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【鈴鹿8耐】プレミアライダーの参戦はあるか?海外ライダーの今季の活動状況から可能性を探る。

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
カワサキ「Team GREEN」で走る渡辺一樹。チームはどんな布陣に?

7月31日(日)に鈴鹿サーキットで決勝レースを迎える「コカ・コーラゼロ鈴鹿8時間耐久ロードレース第39回大会」の記者発表会が東京モーターサイクルショーの会場内で3月25(金)に開催される。今年のイベント概要の発表の他に今年も優勝を狙う各メーカーの主要チームが登場。今季の参戦体制についても何らかの発表があるかもしれない。昨年はこの発表会で元MotoGPワールドチャンピオン、ケーシー・ストーナーの現役復帰、鈴鹿8耐参戦が発表された。

今回は海外のプレミアクラスのレースを主戦場とする「鈴鹿8耐」に参戦経験のあるライダーを中心に、今季のそれぞれの動向をまとめてみた。

2015年を制したヤマハファクトリー 【写真:MOBILITYLAND】
2015年を制したヤマハファクトリー 【写真:MOBILITYLAND】

チャンピオンのヤマハには誰が乗る?

現役MotoGPライダーのポル・エスパルガロ【写真:MOBILITYLAND】
現役MotoGPライダーのポル・エスパルガロ【写真:MOBILITYLAND】

最新の電子制御で武装された新型「YZF-R1」をデビューイヤーで見事、鈴鹿8耐の頂点へと導いたヤマハワークス=「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」。昨年は全日本のエース中須賀克行を筆頭に、現役MotoGPライダーのポル・エスパルガロブラッドリー・スミスを擁するというファクトリーチームならではの豪華ラインナップを編成し、ポールポジションからの優勝という快挙を成し遂げた。

MotoGPの忙しいスケジュールをぬってヨーロッパと日本を往復してテスト走行、レース本番に参加したエスパルガロとスミスだが、彼らは真夏の耐久レースを心底楽しんでいただけに今年も参戦を期待したい。ディフェンディングチャンピオンのメンバーだけに今年も可能性があるとしたら、早い段階で発表されることになるだろう。

ロッシの8耐再挑戦はファンの夢【写真:MOBILITYLAND】
ロッシの8耐再挑戦はファンの夢【写真:MOBILITYLAND】

ただ、今のところ、確証が取れる噂は聞こえてこないので、別の可能性も探ってみよう。MotoGPを巡る動きとして、ヤマハは開幕戦という始まったばかりのタイミングでバレンティーノ・ロッシの2018年までの契約延長を発表した。ヤマハは成長著しいアジアのマーケットに力を入れており、アジア選手権の将来有望な選手をロッシが主宰する「VR46ライダーズアカデミー」に送り込むことも発表している。同アカデミーへのヤマハ製バイクの供給などオフィシャルパートナーとして結びつきを強めるヤマハとロッシ。昨年は単なる噂レベルに留まっていたロッシの鈴鹿8耐参戦だが、今後可能性は増すものと考えてもよいと思う。

ただ、現実的には昨年ワールドチャンピオンを争ったロッシとロレンソの参戦の可能性は低い。ロッシは契約を更新したが、ロレンソはドゥカティへの移籍がイタリアメディアによって報道されていたりと、まだ契約書にはサインしていない。もし、仮にロレンソが移籍ということになれば、MotoGPヤマハワークスとしては次なるエースを探さなくてはいけないことになる。そのスロットを狙う現役MotoGPライダーなら是が非でも鈴鹿8耐のオファーを受けるだろう。

昨年ヨシムラスズキから参戦したアレックス・ロウズはヤマハにスイッチ。
昨年ヨシムラスズキから参戦したアレックス・ロウズはヤマハにスイッチ。

ヤマハに関してはMotoGPだけでなく、今季からは「スーパーバイク世界選手権(WSBK)」にもYZF-R1でファクトリーチームを参戦させている。YZF-R1で戦う鈴鹿8耐だけにシルヴァン・ギュントーリアレックス・ロウズが参戦する可能性もある。2人のうち鈴鹿8耐の経験があるのはアレックス・ロウズ。昨年、スズキのライダーとして「ヨシムラ・スズキ・シェルアドバンス」から参戦して5位完走を果たしたロウズ。初の耐久レースながらも安定していた彼の走りは大きな戦力になるだろう。

また、昨年からヤマハは全日本JSB1000にジュニアチームとして「YAMALUBE RACING TEAM」を参戦させているが、野左根航汰藤田拓哉の2人も次世代のヤマハを担っていく存在だけに、今年はジュニアチームの参戦も是非とも期待したいところだ。

スズキは移籍多数。清成の参戦は濃厚か?

