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「飲んだら乗るな」は自転車も同じ 酒酔い運転で自動車の免停や逮捕も

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 飲酒の機会が増えるシーズン。酒に酔ってまともに運転できない状態なのに、軽い気持ちで自転車に乗り、帰宅するという人もいるのでは。犯罪であり、逮捕されたり、自動車の運転免許が停止されることもあり得る。

駐輪場で大騒ぎ

 兵庫の尼崎であきれる事件があった。12月15日の夜に大阪の飲み屋街で酒を飲んだ48歳の男が、尼崎にある自宅最寄り駅の駐輪場に行った。しかし、乗って帰るための自分の自転車が見当たらなかった。「自転車がないやないか」と大騒ぎし、職員に詰め寄って絡んだ。

 男は職員の通報を受けて駆けつけた警察官の求めに応じ、警察署まで移動した。しかし、取調べ室で警察官から所持品の提出を求められると、突然、備品のクリアケースにショルダーバッグを叩きつけて壊した。

 男は器物損壊の容疑で現行犯逮捕された。呼気検査の結果、基準値の4倍のアルコールが検出された。男は尼崎にある郵便局の局長だった。

自転車も「車両」

 そもそも、道路交通法は次のように規定している。

「何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない」(第65条第1項)

 自転車も自動車と同じく「車両」に当たる。「軽車両」の一つだからだ。酒を飲んで自転車を運転するのはアウトだ。

 もっとも、自転車と自動車では危険度に違いがあるので、違反に対する刑罰の内容が異なっている。

 すなわち、道交法は次のとおり単なる酒気帯び運転罪と重い酒酔い運転罪とに分けたうえで、自動車だとその両者、自転車だと後者だけを処罰の対象にしている。

【酒気帯び運転罪】

内容:アルコールが血液1mL中3mg以上又は呼気1L中に0.15mg以上だった場合

刑罰:3年以下の懲役又は50万円以下の罰金

【酒酔い運転罪】

内容:酒に酔った状態、すなわちアルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態だった場合。泥酔していてまっすぐ歩けない、ろれつが回らないといった場合が典型だが、それらに限らない。

刑罰:5年以下の懲役又は100万円以下の罰金

逮捕もありうる

 とはいえ、事故を伴わず、単に道交法上のルール違反があっただけだと、直ちに検挙されるものではなく、まずは警察官から注意され、指導や警告を受けるにとどまる。

 というのも、自転車には自動車のような青キップによる交通反則通告制度がないため、犯罪事実が認められ、正式に立件するとなると、赤キップ処理となり、起訴するか起訴猶予にするほかないからだ。

 仮に罰金刑であっても、起訴して有罪となれば前科がつく。乗用車やオートバイ、原付で反則金処理が行われれば前科がつかないので、これらと均衡を欠くというわけだ。

 それでも、酒酔い運転罪で逮捕され、マスコミで広く報じられ、勤務先に知られるといったこともあり得る。

 現に2018年9月にも、福岡で酒に酔って自転車を蛇行運転していた女がパトロール中の警察官に現行犯逮捕されている。女はまともな受け答えができず、呼気検査でも基準値の6倍のアルコールが検出された。

 また、酒酔い運転や信号無視など悪質な違反で警察の取り締まりを受けたことが3年以内に2回以上あれば、講習の受講が義務づけられる。これに従わなければ、最高5万円の罰金が科される。

自動車の運転免許にも影響

 重要なのは、たとえ自転車の酒酔い運転で刑事罰にまで至らなかったとしても、もし自動車の運転免許証を保有していれば、これに対する公安委員会の免許停止処分まであり得るという点だ。

 確かに、自転車の酒酔い運転は自動車の運転免許の有無とは直接関係しない。しかし、自転車で酒酔い運転をするような人物は、法律を守ろうという意識が低く、自動車でもやりかねないから、事故を未然に防止するため、免停措置をとろうというわけだ。

 免停というと違反点数の積み重ねで下される処分だと思っている人も多いだろう。ほとんどがそのパターンだが、道交法は次の場合に一発で免停できるという規定を置いている。

「免許を受けた者が自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがあるとき」

 警察も、自転車の酒酔い運転を繰り返す者や酒酔い運転で事故を起こした者など、悪質な違反者が自動車の運転免許証を保有していれば、この規定による免停処分を行うという方針を示している。

 現に30~180日の免停処分が言い渡された例も多々ある。特に東京都や愛知県は厳しい。

酒の提供などもアウト

 このほか、道交法は、酒気帯び運転のおそれがある者に対して自転車を貸したり、酒を提供したり、飲酒をすすめるといったことも禁止している。

 実際に相手が酒酔い運転に及べば、自転車の提供者には5年以下の懲役又は100万円以下の罰金が、酒を提供したり飲酒をすすめた者には3年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科される。

 乗用車やオートバイだとダメなのは誰でも分かるだろうが、自転車でも酒は厳禁だという点に注意を要する。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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