山田孝之&松山ケンイチ/裸足になって京都の田んぼで手植え 自給自足に挑む二人の目指すもの
【山田孝之さん&松山ケンイチさんインタビュー】
「生きる力を学びたい」と全国の達人の元を訪ね、有機自然栽培農法や釣りなど学んだことをメンバーにシェアするコミュニティ『原点回帰』を2021年に立ち上げ、自給自足の生活に取り組む山田孝之さんと、数年前から東京と田舎の二拠点生活を始め、トマトやスイカなどを育てる松山ケンイチさん。
現在放送中の大河ドラマ『どうする家康』でも共演する、日本を代表する俳優二人がことし5月末に京都・宮津市にある棚田を訪れ、70年以上無農薬栽培を続けている田んぼで苗の手植えを行った。
なぜ二人はそれぞれ自給自足に取り組むのか。その理由や想いについてたっぷりと語っていただいた。
筆者はことし1月、視察ためにこちらの田んぼを訪れる山田さんに同行。当時は冬の寒い時期だったので周りには草花は生えていなかったが、半年ぶりに訪れた京丹後の棚田のまわりには草花が生い茂り鳥たちの声が響き渡り、いたる所が生命力に満ちていた。
松山ケンイチさん(以降:松山さん)「京丹後には撮影で来たことがあるんですけど、(棚田がある)ここまで上に上がってきたのは初めてですね。京丹後全体もそうなんですけど、すごい自然に囲まれてるので、鳥の鳴き声だったりとか、虫の鳴き声とかがたくさん聴こえてきて、僕はすごく落ち着けて好きですね。うん、普通に生きてられる」
「『原点回帰』のことはよく知ってたんですよ」と松山さん。メディアを通して山田さんの取り組みについて知っていたのだそう。
松山さん「ムービーとかでも見たことありますし、前に水原さん(水原希子)と一緒に畑をやってましたよね」
山田孝之さん(以降:山田さん)「うん、佐賀の畑に来てくれて」
松山さん「そういうのも見ていたので、今回一緒に田植えをするっていうお話をいただいて、『あ、面白いな』と思って、是非参加させていただきたいなと思ってました」
二人は現在、NHKで放送中の大河ドラマ『どうする家康』でも共演中だ。
松山さん「山田さんとは撮影現場ではお互いの畑のお話とか、『菌ちゃん農法』の話とかしていますよ」
山田さん「いつもそんな話ばっかりですよね(笑)」
昔ながらの手植えを体験
今回、『原点回帰』の田んぼを訪れた山田さんと松山さんは、稲の苗を手で植える昔ながらの田植えを行った。
山田さん「田植えは僕は初めての体験でした」
松山さん「あ、そうだったんですか」
山田さん「全く初めてですね。あのちっちゃい苗が大きくなって、秋になって黄金色になったらそれは相当感動するだろうなと思いながら苗を植えていました。自分で育てた野菜を食べてもそうだし、釣った魚を自分でさばいて食べるときもそうだけど、今度は自分で苗を植えたお米を茶碗で食べたら、もうめちゃくちゃ美味いだろうな」
松山さん「『原点回帰』のメンバーの皆さんもこれから一緒に田植えして、収穫して、そのあとみんなでおにぎりを食べたり。そういうのができたら、みなさんすごく喜ぶんじゃないですかね。ありがたみを感じるというか」
過去完全無農薬の田んぼで育てられたお米
この日、『原点回帰』の田んぼを訪れた二人は、田植えを教えていただく地元農家・溝口さんの家でこの土地で大切に育てられた無農薬の白米で握ったおにぎりを味わった。
松山さん「お母さんから食べさせていただいたおにぎりは、塩にぎりに笹を巻いたシンプルなものでしたが、やっぱりシンプルだからこそ、何か染みるものはすごくありました」
おにぎりをいくつも食べながら、『原点回帰』が山口県萩市のとある無人島にも畑を作っていることを山田さんから聞かされ、「無人島ってことは伐採だけじゃなくて、抜根もするんですか? とても大変じゃないですか。いや、すごいな」と驚く松山さん。
二人の会話は、そばで聞いていると俳優同士の会話とは思えないほど、農についての造詣が深い。