トップチームとして「ヨシムラ・スズキ・シェルアドバンス」「Team KAGAYAMA」が優勝を狙うスズキ勢の動向はどうだろうか?

2015年、スズキのバイクで参戦した清成【写真:MOBILITYLAND】
2015年、スズキのバイクで参戦した清成【写真:MOBILITYLAND】

注目はやはり4度の鈴鹿8耐優勝を飾っている清成龍一だ。ホンダのライダーとしてレース活動を長く行ってきた清成はこの2年間、「英国スーパーバイク選手権(BSB)」にBMWで参戦。事実上、日本のメーカーとのつながりは無くなり、鈴鹿8耐参戦はしばらく無いと思われていたが、昨年、加賀山就臣が自身のチーム「Team KAGAYAMA」にメーカーの枠を超えて招聘し、見事3位表彰台を獲得した。その清成が今季、スズキに正式に移籍し、BSBに「ベネッツ・スズキ」から参戦する。自身、鈴鹿8耐の最多勝タイの5勝目前ということもあり、今年の参戦が有力視されている。

スズキ勢としては、上記2チームの他に「MotoMap SUPPLY」が早々と参戦を発表。今野由寛青木宣篤ジョシュ・ウォーターズのトリオが既に決定しており、津田拓也、アレックス・ロウズ、ジョシュ・ウォーターズの3人で昨年の鈴鹿8耐に挑んだ「ヨシムラ」はロウズがヤマハへ移籍、ウォーターズも既に決定済みで、津田のチームメイトを2人探さなくてはいけないことになる。

今季、スズキは噂されていた新型GSX-R1000がまだデビューできていない状態で、WSBKの参戦もない。スズキ系の有力参戦レースとしてはBSBの「ベネッツ・スズキ」に清成龍一とトミー・ブライドウェルが乗っている。ブライドウェルは昨年BMWの海外チームから鈴鹿8耐に参戦した。

元Moto2世界王者のトニ・エリアスは昨年、TOHO Racingから参戦した。
元Moto2世界王者のトニ・エリアスは昨年、TOHO Racingから参戦した。

また、アメリカの「AMAスーパーバイク選手権」にはヨシムラUSAの「YOSHIMURA SUZUKI FACTORY RACING」が参戦。3人のライダーの1人としてMoto2初代ワールドチャンピオンのトニ・エリアスが発表された。エリアスは昨年、「モリワキ」とのつながりからホンダの「TOHO RACING with MORIWAKI」から鈴鹿8耐に初参戦。そんなエリアスが今季はAMAにシリーズ参戦するということは「ヨシムラ」のライダー候補にも当然入っていることだろう。

また、希望的観測としてやはりヤマハ同様にMotoGPライダーの参戦も期待したいところ。今季のMotoGPではスズキが好調で、開幕戦のカタールではマーべリック・ビニャーレスがフロントローを獲得するなど活躍が楽しみなだけにファンとしては今が旬のライダーをぜひ鈴鹿8耐で見たいところだろう。

「ヨシムラ」のラインナップだけでなく、2013年はケビン・シュワンツ、2014年はMoto2のドミニク・エガーター、2015年は清成を起用し、毎年のようにファンを驚かせてきた「Team KAGAYAMA」のサプライズが今年も楽しみだ。

カワサキは新型ZX-10Rに誰が?

2014年からトップチームとして「Team GREEN」が参戦しているカワサキ。今季も全日本JSB1000は柳川明渡辺一樹の2台体制で参戦するので、この2人の鈴鹿8耐参戦は確実。そこで気になるのが3人目のライダーだ。

カワサキ「Team GREEN」【写真:MOBILITYLAND】
カワサキ「Team GREEN」【写真:MOBILITYLAND】

カワサキは昨年、鈴鹿8耐ウイナーのジョナサン・レイを擁し、WSBKでチャンピオンに輝いた。新型ZX−10Rになった今季もレイとトム・サイクスのコンビは変わらず、開幕から4連勝と好調だ。そんな高いポテンシャルを発揮している新型ZX−10Rを駆ることになるのは誰なのだろう?

