Yahoo!ニュース

「本田、香川抜き」が成功のサウジ戦。 ひと安心のいま必要なことは?

杉山茂樹スポーツライター
写真:岸本勉/PICSPORT(本文中も)

2-1。グループで首位を行くサウジアラビアに勝利したうえ、オーストラリアがこの日、タイに引き分けたため、日本はグループ2位、すなわち自動出場圏内に順位を上げた。まずはひと安心。来年3月に再開される後半戦に、前向きな姿勢で臨めることになった。「やばいぞ!」という危機感はひとまず収束。監督交代話も立ち消えになりそうな雲行きだ。

勝利は喜ぶべき。だが、喜びすぎは禁物だ。この試合を大きな転換点にしなければ、日本代表への不安は晴れないと思うからだ。

大迫勇也を1トップで先発起用し、本田圭佑、香川真司を先発から外したハリルホジッチの判断が、この試合で奏功したことは確かだ。チームに吹き込まれた新風がチームを活性化させ、勝利という結果につながったわけだが、新風はさらに吹き込まれなければ危ない。日本代表への真の期待感は高まらない。

そもそも、ハリルホジッチが下したこの決断を、僕は遅いと感じている。まず大迫だ。つい1カ月前までハリルホジッチは「我々のグループに入って来つつあるレベル」と低い評価を下し、代表に招集しなかった。9月に入った段階で、所属チーム(ケルン)でポジションを得ている貴重な海外組のひとりであることが判明していたにもかかわらず。

2ゴールを奪った先のオマーン戦に続き、このサウジ戦でも大迫は存在感を発揮した。ゴールこそならなかったが、頼りになる攻撃の軸として機能。彼の加入で日本の攻撃はずいぶん活性化した。攻撃に安定感が生まれた。少なくとも、イラク戦、オーストラリア戦で招集に踏み切るべきだった選手であることが、この2試合を通して皮肉にも証明された。ハリルホジッチの功績を称えるわけにはいかない。

本田、香川真司の処遇もしかり。特に本田については「彼以上の選手は他にいるだろうか」と、これまたつい1カ月前まで、ハリルホジッチは絶対的エースだと言い切っていた。すでに所属チームのミランで、出場が難しくなっていることが明確になっていたにもかかわらず。

サウジ戦。本田、香川のいない日本は、従来と何が違っていたか。ひと言でいえば、ケレン味のなさだ。シンプルでスキッとした良好な流れがもたらされていた。変にポジションを移動し、邪心を漂わせるように存在を誇示したがる王様然とした選手はゼロ。特定の選手にボールが渡ることで、流れがリセットされるようなことも、全体のバランスが歪(いびつ)になることもなかった。

驚くべきことに、その傾向は本田が出場した後半からも維持された。彼が変なポジション移動を見せたことは、最近では一番少なかった。濃すぎるプレーもなく、与えられた役割を謙虚に、忠実にこなそうとした。

本人の判断なのか、ハリルホジッチからの指示だったのかは定かではないが、その激変ぶりは一目瞭然だった。絶対的エースの座から陥落した産物だとすれば、遅すぎる成果といえる。

画像

1カ月遅れの決断こそが、ドタバタを生んだ最大の要因。そう言いたいところだが、それはハリルホジッチに対する優しすぎる見解になる。この事態は、欧州の昨季を見れば、十分予想できたものであるし、もっと言えば、就任当初から、想定できた案件だった。年齢構成。所属チームでの活躍度を勘案すれば、大きな改革の必要性は、当時から明白だったのだ。

なにより前任者であるアギーレの戦いぶりを振り返れば、改善ポイントは明白だったのだが、ハリルホジッチはその流れを知ってか知らずか、無視するように、先を見ず、ただ現状のベストを毎度、模索し続けた。親善試合、アジアの弱小相手に、結果を残そうと必死になった。

そもそもの原因は、サッカー協会の引き継ぎミスである。当時の会長、専務理事が協会を去ったことも輪を掛けた。ハリルホジッチに責任のすべてがあるわけではない。だが、優秀なA級監督なら気付いてしかるべき症状であったことも事実。最終予選、2018年ロシアW杯本大会へ向け、適切な青写真を描けなかったそのツケが、いまに回ってきているのだ。

「チームは9月までうまくいっていた。海外組がこれほど出場機会を減らすとは想像できなかった」と述べるハリルホジッチだが、これは読み間違いを証明する言葉になる。

サウジ戦を機に、監督の読みは正されるのか。ドラスティックな対策は取れるのか。正直言って不安が残る。新監督を求めたくなる一番の理由になる。この機を真の転換点にしたいのなら、英断を下すべきだと思う。

それはさておき、サウジは思ったほど強くなかった。調子が悪かったのか、実力を出し切れなかったのか、不運なPKを取られたことでリズムを狂わせたのか、定かではないが、そのサウジに対して2-1だったという事実にも、僕は満足することができない。最後に奪われた1点の意味は大きい。しかも、やられた感のあるパンチ力満点のゴール。アウェー戦に影響する大きな失点だと思う。

たいして強くなかったとの印象は、10月に引き分けたオーストラリアについても言える。「アジアのレベルは上がっていますから……」とは、ある選手のコメントだが、僕の目には上がっていないと映る。欧州に比べれば、相変わらず遅々としている。アジア勢でW杯本大会でベスト16に残るチームはひとつもない。そうした見立てが成り立つ。

アジア予選は泥沼化した状態にある。その中で日本はどこにもスッキリ勝てていない。B組で4つどもえの展開を強いられている。来年には中東勢3チームとのアウェー戦が控える。従来より数段低い突破確率で最終局面を迎えようとしている。ハラハラ、ドキドキ。エンタメ性満点ながら、明らかにそれはB級だ。本大会に出場してもアウトサイダー必至。右肩上がりにないことが白日のもとに晒されている状態だ。

それをグイと上向きに、限りなくA級に近い期待感へと発展させるためには、大枚をはたく覚悟でA級監督を探すしかない。それしか方法がないと考える。最悪の事態を免れたいまこそ、それに安堵せず、協会には可能な限り前向きな姿勢を貫くことを期待したい。

(集英社 Web Sportiva 11月19日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

たかがサッカー。されどサッカー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月4回程度(不定期)

たかがサッカーごときに、なぜ世界の人々は夢中になるのか。ある意味で余計なことに、一生懸命になれるのか。馬鹿になれるのか。たかがとされどのバランスを取りながら、スポーツとしてのサッカーの魅力に、忠実に迫っていくつもりです。世の中であまりいわれていないことを、出来るだけ原稿化していこうと思っています。刺激を求めたい方、現状に満足していない方にとりわけにお勧めです。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

杉山茂樹の最近の記事