快勝の中で光った「修正力」。ドイツ遠征を通じて見えたヤングなでしこの進化
【女子サッカー大国・ドイツ】
3ヶ月後のU-20女子ワールドカップに向けてドイツで強化合宿中のU-20日本女子代表は、15日、ブンデスリーガ1部のボルシアVfLメンヘングラットバッハ(以下:ボルシアMG)とトレーニングマッチ(非公開/動画と写真撮影禁止)を行い、5-0と快勝した。
12日には、U-20ワールドカップの優勝候補とされるU-20ドイツに1-0で勝利した日本。遠征2試合目の対戦相手となったボルシアMGは、今年女子ブンデスリーガ1部に昇格したクラブだ。
男子のトップチームは、世界一の観客動員数(2015年)を誇るブンデスリーガの古豪クラブであり、子供から大人まで、女子も含めると1チームで20ものカテゴリーを持っている。予算面や規模の面から見ても、日本との差は歴然としている。
ドイツはアメリカに次ぐ世界2位の女子サッカー大国であり、その競技人口は100万人を超える。(日本は49210人/2015年度JFA選手登録数)。カテゴリーを細かく分ける代表チーム同様に、リーグでも育成年代に力を入れているクラブは多く、岩渕真奈が所属する昨年王者のバイエルンやホッフェンハイムがその筆頭だが、ボルシアMGも女子部門は、トップチームとセカンドチームに分かれている(対戦したのはトップチーム)。
日本のスターティングメンバーはGK平尾知佳、DFラインは左から塩越柚歩、乗松瑠華、市瀬菜々、清水梨紗。MFは左から松原志歩、大久保舞、隅田凜、三浦成美。FWは長谷川唯と西田明華の2トップが並ぶ4−4−2。
ボルシアMGはパワーやスピードはU-20ドイツに比べてやや劣る印象もあるが、年齢制限のない大人のチームだけあって、体格の良さに加えて、技術を生かしたサッカーをしてくる。クラブチームらしく、攻撃面ではいくつかの得意な「形」を持っており、GKからつないで崩すビルドアップも何度か見せていた。
守備時は5−4−1のような形だが、攻撃時は両サイドバックが高い位置をとり、3−4−3のような形になる。そのため、序盤は左サイドに張っていた10番の選手の不規則なポジショニングに対してマークの受け渡しが遅れがちになった。日本は守備では高い位置から奪いに行くため、かわされると一気にカウンターを受ける形になってしまい、序盤の約10分間は受け身になる場面が続いた。
「日本が前から奪いに行く中で、トップから下がってボールを受ける相手の選手に対してセンターバックが取りに行くのか、サイドハーフやボランチに受け渡すのかが曖昧になっていました。後ろがラインコントロールしながらでも、人に対して(強く)いけていなかったので、そこはハッキリさせようと伝えました」(高倉麻子監督)
だが、流れが悪い中でも「違い」を見せたのが長谷川(日テレ・ベレーザ)だった。
前半8分。左サイドでボールをキープすると、相手が3人でプレッシャーをかけにきたところで2人をかわし、右サイドで裏に走り込んだ三浦(日テレ・ベレーザ)にスルーパス。これを三浦がGKを制して冷静に流し込み、日本が先制した。
その後、マークの修正を加え、球際で強くいけるようになった日本は、徐々にペースを引き寄せていった。
【2試合で見えた日本の”修正力”】
前線で西田(セレッソ大阪レディース)、三浦、長谷川の3人が細かい動きとテクニックで積極的にボールに絡みながら相手のDFラインを翻弄し、2列目の隅田(日テレ・ベレーザ)や大久保(岡山湯郷Belle)も遠目から積極的にシュートを打っていく。左サイドでは塩越(浦和レッズレディース)と松原(セレッソ大阪レディース)が良いコンビネーションから攻撃参加を見せ、15分を過ぎると日本の一方的なペースになった。
「前回のドイツ戦はシュートが少なかったので、前半は積極的にシュートを打つことを意識していました」(長谷川)
その姿勢が、23分の追加点につながった。西田が左サイドでボールを奪うと、ペナルティエリアの外から打ったボールが右のサイドネットを揺らして2点目を決め、スコアはそのままで前半は終了した。
後半、日本は次々に交代選手を投入。
64分には中盤の林穂之香(セレッソ大阪レディース)が右に展開し、オーバーラップした清水梨紗(日テレ・ベレーザ)がピンポイントクロスを上げる。ゴール前で杉田妃和(INAC神戸レオネッサ)がヘディングで合わせて3点目。75分には、途中出場の上野真実(愛媛FCレディース)が豪快なミドルシュートで4点目。さらにその9分後には、中盤で長谷川が2人にはさまれながら一発のターンでかわし、上野へ絶妙のスルーパス。相手GKとの1対1を制した上野が5点目を決めた。後半、一度だけ、中盤でボールコントロールがもたついたところを奪わわれ、カウンターから一本のパスでDFラインを完全に崩された場面があったが、後半から出場したGK松本(浦和レッズレディース)が的確な間合いで詰め、ゴールを死守した。
1試合目に続き、2試合目も完封勝利でドイツ遠征を締めくくった日本。U-20ドイツ代表との試合では多くのチャンスを作りながら追加点が奪えなかったが、この試合では一連の攻撃をシュートで終わらせ、ゴールが欲しい時間帯にしっかりと決めたことで、U-20ドイツ戦よりもさらにゲームをコントロールできた。
中でも、多くのチャンスを演出した長谷川は、相手の逆を取るドリブルや、緩急をつけたワンタッチパスなど、周囲との連携の中で真骨頂とも言えるセンス溢れるプレーを見せた。
