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実際のところ「チョコレート」は身体にいいのか

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 バレンタインデーにチョコレートをもらう人は多いが、チョコレートは身体にいい食べ物という情報がある。最新の研究から本当のところはどうか最新研究から考えてみた。

フラボノイドが豊富

 チョコレートの原料、カカオは、新大陸で先住民が利用し、侵略者が西洋へ持ち帰り、チョコレートという嗜好品になって広まった。カカオはメキシコあたりのアステカの人々が医薬品として、また神事のための儀式に利用していたという(※1)。

 カカオには、紅茶や緑茶などの茶葉、赤ワイン、ハチミツなどと同じポリフェノール(Polyphenol)の一種であるフラボノイド(Flavonoid)が多く含まれる。フラボノイドには抗炎症作用があるが、その作用により血管の内側の細胞を守り、血小板の凝集を抑制したりするようだ。

 フラボノイドは、血管や気管を収縮させ、喘息などを引き起こすとされるロイコトリエン(Leukotriene)という物質の濃度を下げ、血管を広げて抗血栓作用があるとされるプロスタサイクリン(Prostacyclin)という物質の濃度を上げる。

 また、フラボノイドには強い抗酸化作用があると考えられている。フラボノイドは、高密度リポタンパク質(HDL)を増やし、低密度リポタンパク質(LDL)の酸化を抑え、インスリンの抵抗性を下げる可能性があるからだ(※2)。

 ダーク・チョコレート(Dark Chocolate、Bitter Chocolate)に肥満を抑制する作用があるという研究も多い。ミルク・チョコレートとダーク・チョコレートを比べた研究によれば、ダーク・チョコレートを食べた後のほうが満腹感があり、総カロリー摂取量も少なかったという(※3)。

 ミルク・チョコレートに比べ、ダーク・チョコレートにはカカオが多く含まれる。カカオのフラボノイドには、脂肪や炭水化物の代謝を促進し、満腹感を感じさせる作用があると考えられ(※4)、ダーク・チョコレートには認知機能強化の作用も示唆されている(※5)。

分かれる評価

 複数の研究を比較分析した研究(システマティックレビューとメタ解析)でも、チョコレートが冠状動脈精神疾患や脳卒中などの心血管疾患、2型糖尿病を予防する効果があるとされている(※6)。

 ただ、2020年に発表されたポーランドのウォーミア・マズリ大学などの研究グループによる最新のシステマティックレビューとメタ解析研究(※7)では、チョコレートのこうした効果に対し、疑問を呈している。

 この研究論文は2018年7月までに発表された27の論文を比較分析して評価しているが、心不全(リスク比0.99)、2型糖尿病(リスク比0.94)にはチョコレートと疾患リスクの低減に関係はなく、冠状動脈精神疾患(リスク比0.96)と脳卒中(リスク比0.90)にわずかな効果がみられただけだった。

 また、結腸・直腸癌、高血圧の予防にも関係はなかったと考えられ、チョコレートの心血管疾患に関する予防効果にエビデンスは低いと結論付けている。

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チョコレートの摂取量(横軸:グラム/日)と各疾病リスク(縦軸)との関係を示したグラフ。Aは2型糖尿病、Bは冠状動脈精神疾患、Cは脳卒中、Dは心不全。AとDでは摂取量が増えるとむしろリスクが上がることがわかるが、1日10グラム前後の摂取で最もリスクが低くなるようだ。Via:Jakob Morze, et al., "Chocolate and risk of chronic disease: a systematic review and dose-response meta-analysis." European Journal of Nutrition, 2020

 このように、チョコレートが本当に身体にいいのかについては依然として議論が続いている。

 チョコレートは確かに美味しいが、砂糖が多く含まれ、カロリーも高い。食べ過ぎにはもちろん要注意だ。

※1:Tresesa L. Dilllinger, et al., "Food of the Gods: Cure for Humanity? A Cultural History of the Medicinal and Ritual Use of Chocolate." American Society for Nutritional Sciences, Vol.130, 2057S-2072S, 2000

※2-1:Eric L. Ding, et al., "Chocolate and Prevention of Cardiovascular Disease: A Systematic Review." Nutrition & Metabolism, Vol.3:2, doi.org/10.1186/1743-7075-3-2, 2006

※2-2:Sarah Marshall, "Chocolate: indulgence or medicine?" the Pharmaceutical Journal, 2008

※2-3:Lee Hooper, et al., "Effects of chocolate, cocoa, and flavan-3-ols on cardiovascular health: a systematic review and meta-analysis of randomized trials." The American Journal of Clinical Nutrition, Vol.95, Issue3, 740-751, 2012

※2-4:Katha Patel, et al., "Chapter 21- Chocolate and Its Component's Effect on Cardiovascular Disease." Lifestyle in Heart Health and Disease, 255-266, 2018

※3:L B. Sorensenn, et al., "Eating dark and milk chocolate: a randomized crossover study of effects on appetite and energy intake." Nutrition and Diabetes, Vol.1, e21, 2011

※4-1:Grace Farhat, et al., "Dark Chocolate: An Obesity Paradox or a Culprit for Weight Gain?" Phytopherapy Research, Vol.28, Issue6, 791-797, 2014

※4-2:Ying Wan, et al., "Effects of cocoa powder and dark chocolate on LDL oxidative susceptibility and prostaglandin concentrations in humans." The American Journal of Clinical Nutrition, Vol.74, Issue5, 596-602, 2001

※4-3:J Mursu, et al., "Dark chocolate consumption increases HDL cholesterol concentration and chocolate fatty acids may inhibit lipid peroxidation in healthy humans." Free Radical Biology and Medicine, Vol.37, 1351-1359, 2004

※5:Alexander N. Sokolov, et al., "Chocolate and the brain: Neurobiological impact of cocoa flavanols on cognition and behavior." Neuroscience & Biobehavioral Reviews, Vol,37, Issue10, 2445-2453, 2013

※6-1:Vincenza Gianfredi, et al., "Can chocolate consumption reduce cardio-cerebrovascular risk? A systematic review and meta-analysis." Nutrition, Vol.46, 103-114, 2018

※6-2:Bradley J. McEwen, "Medical Synopsis: The cardiometabolic benefits of chocolate- can chocolate be the elusive elixir to optimum health?" Advances in Integrative Medicine, Vol.5, Issue2, 80-81, 2018

※7:Jakob Morze, et al., "Chocolate and risk of chronic disease: a systematic review and dose-response meta-analysis." European Journal of Nutrition, Vol.59, 389-397, 2020

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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