うがいが風邪に効果的という科学的根拠はあるのか?
うがいとは
風邪や新型コロナを予防するために、家に帰ったら手洗い・うがいをする習慣を心がけている人は多いと思います。うがいは1セット3回行うのが基本で、適切な手順は、1回目がブクブクうがい、2・3回目がガラガラうがいとされています(図1)。
「うがい」の語源は「鵜飼」です。鵜飼というのは、鵜に魚を飲み込ませ吐き出させる漁のことで、たまにテレビで放送されているのを見たことがある人もいるでしょう。鵜に魚を吐き出させる様子が似ているため、これが私たちの日常で使う「うがい」に転じたそうです。
ちなみに、うがいのことを医学用語では、「含嗽(がんそう)」と呼びます。実際に病院で「がんそう」なんて言っている医療従事者は皆無ですが・・・。
さて、風邪に対してうがいが効果的とする科学的根拠はあるのでしょうか?
風邪に対するうがいの科学的根拠
うがいに関する研究は、ほぼ日本発です。諸外国ではあまり行われない習慣だからでしょう。
ボランティア被験者を、「うがいをしない群」、「ヨードうがい群」、「水うがい群」にくじ引きで割り付けて、うがいの風邪予防効果を検証した研究があります(1)。うがいは1日3回で、1回につき15秒を3セットです。
解析の結果、1か月あたりの風邪発症率は、うがいをしない群で26.4人、水うがい群で17.0人、ヨードうがい群で23.6人という結果でした(図2)。水うがい群の風邪発症率が少ないことが分かります。
ヨードのうがい薬は口腔内にいる正常な細菌もやっつけてしまうため、風邪ウイルスに対する防御機構を弱めてしまうのではないかと考えられます。実際にヨードは粘膜に対して毒性があり有害とされています(2)。うがい薬の欠点は、ヨードだけでなくエタノールも含まれている点です。エタノールは爽快感をもたらしてくれるので、うがいが効果的な気分にさせてくれますが、ヨードとともに粘膜傷害の作用を強めてしまう可能性があります。
風邪を発症した後48時間以内に、食塩水の鼻洗浄とうがいを組み合わせた治療と、対症療法のどちらかに無作為に割り付けた研究があります(3)。鼻洗浄とうがいをしたほうが、病悩期間が約2日早くなることが示されました(図3)。家庭内接触者からの感染者も35%減ることが分かりました。
「水うがい」より「緑茶うがい」?
水よりも有効かもしれないと考えられているものに、お茶があります。特に、緑茶が有望視されています。
65歳以上の高齢者を対象とした研究では、茶カテキン抽出物でうがいしたほうがインフルエンザの発症が少なかったと報告されています(4)。ただしこの研究、インフルエンザワクチンを接種している集団で、患者数発生がかなり少なかったことから、茶カテキン抽出物によるうがいが本当に有効だったのかは分かりません。
これまでの研究をまとめて解析すると、水うがいと比べると緑茶のうがいでわずかにインフルエンザの罹患を低減させる可能性があるとされていますが(5,6)、大規模な研究で明確な効果が示されているわけではなく、緑茶でうがいするのはもったいないため、個人的には水うがいでよいと思っています。
うがいよりも、緑茶を定期的に飲むほうがインフルエンザには効果的かもしれません。静岡県菊川市の全小学生を対象とした緑茶消費量とインフルエンザ罹患の関連を調べた疫学調査によると、1日1~5杯の緑茶を飲む習慣がある児童では、1日1杯以下の児童と比べて、インフルエンザの罹患率が低かったことが示されています(7)。
まとめ
新型コロナに対するうがいの明確な科学的根拠はありませんが、インフルエンザを含めた呼吸器系のウイルス感染を予防するためのうがいは、「しないよりしたほうがよい」という理解でよいでしょう。ただし、ヨードうがい薬を用いる必要はなく、基本的に水道水でよいと考えられます。
エアロゾルが発生するため、うがいをするなら自宅や周囲に人がいない場所にとどめておきましょう。
(参考)
(1) Satomura K, et al. Am J Prev Med. 2005 Nov;29(4):302-7.
(2) Sato S, et al. Drug Chem Toxicol. 2014 Jul;37(3):268-75.
(3) Ramalingam S, et al. Sci Rep. 2019 Jan 31;9(1):1015.
(4) Yamada H, et al. J Altern Complement Med. 2006 Sep;12(7):669-72.
(5) Ide K, et al. BMC Public Health. 2016 May 12;16:396.
(6) Ide K, et al. J Altern Complement Med. 2017 Feb;23(2):116-120.
(7) Park M, et al. J Nutr. 2011 Oct;141(10):1862-70.