仮想空間でアピールできる技術の可視化。京セラ、メタバース内に広報力を高める新展示ワールドを公開
新型コロナウイルス感染症の影響はいまだ予断を許さない状態が続くものの、2023年に入ってからはB2B向けの大規模展示会の多くが復活してきました。
展示企業にとっては直接顧客とコミュニケーションできる場だし、来場者にとっては展示企業の最新技術を閲覧しながらその場で商談に入れるメリットがあります。また両者にとって市場動向を見極める場としても価値があり、展示会はビジネスシーンにおいてなくてはならない存在といえます。
ステイホームが推奨されたコロナ禍においては、展示会の情報発信はオンラインでの開催が中心となっていました。特に仮想空間の中に自由な広さの展示スペースを用意できる様々なメタバースは、B2B向け展示の技術としても多方面で注目されていました。
しかし大型展示会のリアル開催が復活してきた現在。メタバースを用いたオンライン展示会、バーチャル展示のメリットはなくなりつつあるのでしょうか。
1km先に光を届けるLaserLightテクノロジー
2023年6月、京セラは1km先を照射できるLaserLightテクノロジーのバーチャルショールーム「Kyocera Laser World」をメタバースサービスの1つ、VRChatにオープンしました。
LaserLightテクノロジーとはLEDとハロゲンランプ両方のメリットを持ち、コンパクトでありながら強い光を遠くまで届けるレーザーライト(レーザーダイオード)の技術。懐中電灯やスポットライトなど照明用ライトとしてだけではなく、自動車のヘッドライトやプロジェクターの光源など、様々な市場で活用されている技術です。
上の動画でも、ヘリコプターから地上やビルの屋上を照らしている様子が伺えます。
もし現実の展示会場でLaserLightテクノロジーを採用したプロダクトを展示するとなると、多くの人で混み合う展示会場という場所での点灯デモンストレーションが難しいという課題があります。それだけ強烈な光が人の目に入ったら大変ですから。
また商品のみの展示、モニター上での動画再生やパンフレットでの技術解説だけだと、他のメーカーが展示している技術との差がわかりづらいんですよね。
しかし仮想空間であれば、バーチャルとはいえLaserLightテクノロジーを採用した製品の3Dモデルを手に持ち、様々な角度から見ながら使用している雰囲気を体験することが可能です。
海中のワイヤレス技術を支えるレーザーLi-Fi
新しい市場開拓を目指した技術の展示も、仮想空間・メタバース的サービスを用いたバーチャル展示の得意とするところです。
京セラは高輝度なレーザーダイオードの特性を活かし、光を使った無線通信技術・レーザーLi-Fi(Light Fidelity)の技術開発も進めています。この技術は、海中間または海中と海上の通信技術として注目されています。
Wi-Fiなどの電波は水に吸収されるために、1メートルという短い距離の通信ですら難しい。そのため従来は超音波(ソナー)や有線ケーブルを用いて通信が行われていました。しかし超音波は通信レートが極めて低い、有線ケーブルは設置に多くのコストがかかります。
そこで水中でも光が届きやすいGaN青色レーザーを用いて、海中ドローンのワイヤレス通信を可能にしようとする試みも進めています。
これから注目される分野ゆえに、現時点で技術の詳細を解説するとしたらCG動画を用いるのが一般的。しかし仮想空間内のバーチャル展示であれば自由な角度から観察できます。
「Kyocera Laser World」ではテーマパークのライド・アトラクションのような展示スタイルとなっており、同乗した参加者同士で意見を交わしながら水中内で海中ドローンのワイヤレス通信を活用している様子を見ることができます。
メタバースを用いたバーチャル展示は現実の展示会場では難しい内容の展示に向いており、コロナ禍の影響とは関係なく、バーチャルには独自のメリットがあるといえます。
仮想空間の特性を活かせる展示ができるかどうか
メタバースを用いたバーチャル展示は、様々な企業や自治体が取り組んでいます。しかし空間を自由に使える仮想空間のメリットを活かした展示はまだ少数です。
今回取り上げた京セラの取り組みに関しても、1km先まで照射できる懐中電灯を展示するのであれば、実際に1km先に光を届けられるバーチャル展示エリアがあってもよかったのでは、と感じます。
B2B向けの取り組みということで、来場者は照明技術に明るい技術者が多い、と見越しているのかもしれません。
しかしGaN青色レーザーを用いたレーザーLi-Fiの展示がアトラクション仕立てで楽しく体験しながら理解度を高められる展示だっただけに、LaserLightテクノロジーの展示エリアも同様に、重力や空間の広さを自由にコントロールできるメタバースのメリットを活かしたほうが、趣味でVRChatにログインしている来場者にとっても理解しやすい展示内容になったのではないでしょうか。