羽生善治九段は6位 藤井聡太七段は93位 将棋界の席次はどのようにして決まるか
将棋の棋士の席次(序列)は、最上位のタイトルホルダーから四段の新人まで、ルールに従って決められています。この席次がどのように決まるかについては、やや複雑で難解なので、クイズ形式にしてみたいと思います。
次にあげる2人の棋士のうち、席次上位なのはどちらでしょう(かっこ内は年齢)。
(問1)佐々木勇気七段(24)-藤井聡太七段(16)
(問2)羽生善治九段(48)-永瀬拓矢叡王(26)
(問3)永瀬拓矢叡王(26)-斎藤慎太郎王座(26)
(問4)渡辺明棋王・王将(35)-広瀬章人竜王(32)
(問5)谷川浩司九段(57)-羽生善治九段(48)
(問6)佐藤康光九段(49)-森内俊之九段(48)
(問7)広瀬章人竜王(32)-豊島将之名人・王位・棋聖(29)
順に考えていきましょう。
同じ段位では席次は昇段順
(問1)佐々木勇気七段(24)-藤井聡太七段(16)
佐々木勇気七段は2010年10月、16歳で四段に昇段。一方の藤井聡太七段は、2016年10月、14歳で四段に昇段。いずれも次代の将棋界を担うであろう若手のホープです。
2017年、藤井四段(当時)のデビュー以来無敗の29連勝をストップさせたのは佐々木五段(当時)。先輩の貫禄を見せたと報道されました。
七段に昇段したのは両者ともに2018年。藤井七段が5月18日で、佐々木七段が11月16日でした。同じ段位の場合には、その段位に先に昇段した方が席次上位となります。そのため現時点では、藤井七段が席次上位です。
将棋連盟ウェブページ「現役棋士一覧」の紹介では、「タイトル保持者」の項目は、現在のタイトル保持者5人と永世称号有資格者4人も含めて計9人。以下、段位ごとに数えていくと、次の表の通りとなります。
現在、タイトルホルダーをのぞいた七段の人数は42人。その中で藤井七段は35番目、佐々木七段は39番目です。
現役棋士167人全体の席次では、藤井七段は93位、佐々木七段は97位となります。両者ともに、もしタイトルを獲得すれば、90人ぐらいを抜かしてジャンプアップすることになります。
ただし同段の場合は上座は棋士番号順
将棋会館でおこなわれる公式戦では、原則的に上位者が上座に着くことになっています。ただし、ここもまた難しいところですが、席次は昇段順でも、現実の対局の際には、同段の場合には棋士番号順という運用がなされています。こちらの方が棋士の自然な感覚に合っているようです。
現役タイトル保持者が席次上位
(問2)羽生善治九段(48)-永瀬拓矢叡王(26)
2019年6月4日。東京・将棋会館において、羽生善治九段と永瀬拓矢叡王による王位戦リーグ白組プレーオフの対局がおこなわれました。羽生九段にとっては、史上最多の公式戦通算1434勝目がかかった一局。マスコミの注目度も高く、テレビのニュース映像でも伝えられました。その際に、朝の上座の譲り合いの様子も取り上げられていました。
羽生善治九段“歴代最多勝利”かけ対局中(日テレNEWS24)
http://www.news24.jp/articles/2019/06/04/07445903.html
まず席次をいえば、羽生九段と永瀬叡王とでは、現役タイトル保持者の永瀬叡王の方が上位です。
ただし、羽生九段は現代将棋界の第一人者。現在は無冠ですが、七大タイトルの通算獲得数は通算99期。しかもその永世称号をすべて保持しています。年齢的には、羽生九段が二十歳以上も歳上です。
こうした際にはしばしば「上座の譲り合い」が起こります。
永瀬叡王は早めに対局室に入って、下座に着いている。後で入室した羽生九段が、
「いやどうぞ、本当に、向こうに行って」
と言って上座を譲る。永瀬叡王が席次通り上座に座ることで落ち着き、対局が始まる。両者のケースは典型的でした。両者の間だけではなく、朝の将棋会館では、日常的にそんなやり取りが見られます。
永瀬叡王と羽生九段の上座の譲り合いは、新聞では以下のようにおおむね、好意的に伝えられました。
タイトルの保持者同士の席次
(問3)永瀬拓矢叡王(26)-斎藤慎太郎王座(26)
タイトル保持者の席次は原則的に、タイトルの序列に従います。
将棋連盟ウェブページ「棋戦一覧」ではタイトルは序列順に並んでいます。
https://www.shogi.or.jp/match/
タイトルの序列は順に、竜王、名人、叡王、王位、王座、棋王、王将、棋聖。
叡王は序列3位、王座は序列5位ですので、永瀬叡王が席次上位となります。
関東の永瀬叡王、関西の斎藤王座は、いずれも若手棋士の代表格です。
永瀬叡王は1992年生まれ。斎藤王座は93年生まれ。
四段に昇段して棋士となったのは永瀬叡王が2009年10月で17歳の時。一方、斎藤王座は2012年4月で18歳の時。現在の段位は両者ともに七段です。
順位戦では斎藤王座が先行してB級1組にまで昇級し、今期から永瀬叡王が追いつきました。
現在進行中の王座戦本戦トーナメントでは、永瀬叡王がベスト8に進出しています。もしかしたら、今期王座戦五番勝負は、斎藤王座-永瀬挑戦者という組み合わせになるかもしれません。
竜王、名人はタイトルの中でも別格
(問4)渡辺明棋王・王将(35)-広瀬章人竜王(32)
渡辺二冠は棋王(序列5位)と王将(序列6位)という2つのタイトルを同時に保持しています。一方の広瀬章人竜王は、序列1位のタイトルを保持しています。
複数のタイトルを保持している場合は原則的に、1つのタイトル保持者よりも上位となります。ただし竜王と名人は別格で、それらを持っている側が、複数タイトル保持者よりも上位となります。
よって広瀬竜王の方が席次が上位です。
以下は仮定の問題です。
(問A)現在、棋聖戦五番勝負で豊島将之棋聖(名人・王位)と渡辺明挑戦者(棋王・王将)が対戦しています。渡辺挑戦者がもし五番勝負を制すると、豊島二冠(名人・王位)、渡辺三冠(棋王・王将・棋聖)となります。そうなった場合、席次上位はどちらでしょう?
