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コンビ、放送作家、ピン芸人、そして落語家。あらゆる笑いを生んできた桂三度が感じる今の「怖さ」

中西正男芸能記者
師匠への思い、笑いへの思いなどを語る桂三度さん

 2011年に桂三枝(現・文枝)さんに入門し、世界のナベアツから落語家に転身した桂三度さん(51)。18年には入門からの悲願だったNHK新人落語大賞を受賞するなど着実にステップアップを遂げてきました。1991年にお笑いコンビ「ジャリズム」としてデビューし、芸歴は30年、落語家としては10年を過ぎましたが、あらゆる形で笑いに関わってきたからこそ感じる今の世の中へ怖さを吐露しました。

コロナ禍で「メチャクチャ」

 三度になって10年が経ちました。最初は7年コンビでやりまして、解散後は放送作家だけを5年やって、その後またコンビを再結成しつつ世界のナベアツもやって、そこからまたコンビを解散しての落語家。いろいろやってきました(笑)。

 ただね「ジャリズム」はもちろんコンビですし、放送作家もいろいろなスタッフさんとの作業ですし、世界のナベアツの時も「ジャリズム」を組みながらだったので落語家になって初めて“ウケてもスベっても全部自分”という景色を見たんです。ウケたら自分の手柄。スベったら自分のせい。完全に自分だけ。新鮮でした。

 ただ、弟子入りをした時点で41歳。他の方よりも圧倒的に遅いですから、最初の段階で計画は綿密に立てました。でも、ぶっちゃけ、それも新型コロナ禍でメチャクチャになったんですけどね。

 まず第一目標がNHK新人落語大賞を取ること。これも自分の想定よりは遅れてしまったけれども2018年に取ることはできた。とは言え、まだまだ下っ端ですから派手に動くことは遠慮してたんです。

 そして、落語家入門10年目となる去年、本来ならば10年目ということを言い訳にして、派手なイベントを打とうと思っていたんです。

 コツコツ落語をやる。これも一つの道です。そしてもう一つ、メディアに出て知名度を上げておく。これも意識しておかないといけない道。去年はそちらのメディア的なところにつながる動きをしようと思っていたんですけど、それがコロナ禍でできなくなってしまいました。

 知名度を上げて全国で落語会ができるようになると場数も増えるし、結果、落語家としての実力が上がる。結局、落語に行きつくことですし、そういう目論見だったんですけど、計画は大きく狂うことにはなりました。ただ、助けてくれる先輩もたくさんいるしあきらめることはないんですけどコロナ禍で予定は変わりました。

師匠という存在

 確かに、自分が考えていた流れからはコロナ禍でガラッと変わってしまったんですけど、これはね、おべっか的なことじゃなくて、師匠(桂文枝)の姿を見ていたら止まってられないと思います。

 入門してから会うたびに「今、どんなん考えてるんや」と新しい噺のことや今やろうとしていることを聞かれるんです。

 NHKの賞をとった時も報告にいかないといけないと思ってうかがったら「おめでとう。…ところで、今、オレ、こんなん考えてんねんけどな」と(笑)。「オレかて負けへんで」の精神というか、どんだけ頑張んねんと(笑)。

 僕が思うに、ま、これはあくまでも自分のことで他の人は分かりませんけど、例えば19歳の自分が高校を出てそのまま入門していたら、師匠のありがたみはあまり分かってなかったと思います。

 ある程度芸人を経験して、この世界を知ってから入門した。その感覚からすると、師匠のネタや古典落語を受け継がせてもらう。まず、この時点でものすごくありがたいことだなと。

 そんなことを当たり前のようにしてくださる師匠。そして、落語家ということで他の師匠も同じようにしてくださる。ホンマにどこまでも感謝しかないなと。これはよく月亭方正さんともしゃべるんです。こんなありがたい話あるかと。

