Yahoo!ニュース

日本人選手と日本代表チームが参戦!オートバイ耐久の最高峰「ルマン24時間レース」が開幕!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
2輪のルマン24時間レース

4月13日(木)〜16日(日)の4日間、フランス・ルマンでは伝統のオートバイ耐久レース「ルマン24時間耐久レース」(24H Moto Le Mans)が開催される。「鈴鹿8時間耐久ロードレース」(鈴鹿8耐)を含む耐久シリーズ「FIM世界耐久選手権(EWC)」ので最も重要なレースの一つであり、シリーズ最長の24時間を走り抜く大会だ。

40回目を迎えたルマン24時間

夏の「鈴鹿8耐」が最終戦(7月30日決勝)に設定されたことから、「FIM世界耐久選手権」は今季より秋から翌年の夏にかけて年をまたぐシリーズ戦として開催されている。昨年9月の「ボルドール24時間レース」(ポールリカールサーキット)ですでに開幕し、今大会は「2016-17シーズン」の第2戦。

2017年のルマンを戦うライダーたちの集合写真
2017年のルマンを戦うライダーたちの集合写真

ルマン24時間といえば、トヨタやポルシェが参戦する4輪の方が日本でも有名だが、2輪も観客数が7万人を超える、フランスのビッグイベントだ。設営準備が進むパドックに足を運ぶと、ヨーロッパ各地からやってきた各チームの巨大なモーターホーム・トレーラーが所狭しと並ぶ。迫力ある光景から、2輪・4輪問わず「耐久レースの本場」=フランスであること、このレースが世界選手権レースとして地位を築いた存在であることを認識させられる。

「鈴鹿8耐」と同じく、2輪の「ルマン24時間レース」も今大会で40回目。今季は「鈴鹿8耐」を主戦場にしてきた日本国内のチーム、さらには日本人選手が複数参戦することになり、注目度が例年以上に高い。今週末、現地から様々なレポートをお届けしていく予定なのでお楽しみに。

日本代表、2チームが参戦

昨年からワールドチャンピオン獲得を狙ってFIM世界耐久選手権にフル参戦している「#5 F.C.C. TSR Honda」に加え、今季から「#10 EVA RT WeBike TRICKSTAR」がフル参戦を始めたということで、今季は初の日本チームによるワールドチャンピオン獲得に期待が大きくなっている。

まず、昨年のルマンで初挑戦ながら3位表彰台を獲得した「#5 F.C.C. TSR Honda」は開幕戦のボルドール24時間を5位でフィニッシュし、32ポイントを獲得。年をまたぐ間にエースライダーだった渡辺一馬が移籍をしたため、今大会からは外国人ライダーだけで挑むことに。

TSRの藤井正和・総監督は渡辺の離脱が決定してすぐに、ルマンからのライダー編成の変更を急いだ。今季、軸となるライダーのアラン・テシェ(フランス)を日本に呼び寄せ、鈴鹿サーキットでテスト走行を繰り返していたが、テシェは3月のテスト中に転倒して負傷。ルマンはダミアン・カドリン(オーストリア)、グレッグ・ブラック(イギリス)、そしてアルトゥロ・ティゾン(スペイン)の3人で戦うことになった。24時間の決勝レースを走れるのは3人だけであるため、日本でもおなじみのジョシュ・フック(オーストラリア)は補欠に留まることになった。マシンはボルドールでも使用したTSRオリジナルのモディファイを加えたホンダCBR1000RRだ。

F.C.C. TSR Honda
F.C.C. TSR Honda

一方、今季からフル参戦の「#10 EVA RT WeBike TRICKSTAR」は開幕戦のボルドールで3位表彰台の快挙を成し遂げ、44ポイントを獲得。当初は開幕戦と同じ井筒仁康(いづつ・ひとやす)、出口修(でぐち・おさむ)、エルワン・ニゴン(フランス)の3人で挑む予定だったが、井筒は昨年の全日本・最終戦で負った怪我の影響もあり、今回は欠場。代役としてジュリアン・ミレー(フランス)が乗ることに。フランス人ライダー2人と日本人の出口修というラインナップで戦う。