また、U-20ドイツ戦同様、新戦力の積極的なプレーが光った。FWの河野朱里(早稲田大学)は前線で貪欲にゴールを狙い、チームで一番小柄な神田若帆(AC長野パルセイロレディース)はサイドでスピード勝負をしかけた。上野は2得点と、FWとして申し分のない結果を残した。
「(後半から入った河野)朱里が得点を取りたそうだったので、少し攻め急いでパスを出してしまう場面はありましたが、朱里が本気でボールを受けに行ってくれていたことで、(上野)真実が空いて、得点につながりました。遠慮されると(パスの出し手としては)合わせづらい部分もあるんですが、新しい選手が積極的に自分のプレーを出してくれて、お互いに思い切ってやることでタイミングが合っていました。それは今回のドイツ合宿での成果だと思います」(長谷川)
守備面に目を向けると、ロングボールへの対応はこの試合も徹底していた。ボルシアMGは前線で3人のFWが日本のディフェンスラインの裏に抜けるタイミングをうかがっていたが、日本はセンターバックの乗松と市瀬を中心に、こまめなラインコントロールで相手に長いボールを蹴らせなかった。
「今日は(U-20ドイツ戦に比べて)もう少しラインを上げるスピードを早めたり、相手のFWの選手が裏に抜け出すタイミングを作らせないような、メリハリのあるラインコントロールを意識しました」(乗松)
2試合を通じて結果だけでなく、内容への自信を深めることができたのは大きい。また、1試合目の課題への修正を2試合目でしっかりと反映できたことも収穫だ。一方で、海外でしか経験できない課題も見えた。キャプテンの乗松は続ける。
「ドイツの選手は身体が大きくて、特に中盤では、日本がボールを奪う意識が強いことを逆手に取って、上手く反転されてしまう場面がありました。奪いに行く『うまさ』を一人一人が上げていったら、もっといい攻撃につなげられると思います。日本とはフォーメーションも違う中でいろいろな個性をもった選手がいるので、相手の特徴を試合開始からなるべく早く掴んで修正できるようにしたいです」(乗松)
【ポジションにこだわらない起用で培われたもの】
ドイツ遠征の2試合を通じて21人全員が起用され、うち8人は、複数のポジションで起用された。
たとえば、塩越は左右のサイドバックで出場し、守屋は、左サイドハーフと右サイドバック。長谷川は左サイドハーフとトップ(FW)で出場し、林は右サイドハーフとボランチ…といった具合だ。特に、中盤より前は試合の中で前後左右を入れ替えることも多く、2列目から次々に選手が飛び出してくる攻撃は相手のマークを混乱に陥れた。
どのポジションに入った時も連携はスムーズに取れており、それぞれの特徴を生かし合う距離感やプレーが自然とできていた。組み合わせによって様々な化学反応を起こせるのも、このチームの強さの理由であり、魅力である。
ポジションが固定されていたのはセンターバックの2人ぐらいだろう。ただ、この2人は替えが利かないほどコンビネーションが良く、安定感がある。この試合では、センターバックの南萌華(浦和レッズレディース)がベンチ入りしなかった(詳細は不明)こともあり、急きょ左サイドバックの北川(浦和レッズレディース)が終盤にセンターバックとして入る場面も。JFAアカデミー時代に経験があるそうだが、北川自身もこのチャレンジに対して積極的な姿勢を見せており、後方から大きな声で指示を送っていた。
指揮官は言う。
「前目と後ろ目のポジションで向き、不向きはありますけれど、その時の状況で良い判断をしてプレーを選択していくということに関しては、どのポジションでも変わらないと思っています。選手がプレーの幅を広げる意味でもいろんなポジションを出来た方がいいと思うし、まだまだ可能性がありますから。(2試合を通じて)国際試合を経験する中で新しい選手がいいものを見せてくれて、メンバー選考がさらに難しくなりました。育成年代は、15人ぐらいの選手の他は、力が落ちてしまうことがあるんですが、このチームは16、17、18人目でも仕事をできる。(本大会が)楽しみですね」(高倉監督)
「お互いの良さを生かそう」という気持ちが強く感じられるのは、このチームのもう一つの良さでもある。強烈な個性を尊重し合い、認め合っているからこそ、良いプレーは全力で褒め、失敗してもチャレンジを評価し、後ろ向きなミスに対しては厳しく叱る。練習中やオフも笑顔を絶やさない、雰囲気の良さも感じられた。
チームは10月の国内合宿と11月の直前合宿を経て、いよいよU-20ワールドカップ(パプアニューギニア大会、11月13日〜12月3日)に臨む。あと3ヶ月間でどんな進化を見せてくれるのか、楽しみだ。
U-20日本女子代表 vsボルシアVflメンヘングラットバッハ(2016年8月15日、Grenzlandstadion Monchengladbach)
GK 平尾知佳 (→46分 松本真未子)
DF 塩越柚歩
DF 乗松瑠華 (→61分 北川ひかる)
DF 市瀬菜々
DF 清水梨紗 (→72分 守屋都弥)
MF 松原志歩 (→72分 河野朱里)
MF 大久保舞 (→61分 杉田妃和)
MF 隅田凜 (→46分 林穂之香)
MF 三浦成美 (→61分 上野真実)
FW 長谷川唯
FW 西田明華 (→61分 神田若帆)
得点
8分 三浦成美
23分 西田明華
64分 杉田妃和
75分 上野真実
85分 上野真実