「『原点回帰』はすべての畑できちんと収穫できてるって、すごくないですか?」と松山さん。山田さんが野菜作りに取り入れている有機自然栽培農法の『菌ちゃん農法』について興味津々の様子だった。
裸足になって田んぼに入る二人
食事の後、これから始まる田植えについて田んぼを管理している農家の溝口喜順さんと飯尾醸造で米づくりを担当している伊藤浩二さんから説明を受ける二人。
「田んぼの底の方に尖った石があるかも知れない」と心配されるが、「70年以上無農薬の土なら足から栄養を得られるかも」と言って持参した長靴を使わず、二人は裸足になって田んぼの中に入っていった。
『原点回帰』初となる田んぼは周りには人工的な建造物は一切なく、遠くに若狭湾が見える美しい場所にある。この日は快晴で、田んぼの周りの至る所から鳥達の鳴き声が聞こえていた。
腰につけたカゴの中に稲の苗を入れ、横に並ぶ二人。それぞれ少しずつ後退しながらシートを広げていき、その上に手のひら間隔で小さな穴をあけ、そこに苗を手で植えていく。
作業が始まると二人ともスイッチが入ったように切り替わり、真剣な表情で黙々と作業をしていた。
作業中、飯尾醸造の伊藤さんに『休憩させないよ』と言われて思わず笑う二人。
松山さん「伊藤さんに脅されたので、一生懸命やりました(笑)。僕は足を開いて苗を植えていたから大丈夫でしたけど、手植えするためにかがむ動作が繰り返しになると結構きついかもしれないですね」
お米の原種『亀の尾』の苗を植える
『原点回帰』で育てる野菜は、固定された形質が親から子へ受け継がれる固定種を用いて育てている。今回、田んぼに植える苗について尋ねてみた。
山田さん「『亀の尾』です。お米の原種ですね。昔の人たちが食べていたお米がどんな味なのか食べてみたいし、育ててみたい」
松山さん「僕も山田さんと話をしていた時に初めて聞きました。たぶん、みんな知らない情報だと思うんです。今回こういう企画はすごく面白いと思いましたね。忘れ去られてしまっているものに光を当てるということはすごく大事なことだと思う」
山田さん「『お米を育てるなら、なるべく原種の方がいいよね』っていうことを話してたら、『原点回帰』のメンバーで石川県でお米を育てている人で『亀の尾』を持っている人がいたので、それを分けてもらったんですね」
一緒に農作業をすると魂レベルで繋がることができる
自分の畑を持ち、それぞれ農に取り組む二人だが、「一緒に農作業をしたのは初めて」。今回、京丹後での田植えを経て、何か感じるものはあったのだろうか。
松山さん「ああいう作業をしてると、何か無心になるんですよね。さっき田んぼに4人で入ってたんですけど、ある瞬間4人が1人になった感じがするんですよ。一つの命になってるような。何かこう、土で繋がっているような。それをすごく感じましたね」
松山さん「最初は『山田さんの作業ペースは速いな。田んぼに敷くペーパーがつまるからこっちも急がないとな』と思ってたんですけど。途中から本当に一体になった感じが共有できてる気はしました」
山田さん「一緒に何かするとか、一緒にご飯を食べるとか、そういうこととは全く違う感じですよね。何か芝居もそういうところあるじゃないですか」
松山さん「そうですね」
山田さん「一回ガッツリ芝居すると、もうどれだけ一緒に食事にいったり、一緒にお酒を飲んだりとかするよりも別のとこで繋がるんですよ」
松山さん「普通とは違う繋がりを感じますよね」
山田さん「何か違うんですよ。魂レベルで繋がるというか。何か分かんないけども、友達というか仲間みたいになるんですよ。農を一緒にやるのはそういうものに近いかもしれません。一つになれる感じはしますよね」
「農は絶対に無くならない」
田植えを終え、若狭湾を望む木陰に移動しそれぞれの近況や農への想いについて聞かせていただいた。
自身のInstagramでスイカやトマトなどを栽培している様子など、農への取り組み発信をしている松山さん。今回、山田さんの『原点回帰』に参加して何を感じたのだろう。
