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今季のSTVVはファンを虜にできるか

中田徹サッカーライター
STVVのFW鈴木優磨、今季初ゴール (写真提供STVV)

■ 鈴木優磨のゴールに詰まったチームの意図

 5人の日本人選手が所属するSTVV(ベルギー1部リーグ)は8月9日、強豪ヘントを2対1で下し、幸先良い開幕スタートを切った。

 ストライカーの鈴木優磨は開始2分で先制ゴールを決めた。この得点は左から右、右から左とサイドチェンジパスを繰り返してから、左SBポル・ガルシアがアーリークロスを入れて相手CBのクリアーミスを誘い、鈴木がファーサイドでこぼれ球を押し込んだもの。夏合宿でケビン・マスカット監督は『サイドチェンジ』『ポゼッション』『一つ一つのプレーで最大限のパワーを出すこと』『プレッシング&ロストしたボールの早期回収』を選手に厳しく要求していた。鈴木のゴールシーンは、『サイドチェンジ』というテーマが早くもチームの意図する攻撃として実ったものだった。

 このゴールシーン以外でも、STVVは執拗にサイドチェンジのパスを織り交ぜ、ヘントの守備陣形を揺さぶっていた。そして、チームとしてよく整理されたプレッシングに、軽妙なパスワークを融合させながら、自信を持ってプレーしていた。現地テレビ局は「STVVのサッカーはフレッシュで、アグレッシブでエネルギッシュです」と実況していた。後半開始早々、右からのクロスに対して5人ものアタッカーがペナルティーエリア内に飛び込んでいった様は、本当にアグレッシブかつエネルギッシュだった。そして彼らはピッチの上に爽やかな風を吹かせていた。

 後半はヘントが盛り返したため、紙一重の差で勝負が付いた。もし、後半にヤレムチュクが2度も右ポストに当てたシュートのうち、一つでも決まっていれば、ヘントにも勝機があっただろう。それでも、ベルギーメディアは「STVVが勝つべくして勝ったゲーム」とSTVVを好意的に受け止め、テレビのサッカー討論番組でも「今季のSTVVは昨季とは一味違うぞ」と議論していた。

■ チーム作りにアドバンテージのあるSTVV

 昨季のベルギーリーグは3月上旬で打ち切りになり、ヘント戦は実に5ヶ月ぶりの試合だった。立石敬之CEOは、<新シーズン開幕へのワクワク感>、<久しぶりの公式戦に対する不安>、<コロナ対策のプロトコールをちゃんと守って試合を運営できるかどうか>という気持ちがそれぞれ3分の1ずつ入り混じって開幕を迎えたのだという。しかし、キックオフの笛が鳴るとすぐに不安は吹き飛び、「私も見ていてストレスがなかったものね。仮にひっくり返されて負けたとしても、ストレスはなかったですよ」とSTVVのパフォーマンスに手応えを感じていた。

 開幕時点で、STVVが補強した選手は中村敬斗(トゥエンテ/オランダ)、ジョナタン・ブアトゥ・マナンガ(アヴェス/ポルトガル)の2人だけ。実際にヘント戦でプレーしたのは左ウイングとして先発した中村だけだった。昨季と比べて、STVVの戦力はそれほど底上げされたようには見えない。しかし、夏合宿では主に入団2年目の選手たちがチームを引っ張り、昨季、冷遇されたMFダーキンのような選手が急成長を遂げることによって、むしろ選手層が厚くなった。ヘント戦でプレーした入団2年目の選手は鈴木優磨、デ・リッダー主将、コリーディオ、コロンバット、ダーキン、イ・スンウ、ジョニー・ルーカスと7人もいた。

「1年前に投資した選手たちが、今年2年目になってチームにコンビネーションが生まれてきている。だから、夏のキャンプでは『慣れるのかな』といった心配がなく、チームの雰囲気が良かったんです。ベルギーリーグには<移籍が活発すぎるため、チームを作るのに時間がかかる>という特徴があります。そういう点では、今季のSTVVはチーム作りにアドバンテージがあると思います」(立石CEO)

■ 日本人はベルギーサッカー界でブランドに

 今季、ベルギーのメディアは「STVVは18チーム中12位ぐらいだろう」と予想している。

「(プレッシャーがかからないから)それで良いんじゃない」と言って立石CEOは笑った。

「私がここに来て3シーズン目になります。最初の年は『日本人にベルギークラブの運営はできない。2部に降格するのは間違いなくSTVVだ。このプロジェクトは必ず3年以内で潰れる』って言われたけれど、チームとしては7位に大躍進した。あと『日本人選手は高く売れるわけがないから、商売にならない』と新聞に書かれたけれど、冨安健洋(ボローニャ/イタリア)が出た(推定移籍金1000万ユーロ=約12億円)。2年目はSTVVがファイナンシャル・フェアプレーで3位になって、みんながビックリしました。」

 この間、森岡亮太(シャルルロワ)、伊東純也(ヘンク)はベルギーリーグのスタープレーヤーのステータスを得た。

「本当に今、日本人はベルギーでブランドなんですよ。昨日は森岡が自分でインターセプトしてから決勝ゴールを決めてクラブ・ブルージュを破った。今日はうちがヘントに勝った。本当にいい週末でした(笑)」

 さて、STVVの1年目は<7位躍進>、<移籍ビジネスの成功>、2年目は<ファイナンシャル・フェアプレー3位>という結果を残してきた。3年目のSTVVは何を目指すのだろうか?

「今日みたいにチームの質が上がり、面白い試合をして『STVVはいいサッカーをするな』っていうのを言われたいですね。それに成績が伴ってくれれば、もっといいんですけれどもね」

サッカーライター

1966年生まれ。サッカー好きが高じて、駐在先のオランダでサッカーライターに転じる。一ヶ月、3000km以上の距離を車で駆け抜け取材し、サッカー・スポーツ媒体に寄稿している。

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