 無償の愛というか「そういうものなんだ」という流れでやってくださる。だからね、師匠はお父さんなんです。19歳の自分やったら、そうは思わなかったかもしれませんけど、つくづく思います。お父さんです。だから、そこはシンプルに、もしお父さんの悪口を言ってる奴がいたら“しばくリスト”に入れます(笑)。

今感じる怖さ

 これまでいろいろな形で笑いに関わってきましたけど、昨今は笑いをめぐる環境が変わってきてもいます。多様性を大切にする。容姿はいじらない。人を傷つけない。そういう流れが強くなっています。

 冷静に見た時には、それは時代やからしょうがないなと思いますし、テレビ用の“やさしいネタ”とライブ用のちょっと“辛めのネタ”を作り分けたらいいのかなと思います。これが冷静な自分が思うことです。

 一方、熱くなるというか、自分の直感的な思いからすると、世の中が自分で自分の首を絞めてるんじゃないかなとも思います。

 例えば、自分もゴシップ記事は好きですし、なんだかんだ言っても好きな人も多いと思うんですけど、その記事を見ながらコンプライアンス、コンプライアンスと芸能人をしめつけることで芸能人が真面目になる。もしくは、真面目っぽく動かざるを得なくなる。

 その結果、ゴシップが少なくなって芸能記事が薄くなる。なんか楽しくないから、また他にアラを探す。それがまた締め付けになって動きを抑圧する。すると、もっと面白くなくなる。そんなサイクルも感じるんです。

 これも自分の中の熱い方の思いですけど“笑いにしていいひどいこと”の基準が厳しすぎるとは思っています。どこならいいのかという正解のラインは難しいですけど、当然、やったらアカンひどいことはいっぱいあります。

 でも、単純に自分の人生を振り返った時に、楽しかったベスト5をピックアップしたら、大概はムチャクチャしてることやと思うんです。「あの時はずっと笑ってたな」というエピソードって、大概何かしらのムチャをしてる時やったなと。

 それを抑圧するのは、人生をおもんなくしてることにもなるんやろうなと。もちろん、程度の問題はありますが、そんな構図を考えている自分もいますね。

 一方、これは冷静な部分というか、極めて客観的に思うことなんですけど、そもそも僕はお笑いで100人全員をハッピーにすることはできないと考えています。例えば、お葬式のネタをやった時に客席に昨日身内のお葬式をされた人もいるかもしれない。そういうことを考えた時点で全員ハッピーは無理やと。

 冷静というか「そういうものだ」と俯瞰から見ている感覚なのかもしれませんけど…、だからね、大爆笑を取った快感が忘れられないとかいうことが僕にはないんです。手放しで「ヨッシャ!」と思うようなことがないというか。いつも「こんなんですみません」と思っています。

 お笑いは誰かを傷つけるもの。基本的にその要素はあるものなので、そこを締め付けられると怖さは感じますね。でも、時代の流れに沿うのがお笑いでもあるし、それやったら使い分けようとなるんやろうなと。

 …結局、話が戻りましたけど、僕の中にですら冷静な部分と熱くなる部分があります。グルグルしてます。難しいものです。結果、原稿にしてもらうにはもっと難しくてまとめにくい話になってるかもしれませんけど…、何ともすみません(笑)。

(撮影・中西正男)

■桂三度(かつら・さんど)

1969年8月27日生まれ。滋賀県出身、大阪府育ち。本名・渡邊鐘(わたなべ・あつむ)。NSC大阪校10期生。同期は「メッセンジャー」、お~い!久馬ら。91年からお笑いコンビ「ジャリズム」のボケとして人気を得る。98年にコンビ解散後は放送作家の仕事を始め、2004年に「ジャリズム」を再結成以降はコンビと並行してピン芸人・世界のナベアツ名義でも活動する。11年に再びコンビを解散。桂三枝(現・文枝)に入門し落語家に転身する。18年にはNHK新人落語大賞を受賞する。精力的に落語会を行い、8月19日には東京・ルミネtheよしもとで「方正・三四郎・三度 三人会」を開催する。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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