松山さん「農作物を輸入に頼っているだけだと絶対無理だし、農は絶対に無くならない、なくしちゃいけないものだと思うんですよね。これから農が必要になってくる中で、山田さんが間口を広げてくれるというか。そういうのはすごいなって思います」
松山さん「今回、山田さんからの縁でこうやってすごく美しい場所に連れてきてもらえました。外国から日本に来た方にも、こんな場所に来て一緒に農を体験していただけたら、面白いんじゃないかなと思いますね」
筆者は全国13か所にある『原点回帰』の畑を何度か尋ねているが、そこでお会いするメンバーは「農業をやりたいと思っても、何からやればいいかわからなかった」という人が多かった。『原点回帰』の活動を知り、「ここなら自分でもできるかも」と思って参加しているとのことだった。
山田さん「農に興味を持って、土地があったとしても、まず何から始めていいかわからない。ここに来る人はみんな素人ですからね。もちろん中には専門の農家の方もいますけど、みんなでやるっていうところでちょっとハードルが下がって」
山田さん「自分たちで何か作れるっていうことで自信持てるようになると、災害があったりとかしてスーパーから食べ物がなくなったりしても、焦らなくなりますよね。『自分達で作ればいいや』って。仕事してお金を稼いで食べ物を買うのではなく、自分達で育てて、それを分け合って助け合う。それをやっていけば、不安がどんどんなくなる」
松山さん「スタッフの方にも教えていただいたんですが、『原点回帰』の収穫率は高い。これから農業を始めてみたいという人が『ここだったら成功するかもしれない』とかって思えることでもあると思うんですよね。失敗するのはやっぱり怖い。作物を育てるには1年通さないと結果がわからないので、長い目で見なきゃいけない」
松山さん「僕も山田さんと話していて、有機自然栽培農法の『菌ちゃん農法』を本当にやってみたいと思ったし、もしかしたらもっと自分が楽できるんじゃないかって思って、いろいろ試したい。山田さんは本当に知識が豊富なんで、また撮影現場で会ったら色々と農について聞きたいなって思いますね」
現在、松山さんはどのようにして農に取り組んでいるのか、教えていただいた。
松山さん「僕にも農の師匠はいますけど、それとは別で自分の敷地で実験はいつもしているんです。毎年同じ品種を植えてるんですけど、種取りして『次はどういう風な植え方をしようか』とか、『土に何か混ぜてみようか』とか。鍬(クワ)で土を耕してみたり、農家さんに一回土をかき混ぜてもらったり、毎年変えてるんですよね。最初はもう全然芽が出なかったんですけれど、いまは少しずつ収穫できるようになってきたので、楽しんでやれてますね」
農に取り組み始めたのはいつからだろう。
松山さん「もう4年ぐらいじゃないですかね。だから4回くらい何か色々試したって感じです」
山田さん「すげぇ、先輩だ」
「農は無心になれる」
自給自足に取り組んでいる二人に、農のどんな部分に魅力を感じているか教えていただいた。
松山さん「無心になれるんですよね。日々の暮らしの中で、すごいポジティブにもなれば逆にネガティブにもなるじゃないですか。そういう浮き沈みがある中で、無心になれる瞬間ってどこにでもあるわけじゃないんですよね。何かこう、吸い取ってくれる感じがするんです。自分の邪気みたいな悪い感じとか、何か変に陽気になってるようなところとかもこうスーッと取ってくれるというか。農作業をすると汗をかくじゃないですか。そうすると終わった後、すっきりするんですよね」
松山さん「基本的には田舎にいる時って、それこそ皆さんもそうですけど、田んぼをやっていても、傍とかに草とかすごい生えるんですよ。だから結局草刈りとかしなきゃいけない。田んぼだけやってればいいってわけじゃなくて、周りでやらなきゃいけないことっていっぱいあって、それが全部繋がっていって何もやらなくてもいい瞬間ってあんまりなくて。だからずっと何かしらで動いちゃう感じなんです。でも、それがまたいいんですよね。動かしてもらってるみたいで、背中を押されているみたいな」
