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「岩手の名将」が14年ぶりに甲子園へ 花巻東女子硬式野球部が決勝に挑む

佐々木亨スポーツライター
花巻東女子硬式野球部を率いる沼田尚志監督(右端)

 8月3日、甲子園球場を舞台に全国高等学校女子硬式野球選手権大会の決勝が行われる。大会連覇を狙う神戸弘陵(兵庫)と相対するのは、岩手の花巻東だ。男子硬式野球部は、菊池雄星(アストロズ)、大谷翔平(ドジャース)らを輩出。昨夏は佐々木麟太郎を擁して甲子園8強。今夏も2年連続12回目の甲子園出場を決めるなど、全国屈指の強豪校である。女子硬式野球部も、2022年の全国ユース大会、そして昨年の全国高等学校女子硬式野球選抜大会で準優勝するなど、着実に力をつけている。

 チームを率いるのは、昨年2023年4月に就任した沼田尚志監督だ。岩手・平泉町出身で、今年65歳を迎えた沼田監督の指導歴は輝かしい。国士舘大を経て、母校である一関商工(現・一関学院)の野球部監督に就任したのが1986年のこと。前身時代を含めて一関学院を2019年までの33年間率いる中で、春夏合わせて6度、チームを甲子園に導いた。選手が備える「個」を大切にしながら、堅実な野球で岩手の高校球界を牽引し続けた沼田監督は、「岩手の名将」として知られる存在だ。国士舘大の後輩にあたる花巻東の男子硬式野球部を率いる佐々木洋監督とは旧知の間柄にして、長年のライバルでもあった。その輝かしい指導実績から花巻東が監督就任を打診して「女子硬式野球部・沼田尚志監督」が誕生したわけだが、その指導の情熱とスキルは色褪せない。女子野球について「レベルが高いですよ」と言いながら、「楽しい」と笑って話してくれたのは昨年のこと。そして、就任2年目の今年、チームを創部以来初となる全国選手権大会決勝に導いた。

 兵庫県丹波市のつかさグループいちじま球場で行われた準決勝は、「沼田野球」が凝縮されたような試合だった。相対したのは今春の全国選抜大会準優勝校である東海大静岡翔洋だ。その強豪相手に花巻東は2回表、8番小川夢乃のスクイズで先取点を奪う。7回表に長打力を見せつけて一挙5点を奪うのだが、4回表の追加点は先取点同様に手堅くスクイズで奪った点だった。投げては先発の千葉穂乃果が被安打1の完封。バッテリーを中心とした守備からリズムを掴み、スクイズなどで着実に得点を重ねて主導権を握る。沼田監督が目指す野球が、そこにはあっただろうか。

「甲子園は、選手やチームを成長させてくれる場所」

 かつて、沼田監督はそう語ったことがある。監督自身、甲子園で指揮を執るのは2010年夏以来、実に14年ぶりとなる。花巻東女子硬式野球部のユニフォームで立つ聖地。選手はもちろん、岩手の名将にとっても感慨深く、「特別な夏」となる。

全国高等学校女子硬式野球選手権大会決勝進出を決め、選手たちと喜びを分かち合う沼田監督。
全国高等学校女子硬式野球選手権大会決勝進出を決め、選手たちと喜びを分かち合う沼田監督。

(写真はすべて花巻東高校提供)

スポーツライター

1974年岩手県生まれ。雑誌編集者を経て独立。著書に『道ひらく、海わたる 大谷翔平の素顔』(扶桑社)、『あきらめない街、石巻 その力に俺たちはなる』(ベースボール・マガジン社)など、共著に『横浜vs.PL学園 松坂大輔と戦った男たちは今』(朝日文庫)などがある。主に野球をフィールドに活動するなかで、大谷翔平選手の取材を花巻東高校時代の15歳から続ける。

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