、心配していたのだが、幸い一命をとりとめた上、フィールドへの復帰も果たせた。しかし、この春からの母国でのプレーをキャンセルしていたということは、やはり後遺症があったのかもしれない。

 

 今回の彼の死を知って、旧知のヨーロッパ野球関係者やオーストラリアでの所属チーム、ブリスベンのスタッフに連絡してみたが、彼らもファンミルの突然の訃報に驚き悲しむだけで詳しい情報はもっていなかった。

 この秋には、東京五輪の予選も兼ねたプロ中心の国際大会、プレミア12が行われ、第2ラウンド(スーパーラウンド)以降の会場は日本となっている。オランダは、オープニングラウンドをドミニカ、アメリカとともにメキシコで戦うことになっていたが、この4か国中2位以上になって日本にやってくる確率は決して低くない。今や世界の強豪となったオランダナショナルチームに彼も当然のように入ると思っていただけに、日本での彼の雄姿をもう見ることができない現実に呆然とするばかりである。

 ファンミルと出会った2017年の夏、イタリアでは元横浜・ロッテのベネズエラ人、ホセ・カスティーヨにも会った。彼もまた、昨冬母国ベネズエラで非業の死を遂げたが、なんらかのかかわりがあった選手の若くしての死にはなんともやりきれない気持ちがする。

 個人的には、もしオランダがスーパーラウンド進出を決め、来日した時は、長年オランダナショナルチームを支えてきた彼の死を悼むなんらかのセレモニーをして欲しいと思う。

 合掌。

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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