全ての作業に意味があり、嫌々やっているのではないのだそう。
山田さん「嫌々やっていたら続かないですよね」
松山さん「うん。本当にそう。でも、タンポポは憎たらしいですけどね(笑)。タンポポは、ほんとに油断したらすぐ生えてくるから、畑を侵食しちゃうんですよね」
「『原点回帰』のゴールってあるんですか?」と山田さんに尋ねる松山さん。
山田さん「明確なゴールはないかな。昔からの固定種だったり、農薬肥料に頼らなくても作物ができるっていうことがちょっとずつ浸透していければ。それが多分食料難だとか、何か災害があったときの焦りとかが減ってくることに繋がっていくと思うんで」
ライフスタイルブランド『momiji』について
松山さんは農の他にも、捨てられていく“資源”をアップサイクルするプロジェクト『momiji』を2022年3月よりスタートしている。
松山さん「僕のやっている『momiji』は捨てられる皮を利活用するっていうところから始まったんですけど、廃棄されている資源というのはそれだけではないので、いろんな素材を使いながら、その背景も表現できればと思ってやっています。その一つがいま着用している帽子やTシャツだったりとかなんですね」
松山さん「『momiji』の最近の活動でいうと、今回アートTシャツを作ったんです。メンバーは僕も合わせて15人。子供、高齢者、引きこもりの方や障がいを持っている方だったりとか、色々な特性の人たちが同じ場所でアートを楽しむという企画です。6月15日からは、銀座にある『和光』4階のメンズフロアでイベントをやらせていただきます。会場にはブラザーのガーメントプリンターという機械を置いて、その場でオリジナルのアートTシャツをプリントしたものを購入していただけるんです」
「肉はブロックじゃなくて命」
松山さん「僕は肉はスーパーで売られてるものからしかスタートしていないんですよね。肉っていうものは、スーパーで売られる前の段階っていうのは絶対あったはずじゃないですか。でも、やっぱりそこまで想像できないっていうか、見えないんですよね。たまたまハンターの人と知り合って、その人が僕の師匠になる方なんですけど、その人が害獣駆除ってものをやられていて。その人は鹿を撃って、それを全部持って帰って、自分でばらして肉にするんですよ。その一連の流れを一部始終を見せていただいたんですけど、それにすごく衝撃を受けて。『肉はブロックじゃなくて、やっぱり命なんだな』って思って」
松山さん「これは本当に大事なことだから、子供たちとも共有したいなと思いました。その中で肉はみんなで食べたりとかしてるんですけど、皮はどうしても使い切れないんですよね。土に返すという選択肢ももちろんあるんですけど、一つの命でもあるし、日本の資源でもあるんですよね。どうやって活かせばいいんだろうっていうので考えたのが、なめしてレザーにするってことだったんですね。それがきっかけで『momiji』のプロジェクトは少しずつ進んでいきました」
山田さん「よくわかります。僕が自分の子供を釣りに連れていくのも同じ理由なんです。スーパーでは魚は切り身しか置いてないですよね。一匹まるまるで売っていたりもしますけど、基本的には棚に並んでいる状態では死んでいますよね。僕らは日々生き物の命をいただいて、自分の体ができているっていうことを、ちゃんと子供に分かってほしいんです。野菜も命があって同じなんですけど、目とか口があったりした方が生き物としてよりわかりやすい。魚を一緒に釣って、それを僕がさばいて、命に感謝して食べるっていうことを教える。野菜があって、魚があって、次はおそらく鶏にいって、四つ足の動物にいく。段階ですよね」
田舎は物々交換ができる