昨年、本人のツイッターで明らかになったが、ジョナサン・レイは鈴鹿でテスト走行を行っていた。しかし、WSBKでチャンピオンに向けて連勝街道を走っていたレイは鈴鹿8耐には参戦せず、WSBKに集中した。やはりウイナーのレイがカワサキZX-10Rで走る姿は見てみたいものだが、今季は開幕3連勝を飾ったとはいえども他メーカーのポテンシャルアップもあってWSBKはかなりの接戦。身体への負担、怪我の可能性を考えると参戦は難しいかもしれない。

WSBKでは昨年ホンダの「F.C.C. TSR Honda」から参戦し2位となったジョシュ・フックがカワサキのプライベートチームから参戦(怪我のため欠場)しているほか、シルヴァン・バリアーもカワサキに移籍。バリアーは2013年に鈴鹿8耐に参戦しているが転倒による怪我のため決勝レースは走っていない。

2度の優勝ライダー、レオン・ハスラム【写真:MOBILITYLAND】
2度の優勝ライダー、レオン・ハスラム【写真:MOBILITYLAND】

一方、BSBに目を移してみると、2013年、14年とホンダの「MuSaShi RT HARC PRO」で2連覇を達成したレオン・ハスラムが今季はカワサキからBSBに参戦しているのが興味深い。実績からいけば、ハスラムはかなりの戦力になるが、BSBは7月〜8月は2週ごとにレースがあり、イギリスと日本の往復でかなりのハードスケジュールになる。

昨年は3人目のライダーとして、「ロードレースアジア選手権」SS600クラスを戦うインドネシア人、ハジ・アハマッド・ユディスティラが起用され、初めての1000ccバイクながら高い順応性を見せた。今季はアジア選手権には昨年までMoto2を戦っていたマレーシア人、アズラン・シャー・カマルザマンがカワサキから参戦することになり、鈴鹿4耐優勝、8耐参戦経験があるアズランも「Team GREEN」に加わる可能性が充分にある。

ホンダにはもしや、超大物ライダーが!?

昨年、ケーシー・ストーナーの電撃復帰、鈴鹿8耐挑戦で話題を振りまいたホンダだったが優勝ならず。ストーナーはドゥカティの契約ライダーとなったため、今季の目玉は誰になるのか、気になるところだ。

ホンダ勢の話題としては昨年2位の「F.C.C. TSR Honda」が「F.C.C. TSR Telulu」として4月に開催されるFIM世界耐久選手権の開幕戦「ルマン24時間レース」に参戦する。これは8耐仕様のファクトリーマシンではなく、24時間に対応したホンダCBR1000RRで、ライダーには若手の渡辺一馬、そして耐久ライダーとして経験豊富なダミアン・カドリン、そしてフランス人の若手ライダー、アラン・テシェが起用される。ルマン参戦はホンダのワークス活動とは別の活動のため、TSRの8耐ラインナップが同じとは限らない。

「MuSaShi RT HARC PRO」で高橋巧と走るのは誰だろう?
「MuSaShi RT HARC PRO」で高橋巧と走るのは誰だろう?

気になるのは、ホンダのファクトリーマシンを走らせる「MuSaShi RT HARC PRO」が誰を起用するかだ。高橋巧と共に3年連続で戦ってきたマイケル・ファン・デル・マークの参戦は濃厚と言われているが、ストーナーが抜けたスロットに誰が?というところだろう。

ファン・デル・マークも参戦するWSBKのホンダCBR1000RRは絶好調の滑り出しを見せている。ファン・デル・マークは開幕から3連続表彰台でランキング3位。すでにオールドスクールなモデルとなっているCBR1000RRは近年苦戦を強いられていたが、今季はしっかりとトップ争いに絡んでいる。

ニッキー・ヘイデン(2007年)【写真:MOBILITYLAND】
ニッキー・ヘイデン(2007年)【写真:MOBILITYLAND】

ファン・デル・マークのチームメイトとなったのが、元MotoGPワールドチャンピオンのアメリカ人、ニッキー・ヘイデンだ。プロダクションバイクでのレースが久しぶりということもあり、まだ序盤戦では表彰台に立てていないものの、MotoGPとSBKで初の両ワールドチャンピオン獲得を目標に戦いの場を移したヘイデンだけに、それを受け入れるホンダの鼻息の荒さはリザルトに表れているともいえよう。ヘイデンが参戦となれば、実に2003年鈴鹿8耐以来ということになるが、果たして。

鈴鹿のファン感謝デーの翌日、3月14日(月)に各メーカーのトップチームはテスト走行の機会が設けられた。TSRはルマン24時間に向けた準備のテストを行ったものの、HARC PROに関しては鈴鹿のファン感謝デーを終えてそのまま撤収した。このテストで走らなかったのはすなわち、全日本JSB1000開幕、鈴鹿8耐に向けた何らかのアップデート仕様が登場するのでは?とも考えられる。ホンダはWSBKで好調なだけに鈴鹿8耐のリベンジに期待したいところだ。

ここまで、各メーカーの可能性を探ってみたが、鈴鹿8耐の体制は各ライダーが参戦する選手権の戦況によっても布陣が精査されていくので、あくまで予想。7月にテストが本格化するまでの間、トップチームのラインナップや戦力図を妄想しながら勝手に8時間をシミュレーションするのも「鈴鹿8耐」のひとつの楽しみ方だ。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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