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アトピー性皮膚炎治療の新時代:デュピルマブ5年間の長期使用で明らかになった効果と安全性

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
イメージ図 ChatGPTを用いて著者作成

【アトピー性皮膚炎治療の新たな選択肢:デュピルマブの登場】

アトピー性皮膚炎は、繰り返し起こる炎症性の皮膚疾患で、強いかゆみを伴うのが特徴です。中等度から重度の症状を持つ患者さんにとって、長期的な治療が必要となることが多く、生活の質に大きな影響を与える疾患として知られています。

これまでの治療法には、ステロイド外用薬やカルシニューリン阻害薬の塗り薬、紫外線療法、さらには全身性ステロイドや免疫抑制剤などがありました。しかし、これらの治療法は長期使用による副作用の懸念から、継続的な使用が難しいケースも多くありました。

そんな中、新しい治療薬として注目を集めているのが「デュピルマブ」です。デュピルマブは、IL-4とIL-13という炎症を引き起こす物質(サイトカイン)の働きを抑える生物学的製剤です。これらのサイトカインは、アトピー性皮膚炎の炎症反応において重要な役割を果たしています。

【5年間の長期使用で明らかになった効果と安全性】

最近、アメリカの研究グループが、デュピルマブの5年間にわたる長期使用の結果を発表しました。この研究は、LIBERTY AD open-label extension studyと呼ばれる臨床試験で、2,677人の中等度から重度のアトピー性皮膚炎患者さんを対象に、デュピルマブの効果と安全性を調べました。

結果は非常に興味深いものでした。5年間の治療期間中、患者さんの多くで症状の改善が見られ、その効果は持続的でした。具体的には、以下のような成果が得られています:

1. 皮膚の状態改善:治療終了時点(260週)で、67.5%の患者さんの皮膚状態が「ほぼクリア」または「クリア」(IGA スコア0または1)になりました。また、80.7%の患者さんでIGAスコアが2ポイント以上改善しました。

2. 湿疹の範囲と重症度の改善:96.9%の患者さんでEASI(湿疹の範囲と重症度指数)スコアが50%以上改善し、88.9%で75%以上、76.2%で90%以上の改善が見られました。

3. かゆみの軽減:76.4%の患者さんで、かゆみのスコア(Pruritus NRS)が3ポイント以上改善しました。また、66.5%の患者さんでは4ポイント以上の改善が見られました。

4. 持続的な効果:これらの効果は5年間を通じて維持され、多くの患者さんで症状のコントロールが可能でした。

安全性に関しても、良好な結果が得られています。副作用の発生率は時間とともに減少または安定しており、重篤な副作用は比較的まれでした。最も多く報告された副作用は、鼻咽頭炎(28.9%)、アトピー性皮膚炎の悪化(16.7%)、上気道感染(13.6%)、結膜炎(10.3%)などでした。

特筆すべきは、結膜炎の発生率が時間とともに減少または安定していたことです。結膜炎は、デュピルマブ治療で注意すべき副作用の一つとして知られていましたが、この研究では87.7%の症例が治療期間中に回復しており、治療中止に至ったケースは0.5%と少数でした。

【投与方法の変更と効果の持続性】

研究の途中で、一部の患者さん(226人)の投与方法が週1回から2週間に1回に変更されました。この変更後も効果は維持され、安全性にも問題はありませんでした。これは、患者さんの負担軽減の観点からも重要な知見といえます。

【日本人患者さんへの期待と今後の展望】

この研究結果は、日本のアトピー性皮膚炎患者さんにとっても大きな希望となります。日本でもデュピルマブは既に承認されており、中等度から重度のアトピー性皮膚炎の治療に使用されています。

長期的な効果と安全性が確認されたことで、患者さんはより安心して治療を続けられるようになるでしょう。また、症状のコントロールが可能になることで、生活の質の向上も期待できます。特に、従来の治療法では十分な効果が得られなかった患者さんにとって、デュピルマブは新たな希望となる可能性があります。

ただし、注意点もあります。この研究は主に欧米の患者さんを対象としているため、日本人での長期使用の効果や安全性については、さらなるデータの蓄積が必要です。また、個々の患者さんの状態に応じて、適切な治療法を選択することが重要です。

さらに、デュピルマブは比較的新しい薬剤であるため、超長期的な安全性については今後も継続的な観察が必要です。また、費用面での課題もあるため、適切な患者さんの選択や、他の治療法との併用など、効率的な使用方法についても検討が必要でしょう。

アトピー性皮膚炎の治療は、日々進歩しています。デュピルマブの登場により、多くの患者さんに新たな選択肢が生まれました。今後も、さらなる研究や新薬の開発が進み、アトピー性皮膚炎に悩む方々の生活がより良いものになることを期待しています。

皆さまも、気になる症状がある場合は、早めに皮膚科専門医に相談することをおすすめします。適切な治療を受けることで、症状の改善や生活の質の向上が期待できます。アトピー性皮膚炎は個人差が大きい疾患ですので、自分に合った治療法を見つけることが重要です。

最後に、この研究結果は非常に有望ですが、すべての患者さんに同じ効果が得られるわけではありません。また、副作用のリスクもゼロではありません。そのため、治療を開始する際は、必ず医師と相談の上、慎重に判断することが大切です。

アトピー性皮膚炎治療の未来は、確実に明るくなっています。デュピルマブをはじめとする新しい治療法の登場により、患者さんの選択肢が広がり、より良い治療成果が期待できるようになりました。今後も、皮膚科医療の進歩に注目していきましょう。

参考文献:

Beck LA, Bissonnette R, Deleuran M, et al. Dupilumab in Adults With Moderate to Severe Atopic Dermatitis: A 5-Year Open-Label Extension Study. JAMA Dermatol. 2024;160(8):805-812. doi:10.1001/jamadermatol.2024.1536

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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