優勝への必要項目は3つ? 大学ラグビー展望&開幕前ベストフィフティーン2022【ラグビー雑記帳】
大学ラグビーのシーズンが間もなく本格化する。9月10日に関東大学対抗戦A(対抗戦)、同リーグ戦1部(関東リーグ)がそれぞれ始まり、18日には関西大学Aリーグ(関西リーグ)が開幕。全国大学選手権への出場枠争いの火ぶたが切って落とされる。
出場枠はそれぞれ対抗戦で5、関東リーグで3、関西リーグで3。大会レギュレーションおよび前年度の成績に基づく。
いまさら聞けない? 勝利の法則
ラグビーにおけるチーム力は、「①設備やコーチングを含めた強化環境」「②クラブ文化」「③戦力」との掛け算からなると考えられる。概ね、この積は勝率に比例すると言ってよさそうだ。
この法則は、大学シーンでも当てはまる。まず学生スポーツの大義とされる「人間的成長」という領分を度外視すれば、優勝を目指すチームの必要項目は上記3点に集約される。
付け加えれば、ここで度外視すると記した大義の軽視は上記の②のスリム化を招くとあり、そこが大学ラグビーの面白みを助長していると言える。
力がありそうのにずっと低迷していたチームが成績を向上させた場合、当事者を取材するほど「今年は試合に出ない4年生が腐らない」とか「食事を抜く選手が減った」といった事例が次から次へと出てくるものだ。
話を戻す。
帝京大学が2009年から9連覇を達成したのは、まず①と②の領域で先駆者的な存在感を示しながら(①=食事を含めた肉体強化への注力、②=上下関係を最小化しながら勤勉さを重視)、結果を出す過程で③の領域でも他を凌駕するに至ったから。
帝京大学が天理大学に敗れて連覇が止まった2018年度は、明治大学が22年ぶり13度目の日本一を果たす。栄に浴したのは、就任1年目の田中澄憲監督だった。
今季のリーグワンで東京サントリーサンゴリアス(サンゴリアス)のゼネラルマネージャーとなっていた田中氏は、サンゴリアスの採用やチームマネージャーを歴任するなか、元サントリー監督のエディー・ジョーンズ(現イングランド代表監督)の仕事ぶり、岩出雅之前監督率いる帝京大学の強さの秘訣、つまり高質な①と②のエッセンスに皮膚感覚で触れていた。
かねて③の戦力は充実していた。田中氏がヘッドコーチとして明治大学に入閣する2017年の前後から、②の根本的な見直しがなされていたのも大きかった。
翌19年度に11季ぶり16回目の頂点に立った早稲田大学は、明治大学の復権に先んじて①を建て直していた。
本命と対抗馬と
今季の覇権争いの軸も、前年度に10度目の選手権優勝を果たした帝京大学、帝京大学と同じ対抗戦勢の早稲田大学、明治大学となるか。いずれも、①②③すべての要素をハイレベルに保っているためだ。
帝京大学では、1996年就任の岩出雅之前監督から相馬朋和新監督にバトンタッチ。さらに強力スクラムを支えた細木康太郎主将が抜けた。
ただし2018年度の全国高校ラグビーを制した大阪桐蔭高校の主軸が成長した姿で並ぶ。インサイドセンターの松山千大主将、スタンドオフの高本幹也副将(それぞれ4年)、フランカーの奥井章仁、フッカーの江良颯(それぞれ3年)の4名で、いずれも下級生時から定位置争いに絡んできた。
早稲田大学は、頭脳派で鳴らす大田尾竜彦監督体制2季目。こちらでもインサイドセンターの長田智樹(現埼玉パナソニックワイルドナイツ)、フルバックの河瀬諒介(現サンゴリアス)が卒業も、際立つキャラクターが複層的なアタック、独自のスクラムシステムになじむ。
ナンバーエイトの相良昌彦主将は苦しい局面に顔を出すタフガイで、爆発力とスキルが光る佐藤健次、高速展開と防御が際立つスクラムハーフの宮尾昌典は2年目にして学生界屈指の存在感を醸す。
明治大学では東京オリンピックを経験したウイングの石田吉平主将が抜群の突破力と求心力を有する。スクラムではプロップの中村公星(4年)、空中戦ではロックの山本嶺二郎(3年)、カウンターアタックではウイング兼フルバックの安田昂平(2年)と、多士済々のキャラクターがフィールドに違いをもたらすか。
もっとも夏場はコンディション不良により低調気味。台風の目と見られる筑波大学との初戦を乗り越えた先、上昇気流に乗れるかが注目される。
関東リーグ5連覇を狙う東海大学は多くの大駒が卒業で抜けるなか、一体感と防御への注力で初の頂点を狙う。もともと①②の領域がハイレベルで、今季はスタンドオフの武藤ゆらぎ(3年)、中川湧眞、岡村優太といった2年生の快速ウイングコンビをはじめ、3年生以下に目立つ存在がいるのが特徴的だ。
