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プロ初勝利を手にした巨人・西舘勇陽の内なる思い

佐々木亨スポーツライター
昨年2023年12月末、地元の祝賀会で笑みを浮かべる西舘投手。(著者撮影)

 5月26日の阪神甲子園球場で、巨人のドラフト1位である西舘勇陽がプロ初勝利を手にした。同点の9回裏に登板した右腕は、イニングの先頭となった中大時代の1年先輩にあたる森下翔太を、プロ入り後最速にして自己最速タイとなる155キロのストレートでレフトフライに仕留める。後続も討ち取って三者凡退に抑えると、直後の延長10回表に味方が勝ち越し。自身18試合目の登板での初勝利だ。

 素朴な表情で勝利を噛み締めるルーキー右腕の姿が印象的だ。普段から口数は少ない。多くを語らないだけに、どこか掴みどころがないように映る時もあるのだが、内に秘める闘志は人一倍だ。2年春夏、3年夏と3度の甲子園出場を果たした花巻東高時代からそうだった。打たれても、なお打たれても、表情を変えずに黙々と練習に励む姿があった。かつて西舘は言ったものだ。

「座右の銘は『初志貫徹』。高校時代のコーチからもらった言葉です。その日、その日の小さな目標、そして段階的な目標を持って取り組むことの大切さを高校時代に学びました。それを大学でも貫けたのは大きかった」

 大きな怪我もなく、戦国・東都リーグを舞台とする中大での4年間で大きく飛躍できたのも、その一つ一つの積み重ね、原点とも言える目標に向かって努力を貫く姿勢があったからこそだと西舘は思っている。

祝賀会で語っていた思い

 岩手県北部に位置する一戸町(いちのへまち)の出身である。人口1万人ちょっとで、のどかな風景が広がる町で彼は生まれ育った。少年時代はクロスカントリースキーやマラソンが得意だった。足腰や広背筋の強さは、少年時代の経験からきている。小学3年生から始めた野球も、「もっとうまくなりたい」という思いを持ち続けてのめり込んでいった。一戸中、そして花巻東高へ進んでも、その向上心を忘れることはなかった。

 故郷・岩手で西舘のプロ入りを祝う「祝賀会」が開かれたのは昨年2023年12月末のことだった。関係者約270人が集まったその会で、西舘は「幼少期から多くの方に応援、そして支援していただき、感謝の言葉しかありません」と語った。会場では囲み取材が行なわれたのだが、受け答えをする西舘の声があまりにも小さく、メディア側から「もう少し元気な声でお願いします!」と言われて笑いが広がる一幕も。ただ、彼は照れ笑いを浮かべながらも、内に秘めた思い、プロ1年目について素直に語ったものだった。

「まずは1年間、怪我をしないこと。そして、開幕一軍。そのままシーズンを通して一軍に帯同できるように頑張りたい。ドラフト1位で選んでいただいて、期待は感じています。先発か中継ぎかはまだわかりませんが、自分がやれることを精一杯にやりたいと思っています」

 その言葉通り、開幕戦の初マウンドから無失点を続けて10試合連続ホールドを記録するなど、ここまで一軍のマウンドで躍動を続ける。初勝利を手にして右腕への期待は高まるばかり。多くを語らずとも結果と姿勢でその価値を示し続ける西舘は、これからさらに大きな存在になっていくはずだ。

スポーツライター

1974年岩手県生まれ。雑誌編集者を経て独立。著書に『道ひらく、海わたる 大谷翔平の素顔』(扶桑社)、『あきらめない街、石巻 その力に俺たちはなる』(ベースボール・マガジン社)など、共著に『横浜vs.PL学園 松坂大輔と戦った男たちは今』(朝日文庫)などがある。主に野球をフィールドに活動するなかで、大谷翔平選手の取材を花巻東高校時代の15歳から続ける。

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