鶴田竜二・監督率いるTRICKSTARは昨年のルマン24時間には参戦していないものの、2013年の秋に開催されたルマン24時間を戦った経験がある。今季開幕戦のボルドール24時間での3位表彰台という実績からも分かる通り、国内チームの中では世界耐久参戦のノウハウをよく知るチームである。2戦連続の表彰台となれば、ワールドチャンピオン獲得に向けた大きな弾みとなるので、ルマンはTRICKSTARにとって重要な意味を持つレースになる。「鈴鹿8耐」でもすっかりお馴染みの「エヴァンゲリオン」のカラーをまとったカワサキZX-10Rで戦う。

TRICKSTARのニゴン、ミレー、出口
TRICKSTARのニゴン、ミレー、出口

期待の日本人選手

今大会には3人の日本人選手が出場する。かつて2000年代半ばに北川圭一(きたがわ・けいいち)が日本人初の世界耐久選手権チャンピオンに輝いたが、24時間レースに参戦する日本人選手はまだまだ少ない。ただ、今年は期待値の大きい3人が参戦する。

先述した「#10 EVA RT WeBike TRICKSTAR」から参戦する出口修(でぐち・おさむ)はチームの要となるライダー。すでに43歳になったベテランは「鈴鹿8耐」に15年以上参戦する経験の持ち主で、2000年代の半ばにはホンダのワークスライダーとして活躍した。カワサキのTRICKSTARでは全日本ロードレースJSB1000にエースライダーとして参戦。2013年のルマン、そして昨年のボルドールとすでに24時間レースは2度経験している。ベテランらしい走りでカワサキZX-10Rを再び表彰台に導くことができるか。国内ライダーの中でも群を抜くタフネスぶりに期待がかかる。

野左根航汰
野左根航汰

そして、今季、日本人選手として唯一フル参戦するのが「#7 YART YAMAHA」の野左根航汰(のざね・こうた)。今季から全日本ロードレースJSB1000でヤマハのワークス入りを果たした野左根は「鈴鹿8耐」までのFIM世界耐久選手権にも全戦出場する。21歳の若手にとっては他では得難い経験を積む最高のチャンスを得た。所属チームの「YART YAMAHA」はチャンピオン経験を持つ耐久チームの名門。ヤマハとしてもプライオリティが最も高いチームであり、野左根の起用は海外武者修行以上の意味を持つものだ。海外での耐久レースは今回のルマンが初挑戦。外国人ライダーと笑顔でコミュニケーションを取り、物怖じしない姿勢は心強い。ルマンから同チームはブリヂストンタイヤを履く。

また、今季も「スーパースポーツ世界選手権」に参戦する大久保光(おおくぼ・ひかり)がルマン24時間に初挑戦する。チームは「#55 National Motos」でフランスのホンダ販売店の耐久チームだ。マシンは新型のホンダCBR1000RR Fireblade SP2を投入してきた。大久保の耐久レース経験は昨年の鈴鹿8耐の1度だけ。24時間レースを戦うにしてはビッグバイクの経験があまりに少ないが、大久保はフランスの現地チームから直々にオファーを受けたとのこと。フランス語しか通じないチームでも、持ち前の明るさとハートの強さでチームの中に既に溶け込んでいる。「スーパースポーツ世界選手権」で今季は上位を走るトップライダーだけにパドックでも注目される存在だ。どんな走りを見せてくれるか、大久保のパフォーマンスに期待がかかる。

大久保光が走るチーム「National Motos」
大久保光が走るチーム「National Motos」

初日の4月13日(木)の公式練習で、トップタイムをマークしたのは野左根航汰も乗る「#7 YART YAMAHA」のブロック・パークス。2位には「#94 GMT94 YAMAHA」が続くなど、ヤマハYZF-R1のトップチームが好調だ。日本勢では「#5 F.C.C. TSR Honda」がトップから約1.5秒遅れの7番手、「#10 EVA RT WeBike TRICKSTAR」は11番手、大久保光の「#55 National Motos」は15番手という結果だった。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

辻野ヒロシの最近の記事