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元講談社社員「妻殺害」裁判が最高裁で逆転の可能性!最高裁が弁論を開くことを決定!

篠田博之月刊『創』編集長
ドアが押収されたままの朴被告宅2階の子ども部屋(筆者撮影)

 びっくりするニュースが飛び込んできた。

 月刊『創』(つくる)で昨年来、キャンペーンを張り、最近は『週刊朝日』やNHK「クローズアップ現代」でも取り上げられて話題になっていた元講談社社員・朴鐘顕さんの「妻殺し」裁判について、最高裁が10月27日13時半より弁論を開くことを決めたという。

 最高裁が弁論を開くというのは、2審の有罪判決を差し戻すか、または無罪判決を出す可能性が極めて高いということだ。この裁判、どう考えてもおかしいとこれまで何度も書いてきたが、1・2審の判決がひっくり返る可能性が高くなったといえる。

 6月30日の昼頃、朴鐘顕被告の母親から報告とお礼の電話があり、弁護人からも報告があった。「クロ現」にも出演して裁判に疑問を呈していた水野智幸元裁判官に先ほどメールでお知らせしたら「弁論を開くのは、何らかの形で高裁判決を見直す場合ですので、無罪方向の判断(自判か差戻しかは分かりませんが)が出る可能性が高いと思います」とのことだった。ちなみに自判とは、差し戻しでなく最高裁の判断で無罪判決を出すことだ。

 事件についてはもうあまり覚えていない人も多いかもしれないが、2017年1月に、当時はまだ講談社の現役編集者だった朴被告が逮捕された時には大々的な報道がなされ、彼が関わっていた雑誌が「進撃の巨人」を連載していたため、あたかも「進撃の巨人」編集者が逮捕されたかのような報道がなされたことを覚えている(それについては講談社が公式に否定)。大手出版社の現役編集者が殺人容疑で逮捕というのは業界中を震撼させた。その後、1・2審と有罪だったことを受けて朴被告は迷惑が掛かるという判断もあって講談社を退社していた。

 母親が亡くなり、父親が逮捕されたという状況に追い込まれた4人の子どもたちは、事件までは関西在住だった朴被告の母親がめんどうを見ることになった。2016年の事件から6年を経て、子どもたちも成長し、自分たちがどういう状況に置かれたかを理解する年齢に達している。その子どもたちと父親、そして育ててくれている祖母との関係について、その祖母(朴被告の母親)が最近語ったインタビューを、ちょうど今朝、ヤフーニュースに公開したばかりだった(『創』7月号に掲載したもの)。

 この6年間、朴被告の母親や子どもたちが大変な思いをしながら、無実を信じ続けてきたことに、きょう、ようやく光がさしたということだ。

 このところ大崎事件の再請求棄却決定など、裁判所に対する信頼を失わせるような事例が続いていたが、今回は司法の良心を示したものと言えよう。1・2審とも有罪とされて、関係者も一時は絶望的になりかねない局面もあったかと思うが、真実はいつか認められるという希望を与えてくれるようなニュースと言える。

 裁判に市民感覚を取り入れるということで裁判員裁判が始まり、この裁判も裁判員によって裁かれたのだが、NHKの「クロ現」でも指摘されていたように、検察官やその証人が自信ありげに主張すると、それについ引っ張られてしまう怖れがあるのもその特徴だろう。冷静に考えれば、子どもが4人、しかも4人目が生まれたばかりというその状況で、妻を殺害してしまうというのは、よほどの事情がないとありえないことだ。検察官は、夫婦がもみ合いをしているうちに殺害したという認定なのだろうが、いくらもみ合いになったとしても妻を殺害したという判断をするなら、それなりの証拠などが必要だろう。ところがこの事件の場合、それがかなり薄弱で、むしろ矛盾する物証もある。冒頭の写真に掲げた子ども部屋のドアについていた傷など、検察の筋書きでは説明がつかないのだが、有罪につながらない証拠は無視されている。動機が見当たらないことなど考えれば、もし有罪認定をするならよほど慎重に行うことが求められるケースではないだろうか。「疑わしきは被告人の利益に」という裁判の原則がどうも顧みられていないように思えるし、冷静に市民感覚で考えれば、疑問を感じて当然のケースのように見えるのだ。

 今後の展開については追って報告するとして、これからマスコミの報道も行われると思うので、参考のために昨年来、ヤフーニュースに私が書いた関連記事と、朴被告の友人たちが運営しているサイトを紹介しておく。

(この記事を書いたのは昼過ぎだが、その後、夕方からテレビや新聞が一斉に最高裁が弁論を開くということの持つ意味を報道し始めた)

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20220630-00303297

講談社元社員は本当に妻を殺したのかー被告の母親が語る残された子どもたちのこの6年間

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20220612-00300456

元講談社「妻殺害」裁判被告が獄中から4人の子どもに送ったウクライナ戦争についての手紙

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20220422-00292557

講談社元社員の「妻殺し」とされる事件を報じたNHK「クロ現」の大きな反響

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20210707-00246844

「妻殺し」判決の講談社元社員の母親が初めて事件について語った!

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20210607-00241633

講談社元社員は本当に妻を殺したのか。最高裁で審理中の事件をめぐる新たな動き

 この裁判については、昨年、朴被告の大学時代の友人たちが支援する会を立ち上げ、署名運動など活動を続けてきた。フェイスブックやホームページで彼らが訴えてきた裁判の問題点などぜひご覧いただきたい。

https://www.facebook.com/freepak3/

https://note.com/freepaku05/n/n377c4c19ec2e

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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