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ジダンは負傷者続出と「S・ラモス不在」の問題を解決できるのか?レアルの3バックと試行錯誤の日々。

森田泰史スポーツライター
アリーバスとジダン監督(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

レアル・マドリーにとって、苦しいシーズンとなっている。

コパ・デル・レイで2部B(実質3部)に属するアルコジャーノに屈してベスト32敗退。スペイン・スーパーカップではアスレティック・ビルバオに敗れてタイトルを逃した。リーガエスパニョーラでは現在2位に位置している。

チャンピオンズリーグの結果次第で、ジネディーヌ・ジダン監督の進退が決まるだろう。現地時間25日にはそのチャンピオンズリーグの決勝トーナメント1回戦ファーストレグのアタランタ戦を控えており、準備に追われる日々が続く。

負傷離脱中のセルヒオ・ラモス
負傷離脱中のセルヒオ・ラモス写真:なかしまだいすけ/アフロ

今季、マドリーでは負傷者が続出している。それが状況を難しくしている。

セルヒオ・ラモス、エデン・アザール、フェデリコ・バルベルデ、ロドリゴ・ゴエス、エデル・ミリトン、ダニ・カルバハル、マルセロ...。ジダン監督が信頼を置いている選手が次々に戦線離脱した。リーガ第22節ウエスカ戦では、ベンチのメンバーでトップ登録しているのは5名のみだった。

とりわけ、S・ラモスの不在は大きい。

実際、マドリーはS・ラモス不在の試合で勝率が落ちる。ビッグマッチにおいてそれは顕著で、2018-19シーズンと2019-20シーズンではS・ラモスが欠場した試合でアヤックスとマンチェスター・シティに敗れて大会から姿を消した。

2017-18シーズン以降、ユヴェントス戦(×1-3)、CSKAモスクワ戦(×0-1)、CSKAモスクワ戦(×0-3)、アヤックス戦(×1-4)、パリ・サンジェルマン戦(×0-3)、クルブ・ブルージュ戦(×1-3)、シティ戦(×1-2)、シャフタール・ドネツク戦(×2-3)とチャンピオンズリーグの8試合で敗れている。その8試合で22失点を喫しており、事態は深刻だ。

「私は宿命論者ではない。フットボールとは、そういうものだ。それが私の分析だよ。難しい局面や困難な瞬間は訪れる。何もレアル・マドリーに限った話ではない。今シーズンは特殊なシーズンで、すべてのチームが似たような状況に置かれている。以前も言ったが、試合数が非常に多い。準備を十分にできずに開幕を迎えた。それは言い訳ではない。試合は多く、観衆はいない。どのように捉えるかは、それぞれ違うだろうがね」とは“決戦”となったチャンピオンズリーグ・グループステージ第4節インテル戦前のジダン監督の言葉だ。

「ラモスの重要性は理解している。だがデータは壊されるためにある。我々はそれを変えたいと思っている。勝ち点3が懸かったファイナルのような試合だ。苦しむかも知れない。だが我々は常に勝利を望んでいる。引き分けや敗戦に思いを巡らせることはない。何が起こるかは分からない。それでも我々は勝つためにピッチに向かう」

インテル戦のクロース
インテル戦のクロース写真:Maurizio Borsari/アフロ

S・ラモスの不在を解決する鍵、そのひとつは中盤にある。トニ・クロース、ルカ・モドリッチ、カゼミーロの3選手はジダン監督にとって必要不可欠だ。

なかでもクロースの重要性は日を追うごとに増している。今季、リーガでは1503本のパス本数、1410本のパス成功本数を誇り、パス成功率は93.8%だ。パス本数はフレンキー・デ・ヨング(1638本)とダニ・パレホ(1632本)に続いて3位、パス成功率はトップの数字である。

クロースは2014年夏に移籍金2500万ユーロ(約30億円)でバイエルン・ミュンヘンからマドリーに移籍。以降、マドリーで中枢を担う選手になった。カルロ・アンチェロッティ監督、ラファエル・ベニテス監督、フレン・ロペテギ監督、サンティアゴ・ソラーリ監督、ジダン監督とすべての監督が彼に信頼を寄せた。

クロースはマドリーに在籍したドイツ人選手として、レコードを塗り替えようとしている。ウリ・シュティーリケ(1977年から1985年に在籍/308試合出場)の記録に、あと1試合と迫っている。

だがそれはマドリーの盤石の中盤が前提にある。クロース、モドリッチ、カゼミーロの3選手が組んだ試合は118試合だ。フェデリコ・バルベルデ、マルティン・ウーデゴールといった若い選手に付け入る隙を与えていない。ウーデゴールに関しては、今冬の移籍市場で出場機会を求めてアーセナルに移籍することになった。

■システムチェンジ

また、もうひとつの鍵がシステムチェンジだ。

ジダン監督はリーガ第1節延期分ヘタフェ戦で3バックを試した。【3-1-4-2】と【3-4-3】の可変システムはヘタフェのホセ・ボルダラス監督を驚かせた。

最終ラインに入ったフェラン・メンディ、ラファエル・ヴァラン、ナチョ・フェルナンデスのプレーは安定していた。この試合で好パフォーマンスを見せていたマルセロの負傷は災難であったが、マルヴィン・パークやセルヒオ・アリーバスといったカンテラーノがチャンスをつかみ、チームに新たな風を吹き込んだ。

今季、マドリーが3バックを施行したのは初めてだった。昨季はプレシーズンのザルツブルク戦とローマ戦で試験運用していた。しかしながらシーズン中にジダン監督が3バックを使うことは基本的になかった。戴冠に成功した昨季のスペイン・スーパーカップでは【4-5-1】を採用したが、それ以外の布陣変更はあまりなされなかった。

「練習する時間はなかった。だが選手たちの理解度は高かった」とジダン監督はヘタフェ戦後に語っている。準備が少なくとも機能したのは選手の適正に合致したからなのか。このシステムを使い続ける可能性はあるのか。それは定かではない。だが指揮官の頭の中では、勝利を目指す道筋が少しずつ確かに描かれている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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