山田さん「僕の知り合いで沖縄の方なんですけど、北部のやんばるエリアで毎年イノシシを罠で捕ったりされているんですよ。罠にかかったイノシシはもちろんしめなきゃいけないんですが、イノシシは足が折れてても暴れてくるらしいので非常に危ないらしいですけど。どこかのタイミングでの同行はしたいなと思っています。以前、その方がウチにイノシシの肉を持ってきてくれたから、僕は自分で釣ったタチウオとイノシシの肉を交換して」
松山さん「物々交換が田舎だとできるから、最高なんですよね」
山田さん「なんか、田舎だと当たり前のようにおきますよね」
松山さん「お裾分けっていうのが、本当によくありますね」
山田さん「たくさん魚が連れた時とか、さばいて冷凍しておくというのもあるけど、鮮度が持たないものとかは僕も近所の方に持って行くんです。そうすると翌日、自転車のかごにジャガイモが入っていたりして『おお、お返しがきてる』みたいな。『こういうことだよな、生きるってことは』と思ったり」
日本を代表する二人の俳優は、なぜ農を始めようと思ったのだろう。
松山さん「祖父母が農業をやっていたので子供の頃から見ていて、その頃は祖父母が作ったイモやニンジン、キャベツやスイカを感謝もせずに普通に食べてたような気がするんですけど、でもやっぱりその背中を見て育ってきてるから、自分もやっぱり農をやりたいなっていう気持ちはずっとありました。その中で、自然栽培農家さんと話をしていくうちに”農業って生き方じゃん”って思ったんですよね。農を始めて、いまの状況って自分にとって健康なのかな、いい状態なのかなって思うようになったんです。自分と向き合うきっかけになったっていうのはありますね」
山田さん「僕はシンプルに『お金って食べられないな』と思ったからです。どれだけ頑張ってお金を稼いでも、お金は食べることができない。結局その稼いだお金で何をするかというと人間は食べないと死ぬから、基本的にはお金を使って食べる。お金って中間じゃないですか。じゃなくてその先の、どうやって食べ物を作れるかっていうことを知れば、もう買わなくていいじゃん、ということは仕事を減らせるじゃんって(笑)。仕事して稼いだお金で食べる物を得るよりも、食べる物を増やすことを仕事にするという風に割合を変えた方がもっとシンプルでいいんじゃないかって。どこでどういう風に作られてどう加工されてるのかわかんないものよりも、自分達で作った方が感謝もより深くなるし、安心だしっていうことで、『まず畑をやってみなきゃだよね』ということで始めました」
食べる量が減った
農を始めたことで、自身にはどんな変化があったのだろう。
松山さん「食べ過ぎなくなったんですよね。野菜を育ててみて、自分で取ったら無駄に食べ過ぎるのはもったいないなって思うようになったんです。ちょっとつまむぐらいでいいやと思って、一気に食べてしまうのではなく、長く食べたいなって思うようになりました。食べ過ぎなくなりましたね」
山田さん「僕も食べる量は減ってますね」
松山さん「農を始めて、ありがたみを感じるようになってきたのかなぁ。それこそ、栄養価が本当に高いのかも知れないですしね。それで食べる量が減ってきたのもあるかもしれないですね」
山田さん「あと、農を初めてからなんか執着がどんどんなくなってきましたね。食だけじゃなくて、いろんなことに対して。みんなでご飯を食べに行って、食べきれないぐらい料理を頼んだりとかあるじゃないですか。いまは、残しちゃったら勿体無いから食べきれる量だけ注文しようってなってますね。自分で釣った魚も、いかに捨てる部分を減らすか。経験を重ねてだいぶ減ってきましたね。身は食べて、頭もあら汁とかにできるじゃないですか。骨も焼けば食べられるし」
松山さん「僕は自分のいる場所の近くに解体所があるので、そこから皮をいただいて『momiji』の製品を作っているという感じですね」
そんな二人に、これから農をやりたい人に向けてアドバイスいただいた。
松山さん「『原点回帰』に来たら大丈夫」
