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brainchild’s 15周年記念ツアーで感じた進化と深化 第7期。の薫り高きセッションに酔う

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
写真提供 ソニー・ミュージックレーベルズ/アリオラジャパン(撮影/岩崎真子)

15周年を迎えたbrainchild’sの全国ツアー『brainchild’s 15th Anniversary Acoustic na tei de PLUGGED Quattro Tour 2023』が、5月26日(金)UMEDA CLUB QUATTROでの追加公演でファイナルを迎えた。

その5月17日(水)の渋谷CLUB QUATTRO公演を観た。“アコースティックな体”の芳醇なバンドサウンドが響き、声出しOKとなりコール&レスポンスを楽しむファンとメンバーの笑顔の花が咲く、熱く、ハッピーオーラが充満する空間になっていた。

EMMA(G/Vo)
EMMA(G/Vo)

菊地“EMMA”英昭のプロジェクト・brainchild’sは2008年に活動がスタート。メンバー構成変化させながら、2016年に渡會将士(Vo)、神田雄一朗(B)、岩中英明(Dr)を迎え“第7期”としての活動を開始。2019年にMAL(Key)が加入し、“第7期。”としてその音楽性の幅を広げながら進化し続けている。メンバーは、ソロ、バンドとしても活動しているミュージシャンの集合体であり、それぞれの感性と菊地の感性とが交差し、唯一無二の薫り高いバンドアンサンブルが生まれる。

今回のツアーは“Acoustic na tei de PLUGGED”というツアー名の通り、どのナンバーもリアレンジされ、新たな命が吹き込まれたような新鮮さを感じた。それを圧倒的な演奏力と歌で表現すると、大人の色気と余裕を感じる音楽が生まれる。

ライヴは「PANGEA」からスタート。2011年発表の2ndアルバム『PANGEA』に収録されたこの曲は、アレンジを変えながら引き継がれてきたインストナンバー。EMMAのギターの音色が作り上げる、どこか荒涼とした風景を感じるスケールの大きさを感じた。もしかしたらこの曲がライヴを通じて感じていた、ある感覚の基点になっているのかもしれない。

それはこのバンドが放つ音と渡會の歌がひとつになると、何かのロードムービーを観ながら、そこから流れてくるサントラを聴いているような感じになる。ライヴの間中その感覚をずっと抱いていた。ではどんなロードムービーなのか。ライヴが終わってもなかなかハッキリと説明できずにいたが、以前brainchild’sにインタビューした時の記事を読み直した時「これか」と思った。

それは2021年に発表した映像作品『brainchild's We Hold On na tei de WHO 2020 “Set you a/n"』に収録されている、メンバーそれぞれのドキュメンタリー映像だ。コロナ禍で変わったことや思いを、それぞれが確めに行く旅を追ったもので、旅をしながら、エンタメ従事者の窮状を明らかにしながら、人とのふれあいや絆の大切さを改めて教えてくれる――あの映像からそんなメッセージを受け取ったはずだ。それが新たなロードムービーとなって、あの日、渋谷のど真ん中、クアトロで観ているような感覚になった。奥行きと広がりを感じさせてくれるサウンドと、スケール感と共に日々の些細なシーンにも寄り添うような、その両方を感じとることができる渡會の歌声が、まるで「旅」をしているような感覚にしてくれるのかもしれない。

岩中英明(Dr)
岩中英明(Dr)

神田雄一朗(B)
神田雄一朗(B)

アレンジの妙をとことん味わうライヴでもあった。「Set you a/n」はボサノバ調で心地良い風が吹いてくるようで、神田のウッドベース、岩中がブラシでジャズアレンジを施した「Phase2」でのEMMAのギターは、どこまでもセクシーだった。この曲はどんなアレンジ、テンポになっても“芯”にある“熱さ”が変わらない“強さ”がある。骨太な「Heaven come down」も、やはりどんなアレンジになっても神田と岩中のリズム隊が作るエモーショナルなグルーヴを、しっかりと感じさせてくれる。

渡會将士(Vo)
渡會将士(Vo)

「Flight to the north」はオリジナルの空気感に近いアレンジだった。神田のメロディアスなベースと、岩中のスネアが印象的で、菊地と渡會のギターの掛け合いにも心が躍る。「SexTant」はラテン風のアレンジ、「FIX ALL」はブルーグラスっぽいアレンジで、とにかく5人が楽しそうに演奏しているのが印象的だった。「Blow」は渡會のハスキーでナチュラルなビブラートがかかった歌が、深淵の色を感じさせてくれ、深く引き込まれた。どの曲も渡會の歌がより高い感度で聴き手に届くアレンジ。「Wanna Go Home」でのEMMAの歌も優しく、深かった。最後に語りかけるように歌う<見えなくても歩いて行こう 一緒に>という言葉が胸に響く。

MAL(Key)
MAL(Key)

そしてMALの鍵盤での音色の表現の強弱が、曲毎に違う光量で光を当て、時に押し、時に引き、その曲の表情をより豊かに演出していた。「Rock band on the beach」でのコール&レスポンスの楽しさ、熱さは誰もが待ち望んでいたものだった。ご当地コール&レスポンスネタ、東京は渋谷、築地、月島、神田⇒俺だ!(神田)、八王子⇒俺だ!(EMMA)で、異様な盛り上がりに。みんな一緒に歌いたかった、声を出したかったのだ。ラストは美しく切ない詩情が印象的な「Kite & Swallow」が、さらに切なさを纏い、伝わってくる。

以前5人にインタビューした際、神田が「とにかく“音がいい”人たちの集合体がこのバンド。それぞれの音の“粒”がきちんとあって、それぞれのパワーがないと成立しないアンサンブルだと思う」と語ってくれたが、まさにこのライヴがそうだった。今回のアレンジで、それをより強く感じた人が多いのではないだろうか。フリースタイルな部分もあって、メンバー一人ひとりが奏でる“その日”限りの生きた音、素晴らしいプレイを堪能できたはずだ。

5月17日(水)のライヴは、国内で初めて使用される、新たなマルチ画面レイアウトシステムを駆使して生配信され、これまでとは違った配信ライヴを、世界19か国のファンが楽しんだ。

初の配信ライブアルバム『STAY DRIVEN』
初の配信ライブアルバム『STAY DRIVEN』

そしてライヴ中にbrainchild’sとしては初のライヴアルバム『STAY DRIVEN』を配信リリースすることを発表した。この作品は、すで映像化されている『brainchild’s Electric na tei de TIPP11』から『brainchild’s -STAY ALIVE- LIVE at EX THEATER ROPPONGI』に加え、コロナ禍に開催した『brainchild’s “ALIVE SERIES” 21-22 Limited 66』の中から、EMMA自身が厳選した15曲を収録したライヴベストアルバムになっている。

さらに、冬には東名阪を巡る15周年ツアーを開催することも発表した。11月23日名古屋、25日大阪、そしてbrainchild's発足日にあたる12月3日東京と、全3公演が予定されている。

記念すべき15周年、“第7期。”での“響宴”が楽しみだ。

brainchild'sオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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