関東リーグの選手権出場枠には日本大学、大東文化大学などが名乗りをあげそうだが、台風の目となりうるのは昇格したての東洋大学だ。明るい雰囲気とメンバーの個性、堅実な防御が光る。看板はロック兼フランカーの齋藤良明慈縁主将。攻撃では柔らかいラン、守備ではタックルとリロードのスピードが目立つ。
東高西低を壊す流れ
関西勢では、昨季4強の京都産業大学がひたむきさを保つなか、一昨季に初めて日本一になった天理大学がけが人の復帰を待ってさらなるボトムアップを目指す。
ちなみに関西では地殻変動が起きており、前掲の③の領域でささやかれていた「東高西低」の傾向が解消しつつある。
天理大学の栄華をはじめ複層的な背景からなるこの潮流を受け、国内リーグワンの採用担当者は関西の有望な下級生のリスト化に注力する。
なかでも元サンゴリアス採用の宮本啓希新監督率いる同志社大学では、ナンバーエイトの林慶音(大阪桐蔭高校出身)、スタンドオフの大島泰真(京都成章高校出身)といったルーキーが軸をなす。林は献身ぶり、大島はスペース感覚でチーム内外から高く評価される。
立命館大学でも、高校日本一に輝いた東海大仰星高校でプレーしていた御池蓮二が先発ウイングに定着。味方のキックを追いかける際のスピード。防御へ仕掛けて捕まった直後の身のこなしで高水準を保っている。
筆者選考の開幕前ベストフィフティーンなど。
★春、夏シーズンMVP 高本幹也(帝京大学4年/関東対抗戦)…司令塔として深い洞察、優れた技術と判断力を披露。
★春、夏シーズンMIP 佐藤健次(早稲田大学2年/関東対抗戦)…新ポジションに転向も、強靭さとスピードがレベルアップ。
★春、夏シーズン新人賞 シオネ・ポルテレ(京都産業大学1年/関西リーグ)…きれとパワーでトライラッシュ。目黒学院高校時代はプロップでもプレーしたが、このステージではセンターやウイングで躍動か。
1,井上優士(東海大学4年/関東リーグ)…夏に急成長。スクラムと中央でのボールキャリー。
2,佐藤健次(早稲田大学2年/関東対抗戦)…自ら「はじける」と表現する大きな突破を連発。狭い区画で球を受けて、フットワークを使って前に出られる。
3,為房慶次朗(明治大学3年/関東対抗戦)…スクラム、衝突シーン。
4,アサエリ・ラウシー(京都産業大学4年/関西リーグ)…地上戦に強く突進力も抜群。相方のソロモネ・フナキ(2年)とともに爆発した。
5,ワイサケ・ララトゥブア(東海大学4年/関東リーグ)…壁に突っ込むパワーとモールを先導する粘り腰。
6,レキマ・ナサミラ(東海大学4年/関東リーグ)…やや突出したサイズと推進力でタッチライン際でのビッグゲイン。試合終盤にも好ジャッカルを決められる。
7,奥井章仁(帝京大学3年/関東対抗戦)…推進力とリーダーシップ。時間を追うごとに好タックルも披露する回数が増えた。
8,相良昌彦(早稲田大学4年/関東対抗戦)…ピンチとチャンスでよく顔を出し、仕事をした。
9,宮尾昌典(早稲田大学2年/関東対抗戦)…さばくテンポ、ロングパス、走力、サポートプレー、タフな防御と、スクラムハーフに求められる項目で満額回答。
10,高本幹也(帝京大学4年/関東対抗戦)…防御へ仕掛けながら正確なグラバーキック、パスを散らす。相手バックスリーの盲点を突くロングキックも。全体に目配せをする流れで、視線の方向とは逆側に蹴る。
11,中川湧眞(東海大学2年/関東リーグ)…トリッキーなステップとスピード。
12,ジョアペ・ナコ(日本大学2年/関東リーグ)…おもにアウトサイドセンターでプレー。強さと速さを強烈なタックルとランニングに昇華。バックフリップパスでチャンスメイク。
13,二村莞司(帝京大学4年/関東対抗戦)…勝負を決める渋いジャッジ。ルーズボールへの反応の鋭さが攻守逆転生む。
14,ナサニエル・トゥポウ(日本大学4年/関東リーグ)…問答無用の突破力。
15,石岡玲英(法政大学3年/関東リーグ)…蹴り合う際のキックの飛距離、機を見てのカウンターアタックが際立つ。僅差での勝利を目指すチームにあって、長距離のゴールキックが蹴られるのも強み。
今回は春、夏の試合出場数を重んじたため、石田吉平(明治大学4年/関東対抗戦=ウイング)、三木皓正(京都産業大学3年/関西リーグ=フランカー)をはじめ、前年度から活躍してきた面子が選外となっている。
さらにバックス経験者でスケールの大きな谷山隼大(筑波大学3年/関東対抗戦=ナンバーエイト)、小柄ながら圧倒的なスピードを誇るカストン・マイケルズ(摂南大学1年/関西リーグ=ウイング)ら、一芸に秀でたタレントも揃う。
つまり、これからいいシーズンを過ごしそうな選手は上記15名に限らない。