山田さん「(笑)。『菌ちゃん農法』の吉田俊道先生の本とか読むと、庭とかプランターとかでも野菜は作れるって紹介されていますよ。僕らはいま全国に13の畑があって有機自然栽培農法の『菌ちゃん農法』を取り入れてますが、『菌ちゃん農法』がいいのは吉田先生本人が言ってるけど、『とにかく自分がせっかちだから、すぐできないと嫌でしょう』みたいな。半年間みんなで頑張って土作りすれば、初年度から収穫できるんですね。絶対ということではないけど、ほぼ失敗の確率を少なくできる。もちろん、この畑ではトマトが病気になったとかはあるけれども、基本どの畑でもちゃんと収穫してますからね」
松山さん「それすごいですよね。7年ぐらいかかるとか言われません? 土を元に戻すとか、いい状態にするには。よくそう言いますよね」
山田さん「僕らは最低でも5年とか10年とか耕作放棄地になってるところでやるんです。やっぱり2、3年だとどうしても農薬とか残っていて、肥料も残ってると最初はいいでしょうけども、それがなくなってきた時に、土がやっぱり栄養がなくなっちゃってるから、竹や雑草というみんなが困っているものを土の中に混ぜてやる」
山田さん「僕は『100年前にあったかどうか』で判断するんです。100年前になくても大丈夫だったものなら、なくてもできる。例えば自然農とかっていうものだと収穫量の問題とかっていうことを言う人はいるんです。そこで固定種の話が出てくるんですけども、固定種のニンジンはF1種の市販のニンジンよりも栄養が40倍あるとなったら、食べる量は1/40でよくなるわけですよね」
山田さん「昔の人達は玄米とかもそうだけど、栄養価が高いものだったから食べる量は少なくて良かった。いまは栄養がどんどんなくなってきているので、いっぱい食べなきゃいけないってなってきているからそこを戻していければ。しかもいまは食品廃棄物の量も半端じゃないわけじゃないですか。人口の数と自然農だと合わないっていうのは違うと僕は思います」
「農は受け皿が広く、定年がない」
対談中、農の必要性について語り合っていた二人。
松山さん「やっぱり農って受け皿が広いと思うんですよね。今回のこのアートTシャツのプロジェクトに入っている15人は多様な人たち全員が農にそのまま移行できる可能性があると思うんです。アートも自由だし、農も自由だと思うんですよ。定年もないし」
山田さん「うんうん」
松山さん「いまは農作放棄地になって、もう引退間近のおじいちゃんって知恵の宝庫じゃないですか。宝物をたくさん持ってるのに、僕らは話を聞きに行こうとしていない現状があるじゃないですか。そこをなんかこううまく若い世代と、それそれこそ外に出れない人達だったり、障がい者の方だったりとも知恵を共有できるようになれたら。僕らも持ってる宝物っていうのがあるから、それこそお裾分けの文化で魚を渡したらジャガイモが届いたみたいな感じで、精神的な部分でも何か補完し合えたらいいなと思うんですよね。それは農は絶対できると思います」
お互いの農への取り組みをリスペクトしている二人。新たなアイデアが生まれそうだ。
山田さん「『原点回帰』の中にもストアがあって、いまはメンバーしか使えないんですけど、これを外に広げていければと思っているのでそこで『momiji』のものとかも、何か取り扱わせていただけたら」
松山さん「ありがとうございます。『momiji』はライフスタイル全般のブランドとして考えてるんですが、僕は以前から『農福連携(農業と福祉の連携)』を意識して加工品を作りたいなとずっと思っていて。これを成立させることは『momiji』のプロジェクトともまた少し違うんですけど、やはり農っていうのはどうしても外せない部分ではあるので。『農福連携』を成立させるのが、いまの僕の一番の目標ではあるんですよね。なので、どこかで交わることは絶対あると思います。助けてください(笑)。よろしくお願いします」
『原点回帰』の野菜をいろんな人に食べてもらえる企画がスタート
ことし11月3日(金・祝)〜5日(日)、沖縄県・宜野湾にてモンゴル800が主宰する『モンパチフェス』に『原点回帰』がブースを出店。そこで提供する野菜たちを全国の畑で育て始めている。
