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「社会人野球×女子野球」が生み出す、野球界の新たな可能性

佐々木亨スポーツライター
左から六角選手、中島監督、里選手、數田選手(写真提供/NICE BOX)

 垣根を超えた新たな試みだ。

 社会人野球の夏の祭典である第95回都市対抗野球大会の二次予選が全国各地区で行なわれている。東京都二次予選は「最後の一枠」を争う第4代表決定戦が6月5日に大田スタジアムで行なわれ、15年連続27回目の本大会出場を狙うJR東日本が、創部以来初の代表決定戦となったJPアセット証券を下して幕を閉じた。その一戦はインターネットのライブ中継で視聴することができたのだが、試合の解説を務めたのが2020年から女子野球日本代表を率いる中島梨沙監督と、女子野球日本代表として長らく活躍するレジェンド・ピッチャーの里綾実選手だった。過去に例を見ないその画期的な試みを実現するために尽力したのが、企画、イベント運営を業務の柱とするNICE BOX株式会社の川上哲矢さんだ。東京都野球連盟からの打診を受けた川上さんは、今年の東京都二次予選での新たな取り組みとして、「社会人野球×女子野球」のコラボレーションなど、さまざまな企画を提案した。

「カテゴリーを超え、ジャンルの違う方をお招きしてみてはどうか、と。たとえば社会人野球と女子野球、それぞれの野球を多くの方に知っていただく良い機会にもなると思って企画させていただきました」

 社会人野球、そして女子野球の認知度をさらに高めたい。もっと言えば、野球界全体を盛り上げたい。そんな思いが、川上さんの根底にはあるのだ。

 社会人野球のセガサミーでマネージャー業を14年間務めた川上さんは、2022年8月に転職。子供たちに向けた野球教室の運営にも携わった。2023年9月に現会社に移り、野球の普及と発展のためにさまざまな活動を行なっている。その中で実現した都市対抗野球大会東京都二次予選での企画は多岐にわたった。

 ライブ中継では、第1代表決定戦の解説を青山学院大硬式野球部前監督で、大学野球日本代表監督も歴任した河原井正雄さんが務めた。第2代表決定戦は、NTT東日本でコーチを歴任、現在は東都京葉ボーイズの総監督を務める関口勝己さんと、江戸川区立上一色中の野球部監督で、同中学校を全国中学校軟式野球大会の常連校に押し上げた西尾弘幸さんが解説。第3代表決定戦では、社会人野球の一時代を築いたシダックス最後の監督でもある田中善則さんと、2025年から完全復活する日産自動車の野球部監督である伊藤祐樹さんが解説者としてゲームを盛り立てた。そして、第4代表決定戦で女子野球を代表する中島監督と里選手の解説へとつながった。

第95回都市対抗野球大会東京都二次予選第4代表決定戦での始球式(写真提供/NICE BOX)
第95回都市対抗野球大会東京都二次予選第4代表決定戦での始球式(写真提供/NICE BOX)

 他にも、代表決定戦では女子野球選手によるボールガール。さらに、第4代表決定戦では、男女混合チームで試合を行なうBASEBALL5(ベースボール5)の日本代表として活躍して、今年4月に韓国・ソウルで開催された「第2回アジアカップ2024」での初優勝に貢献した六角彩子選手と數田彩乃選手が始球式を務めた。マウンドでの投球を終えて、試合中はボールガールを務めながらグラウンドレベルで社会人野球に触れた六角選手は「大人の熱い野球に触れて楽しかったです」と言う。そして、今回の社会人野球と女子野球のコラボレーション企画を経て、今後の野球界についてこう続けるのだ。

「男女関係なく、野球が好きな者同士。今後も、みんなで野球界を盛り上げられる形ができればいいと思います」

 社会人野球の解説は「初めて」だったという中島監督が「女子野球を知っていただく良い機会にもなったと思います」と言うように、今年の都市対抗野球大会東京都二次予選での取り組みは、それぞれの良さや情報、そして野球の醍醐味を発信する大きな機会だったのではないか。各カテゴリーの野球に興味を抱くことで全体の競技者が増える。自らが競技者とならずとも、応援する立場で野球に触れる人が増える。ひいてはそれが野球というスポーツの成熟につながっていくのだと思う。中島監督はこうも言うのだ。

「ここ10年ぐらいで高校の女子硬式野球部の数はずいぶんと増えるなど、女子野球の競技人口は増えています。ただ、野球界全体としては競技人口が減っていると言われています。野球界全体として盛り上がっていかなければいけないし、今後もそれぞれが互いに盛り上げていければいい。そう思っています」

 今回の取り組みが新たな風となり、野球がさらに魅力あるものになっていくことを願うばかりだ。

スポーツライター

1974年岩手県生まれ。雑誌編集者を経て独立。著書に『道ひらく、海わたる 大谷翔平の素顔』(扶桑社)、『あきらめない街、石巻 その力に俺たちはなる』(ベースボール・マガジン社)など、共著に『横浜vs.PL学園 松坂大輔と戦った男たちは今』(朝日文庫)などがある。主に野球をフィールドに活動するなかで、大谷翔平選手の取材を花巻東高校時代の15歳から続ける。

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