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やしきたかじんから小籔千豊が学んだこと

ラリー遠田作家・お笑い評論家

2013年にオンエアされていたラジオ番組で、小籔千豊さんがやしきたかじんさんに関するエピソードを語っていました。

彼が大阪の理髪店に散髪に行ったとき、女性の理容師からこんなことを言われたそうです。

「私、やしきたかじんさん、めっちゃ嫌いなんですよ! あの人、全然面白くないです。たかじんさんって、他の番組の視聴率を勝手に予想したり、こんなタレントはすぐ消えるとか言ったりして、ものすごく失礼じゃないですか。それに、あのタレントはなんぼもらってるとか、ゲスいことばっかり言うでしょう。そういうのが本当に嫌いなんですよ」

それを聞いて小籔さんは「へえ、そうですか」と軽くあいづちを打つだけでした。ところが、その後に彼女が付け加えた一言が、小籔さんに大きなショックを与えました。

「でも、たかじんさんの番組、全部見ちゃうんですけどね」

これを聞いて小籔さんは「自分が目指すべきものはそれだ!」とひらめいたのです。顔が悪くて性格がひん曲がっている自分が、他の明るくさわやかなタレントと好感度で勝負をしてもまず勝てない。でも、たとえ視聴者に「面白くない」とか「嫌いだ」とか思われたとしても、それで番組を見続けてもらえるのであれば、そういうタレントが仕事を失うことはないだろう。

テレビタレントは、全員が全員、視聴者から好かれる必要はない。この大いなる真理を、小籔さんはたかじんさんから学んだのです。

小籔さんはその後、嫌われるのも辞さない本音むき出しの芸風を武器にして、東京でもどんどん仕事を増やしています。関西風のだしのように、一度味わったらやめられない「クセになる魅力」を身につけた小籔さんは、いまや「ポストたかじん」の最有力候補なのかもしれません。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行う。主な著書に『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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