山田さん「やっと収穫が増えてきたので、『原点回帰』のメンバー以外の方にもそこで我々の作った野菜を食べていただけたらと思っています」
松山さん「『原点回帰』のストアでは何を売られているんですか?」
山田さん「僕がいろんな達人から学ばせていただくために対談している様子を動画にして、メンバーにコンテンツとして共有してるんですね。そういう達人たちが作られている薬効手染めの靴下だったりとかを欲しいメンバーに販売したり。あとは『香道(こうどう)』という香りの会を『原点回帰』のメンバーのために開いていただいたりとか。釣りもそうですね。最初は釣りを学ぶ動画をコンテンツとしてメンバーにシェアしたけども、いまでは釣りの師匠である名人・高橋徹也さんと原点回帰メンバー用の釣りの会は月一回くらいで定期開催されてます」
山田さん「メンバーでも物作りしている人たちがいるので、仲間内で買ったりして支えあっていけばお互いサポートしていけるし」
松山さん「本当に素晴らしいコミュニティが出来上がりそうですね」
『原点回帰』7期募集がスタート
2021年4月にスタートした『原点回帰』もすでに3年目。ことし6月9日より第7期メンバーを募集する。
山田さん「いままでは県単位で募集していたんですが、そろそろちょっとピンポイントで募集したいと考えています。県で考えると広いじゃないですか。この田んぼは京都でも北の方の丹後なので『京都で米やります』って言っても、遠くの人だとみんなそこじゃ行けないよ、みたいになってその結果やめちゃう人も出てくるので」
スタートして3年目となることし、『原点回帰』は全国に13か所の畑を有している。
山田さん「『ここにも畑ができました』と言うと、その県のメンバーが集まるんですよ。『自分たちのいる県にも畑ができたんだ。じゃあ入ってみよう』。どんどんみんな自主的に畑を増やしていくんですよ。そこでどんどん人が繋がって、みんなで農を学んでいって、さらにどう広げていくかを考えています」
取材の最後に、「いやぁ、今日は楽しかった!」と松山さん。
二人が稲を手植えした田んぼの収穫は、ことし10月を予定している。
松山さん「あの、おにぎりができる頃に来てもいいですか?」
山田さん「(笑)」
松山さん「『おにぎり握りました!』って言われたらすぐ来ますから」
山田さん「是非。収穫祭りもやりたいし、ここは空気も最高ですからね」
現在放送中の大河ドラマ『どうする家康』で、山田さんは伊賀忍者・服部党の頭領である服部半蔵、松山さんは家康の天下取りを支える本多正信を演じている。
二人が初めて会話を交わした第5話、寒空の下の畦(あぜ)道で食べられる物を探している服部半蔵の前に本多正信が現れ、次の台詞で語りかける。
ことし秋、自分たちで手植えして育てたお米でお腹いっぱいになっている二人の姿を想像すると、いまから楽しみで仕方ない。
『原点回帰』 第7期メンバー募集
募集期間/2023.6.8(木)〜6.17 (土)
応募に必要な書類などを添え、「原点回帰」(https://about.gentenkaiki.jp )からアクセス。
問い合わせ:株式会社 原点回帰
担当・伊月(イヅキ) mail:izuki@gentenkaiki.jp
<現在畑がある場所は以下の通り>
石川県能登エリア
山梨県南アルプス市
埼玉県さいたま市
千葉県柏市
愛知県豊川市
大阪府和泉市
京都府宮津市
香川県高松市
山口県萩市
福岡県博多エリア
佐賀県神埼市
鹿児島県志布志市
沖縄県中部
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『momiji』
「モミジ アーティストコレクション」
期間/2023.6.15(木)〜6.28 (水)
会場/和光(4階メンズフロア)
住所/東京都中央区銀座4-5-11
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