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UEFAスーパー杯で、セビージャ 清武弘嗣がフル出場を果たした意味

杉山茂樹スポーツライター

今季ハノーファーからセビージャに移籍した清武弘嗣。だが、すぐに故障でチームを離脱し、治療のため日本に帰国。チームに合流したばかりの新人選手が、UEFAスーパーカップ(8月9日・スコピエ)にスタメン出場したのは予想外だった。

前シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)覇者対ヨーロッパリーグ(EL)覇者で争われるこの一戦。シーズン開幕を告げる風物詩的なイベントだ。プレシーズンマッチならではのお祭り的なのどかさを残す一戦ながら、UEFA主宰の公式戦であり、高い格式を誇る。日本人の出場は、2002年大会(レアル・マドリード対フェイエノールト)の小野伸二に次ぐふたり目となる。清武はいきなり、たいそうな舞台に立つことになった。

そもそもの驚きはEL覇者、しかも3年連続、通算5回優勝の実績があるセビージャへ移籍を果たしたことにある。前シーズン、ブンデスリーガ18位で降格したハノーファーからの移籍は、まさに2階級特進に値する栄転だ。

香川真司のいるドルトムントと同格、あるいはそれ以上に相当するまさに欧州のトップクラブ。ここでスタメン出場を果たせば、日本人の欧州組の中でナンバーワンのポジションにつくことを意味する。

想起するのは、09~10シーズンのCL決勝トーナメント1回戦。サンチェス・ピスファンで行なわれたセビージャ対CSKAの第2戦だ。そこで本田圭佑が叩き込んだ超弩級のFK弾は、日本代表の起爆剤となった。岡田ジャパンでそれまでサブだった本田は一躍スタメンを獲得。2010年南アフリカW杯で、救世主のような活躍を見せたことは記憶に新しい。

セビージャは、清武が日本代表の中心になれるか否か、判断の指標になるクラブ。僕はそう解釈している。その舞台に清武はスタメン選手として立った。しかも相手はレアル・マドリード。代表のスタメン争いで現状、本田、香川の後塵を拝する清武だが、ここで活躍すれば評価は変わる。岡田サンが以降、中心選手を中村俊輔から本田に代えたように、ハリルホジッチも心を変えざるを得なくなる――はずなのだ。

UEFAスーパーカップ、レアル・マドリード対セビージャは、そうした意味で、リオ五輪より代表チームにダイレクトに作用しそうな、日本人にとって注目すべき試合だった(結果は延長の末、3-2でレアル・マドリードが勝利)。

とはいえ、清武の2階級特進を懐疑的に見る人は多いはずだ。特進の根拠についてである。セビージャはなぜ清武を欲しがったのか。清武には本田や香川のようなコマーシャルメリットはない。お金が一緒に付いてくる選手ではない。そもそもセビージャは、そうしたヘンな色気を抱える体質のクラブではない。

目利きのスカウトが、実力の割に金銭的にお得感のある選手を獲得し、ワンランク、レベルの高い選手に成長させ、金満クラブに放出する健全なスタイルを貫いている。ダニ・アウベス(バルセロナへ移籍)、セルヒオ・ラモス(レアル・マドリードへ移籍)が、その代表格になるが、今季もケビン・ガメイロというセビージャに来てブレイクしたフランス代表選手を、アトレティコ・マドリードに送り出している。

セビージャはシンプルに清武を評価して獲得したと考えるのが自然だ。しかし、清武は日本代表でスタメンを取り切れていない選手。少なくともザッケローニ、アギーレ、ハリルホジッチはそう判断していた。それにまつわる異論がファンの間で噴出した様子もない。

うまい選手であることは確かだ。ボール操作にそつがなく、相手ボール時の反応も悪くない。かつての中盤選手像に照らすならば上々の選手ながら、例えば4-2-3-1の3の選手、アタッカーとして見た時には物足りなく映る。シュート力不足、パンチ力不足。ドリブルはうまいが、推進力がない。決定的な仕事に関わる力に欠ける選手に見えた。

アトレティコに放出したガメイロとの比較でも、その点で劣っている。セビージャ在籍時代、主に1トップ下で93試合に出場し39ゴールをマークしたフランス人選手の代役として清武を見るならば、弱いのだ。

清武獲得は、昨季までセビージャの監督を務めていたウナイ・エメリ(現PSG監督)時代に決まったことだという。今季、その座に就いたホルヘ・サンパオリ監督(前チリ代表監督)の意志ではない。

ところが、サンパオリは、清武をUEFAスーパーカップのスタメンで起用した。清武が故障明けで、チームに合流して間もないだというのに、だ。清武がどんな選手か確認したかった。理由を勝手に考えるならばそうなるが、理由がそれだけなら、途中交代もあり得たはずだ。

清武はプラス30分の延長戦込みのフルタイム出場を果たした。テストにしては長すぎる出場時間だった。

プレーそのものは、従来像そのままだった。4-3-「3」の「3」の右。4-2-「3」-1の「3」の真ん中。延長に入り退場者が出て10人になった以降は4-「4」-1の「4」の右と、ポジションを微妙に変えたが、どの場においても、そつなくこなした。チームの貴重な潤滑油になっていた。

(初出・集英社 Web Sportiva 8月11日掲載)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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