この場合も同様で、豊島名人の方が、渡辺三冠(仮)よりも席次上位です。
(問B)永瀬叡王が王座を奪取した場合、永瀬二冠(叡王・王座)と渡辺二冠(棋王・王将)では、どちらが席次上位となるでしょうか。
この場合は序列上位の叡王を保持している永瀬二冠(仮)の方が、席次が上となります。
ちなみに長く続けられている渡辺明現二冠のブログでは2008年、森内名人、渡辺竜王、羽生二冠、佐藤康光二冠の頃の席次の話が書かれています。
棋聖戦最終予選、対羽生二冠戦。(渡辺明ブログ)
https://blog.goo.ne.jp/kishi-akira/e/8386a91ee9d05d50cd870481bc60eabd
永世称号有資格者は資格取得順
(問5)谷川浩司九段(57)-羽生善治九段(48)
実績十二分ながら、現在は無冠の両者。これは難問です。
谷川現九段は1983年、21歳の時に史上最年少で名人位に。1997年には17世名人の資格も得ています。タイトル通算は27期。
羽生現九段は1989年、20歳の時に竜王位に。1995年に永世棋王となったのを皮切りに、永世称号資格も次々と手にして、2008年には永世名人、2017年には永世竜王に。いわゆる「永世七冠」を達成しました。タイトル通算は99期。
2009年5月23日。王位戦リーグ白組5回戦で両者の対戦がありました。先に対局室に入って下座に着いたのは、先輩の谷川現九段。実は席次の通りでもありました。
永世称号資格者同士では、先に永世称号を得た方が席次上位となります。
羽生現九段は1995年、棋王連続5期で「永世棋王」に。
谷川現九段は1997年、名人通算5期で「永世名人」に。
よって規定では、羽生現九段が席次上位となります。
(問6)佐藤康光九段(49)-森内俊之九段(48)
佐藤現九段は2006年、棋聖通算5期で「永世棋聖」に。
森内現九段は2007年、名人通算5期で「永世名人」に。
よって佐藤康光九段が席次上位となります。
黄金世代のライバル同士。年齢は佐藤現九段が1歳上。四段に昇段して棋士となったのは、佐藤現九段が1987年3月25日。森内現九段が同年5月13日。棋士番号は佐藤182、森内183。タイトル通算は佐藤13期、森内12期。
竜王と名人の席次
前述の通り、竜王と名人はタイトルの中でも別格とされています。では、その保持者のどちらが席次1位でしょうか。
(問7)広瀬章人竜王(32)-豊島将之名人・王位・棋聖(29)
これもまた難問でしょう。
広瀬章人竜王は現在32歳。豊島名人より先に四段に昇段して棋士となり、棋士番号は255。タイトル戦の序列1位である竜王戦で頂点に立ち、竜王のタイトルを保持しています。
豊島将之名人は現在は29歳で棋士番号は264。王位、棋聖を併せ持ち三冠です。
どこがポイントになるかですが、この場合はタイトル保持数です。竜王保持者と名人保持者、どちらかが複数のタイトルを持つ場合は、そちらが席次上位となります。よって現在は三冠である豊島名人が席次1位です。
(問C)仮定の問題です。豊島名人が今後、棋聖と王位を失って、名人だけとなった場合、広瀬竜王とはどちらが席次上位となるでしょうか。
竜王と名人の保持者が、他にタイトルを持っていない場合には、先に棋士(四段)となり、棋士番号が小さい方である方が席次上位となります。豊島名人と広瀬竜王の場合には、広瀬竜王が先に棋士となっています。上記仮定(問C)の場合には、広瀬竜王が席次1位となります。
まとめ
以上を踏まえて、現在の席次上位は以下の通りとなっています。
将棋連盟のウェブページ「現役棋士一覧」では席次通りに棋士の名が並べられています。ご確認ください。