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ロシアの宇宙実験棟「ナウカ」国際宇宙ステーションにドッキングするも直後にトラブル[追記あり]

秋山文野サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)
出典:NASA TV中継映像より

日本時間2021年7月29日午後10時29分、ロシアが打ち上げた宇宙実験棟「ナウカ(多目的実験モジュール:MLM)」は、国際宇宙ステーション(ISS)のロシアモジュール「ズヴェズダ」の地球に面した側にドッキングした。7月21日に打ち上げられたナウカは、2010年打ち上げの「ラスヴェット」ドッキングモジュール以来、ロシアが新たにISSへ追加した実験施設として稼働を開始する。

出典:NASA TV中継映像より
出典:NASA TV中継映像より

2021年7月29日午後10時29分(日本時間)、ナウカのISSドッキングが確認された。出典:NASA TV中継映像より
2021年7月29日午後10時29分(日本時間)、ナウカのISSドッキングが確認された。出典:NASA TV中継映像より

ナウカ(「科学」を意味する)は、ロシアの宇宙開発企業クルニチェフが開発した全長約13メートル、質量約20トンの大型多目的宇宙実験棟。15年間の運用を目標としており、ISSに約70立方メートルの与圧空間を提供する。ISSに滞在するロシアの宇宙飛行士の居住と実験実施のための空間となるほか、ソユーズ宇宙船のドッキングポート、プログレス補給船のドッキングと物資の保管、トイレや水再生システム、酸素生産、ISSの姿勢制御機能を担う。欧州が開発したロボットアームも取り付けられている。

ナウカ各部の配置と名称。出典:NASA TV中継映像より
ナウカ各部の配置と名称。出典:NASA TV中継映像より

MLMは1998年に打ち上げられたロシアによる最初のISSモジュール「ザーリャ」のバックアップ施設として計画され、当初は2007年に打ち上げ予定だった。しかし開発が難航し、2013年には推進システムに金属の粉塵の混入が見つかったため開発はさらに遅延。その後も別の箇所で同様の不具合が発見され、打ち上げは2018年に延期された。推進システムのタンクの問題などから、2019年、2021年へとさらに打ち上げが延期され、2006年に完成した欧州ロボットアームは10年以上保管されたままとなった。

打ち上げ前のMLM(ナウカ)。Credit: ROSCOSMOS
打ち上げ前のMLM(ナウカ)。Credit: ROSCOSMOS

当初の計画から遅れること14年、ナウカは日本時間7月21日午後11時58分、カザフスタンのバイコヌール宇宙基地からProton-Mロケットに搭載され打ち上げられた。ISSまで8日間の行程では、エンジン噴射予定の変更なども伝えられたものの、予定通り7月29日にISSへ接近。自動ドッキング装置により、日本時間10時28分にモンゴルと中国の国境付近の上空でドッキングが確認された。

ナウカの飛行中、7月26日にISSからはロシア側のドッキング施設として20年稼働した「ピアース」ドッキングモジュールが分離し、大気圏に再突入して役割を終えた。

ISSから分離されたピアースモジュールとプログレス補給船。Credit: ROSCOSMOS
ISSから分離されたピアースモジュールとプログレス補給船。Credit: ROSCOSMOS

ナウカは今後、ラスヴェットドッキングモジュールからのエアロックの移動など本格運用のたための準備作業を予定している。9月以降は最大11回の船外活動を実施して準備を完了する予定だ。稼働開始後は、宇宙生物学や宇宙材料、物理学など13の実験が予定されている。

7月30日10:25更新

ナウカのドッキング後、ロシアの宇宙飛行士によるリークチェックが実施された。続く日本時間7月30日午前1時45分、誤ってナウカのスラスタ噴射が行われ、ISSの進路がそれたことがわかった。NASAによれば、現在ISSの姿勢と進路は正常に復帰しており、ISSコマンダーの星出彰彦宇宙飛行士を含む滞在中の宇宙飛行士に危険はなかったとしている。

ナウカのスラスタ噴射の影響確認のため、NASAは30日に予定していたボーイングの新型有人宇宙船「CST-100(スターライナー)」の無人試験飛行を延期した。新たな飛行予定は今後発表される。

サイエンスライター/翻訳者(宇宙開発)

1990年代からパソコン雑誌の編集・ライターを経てサイエンスライターへ。ロケット/人工衛星プロジェクトから宇宙探査、宇宙政策、宇宙ビジネス、NewSpace事情、宇宙開発史まで。著書に電子書籍『「はやぶさ」7年60億kmのミッション完全解説』、訳書に『ロケットガールの誕生 コンピューターになった女性たち』ほか。2023年4月より文部科学省 宇宙開発利用部会臨時委員。

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