「とにかく試合に出たい」。5戦連続で出番のない吉田麻也の現状を探る
9月17日に行われたサウサンプトン対ブライトン戦で、ベンチスタートの吉田麻也に最後まで出番は訪れなかった。
開幕5試合でいまだリーグ戦の出場がなく、出番は優先順位の落ちるリーグカップ2回戦の1試合しかない。サウサンプトン在籍7シーズン目の吉田は、苦しい状況に置かれている。
代わりにセンターバック(CB)の位置に入っているのは、デンマーク代表DFのヤニク・ヴェステルゴーと、オランダ代表DFのヴェスレイ・フートの2人。2メートルの長身を誇るヴェステルゴーは、マーク・ヒューズ監督の希望で補強が実現した新戦力で、強さとビルドアップ力を併せ持つモダンなCBだ。ヴェステルゴーが風邪で欠場した2節のエバートン戦を除き、ヒューズ監督はこの2人を国内リーグ戦で継続起用している。
一方の吉田は、プレミア5節までベンチスタートが3試合と、ベンチ外が2試合。2人の後塵を拝している格好だ。
もっとも、ロシアW杯への参加で、サウサンプトンへの合流が遅れた影響は少なからずあった。吉田をベンチ外にしたプレミアリーグ開幕戦後(8月12日)、ヒューズ監督は「開幕戦への準備の点において、他の選手の方がマヤよりも調整が進んでいた。そこで、今日は外した方が無難だと感じた。あと2〜3週間もすれば問題なく試合に臨める状態になる」と説明していた。しかし、開幕から1ヶ月が経過した今も、扱いはさほど変わっていない。
振り返れば、2シーズン前にレギュラーの座を掴んだ吉田は、昨シーズンも守備の柱として最終ラインを牽引した。今シーズンも主力としてフル稼働すると見られていたが、ウェールズ人のヒューズ監督の就任で風向きは変わった。
昨シーズンのサウサンプトンは降格の危機に瀕した。成績不振を受け、前任であるアルゼンチン人のマウリシオ・ペジェグリーノ監督を解任。後任として3月に就任したヒューズ監督は5バックの守備的なシステムを採用し、ディフェンスのテコ入れを行なった。そして、チームは無事残留──。その中で吉田も、CB中央の位置で堅実な守備を披露し、1部残留に大きく貢献した。
ところが、仕切り直しとなった今シーズン、指揮官は自身のカラーを強めてチームを強化しようとしている。基本フォーメーションは、英国サッカーの代名詞である4−4−2に変わった。またプレーも「球際で激しく、縦に速い」英国スタイルの色を強めている。
顕著なのが、セントラルMFの人選だろう。過去2シーズンは、多彩なパスで攻撃陣を操るオリオル・ロメウが中心的存在だった。左右にパスを散らしながら、縦パスで攻撃のリズムをつくるスペイン人MFは、サウサンプトンのコンダクターとして不可欠な存在だった。
しかし、ヒューズ監督は大黒柱であるはずのロメウを3節から外し、代わりにピエール・エミル・ホイビュルクと、マリオ・ルミナの守備に強いMFを2人並べている。
彼らの持ち味は「豊富な運動量と力強いボール奪取」にあるが、展開力やパスセンスではロメウに遠く及ばない。この同タイプの2選手をセントラルMFとして同時起用しているあたりに、ヒューズ監督の意向が色濃く出ている。おそらく、中盤の攻撃構成力より、エネルギーとパワー、守備力を重視しているのだろう。
そして、CBの人選にもヒューズ監督の志向が表れている。ヴェステルゴーとフートの共通点は「強さと高さ」。ビルドアップ力と読みの巧さを長所とする吉田を起用せず、2人を重宝しているところに指揮官の好みが見て取れる。それゆえ、サウサンプトンのプレーが、ヒューズ監督の前所属先であるストークに近づいてきたように見えるのは、決して偶然ではないだろう。ストークは、アグレッシブさと力強さが売りだった。
とはいえ、吉田のチャンスが完全に閉ざされたわけではない。
1つ目の理由が、チームの成績とパフォーマンスが一向に安定していない点。5節までの成績は1勝2敗2分で、パフォーマンスも好不調の波が大きい。特に、ブライトン戦では2点のリードを奪いながら、後半に2失点して同点に追いつかれた。試合後の吉田も「こういう試合が続けば、自分にも可能性はあると思います。チャンスを待つしかない」と話した。
また、安定感を欠いているだけに、指揮官も試行錯誤を続けている。「面子も固まっていなくて、毎回ベンチメンバーも変わる。戦術も戦い方も、まだ固まっていない」と吉田が語るように、チャンスはまだ残されている。
もう1つの理由は、次節から強豪クラブとの対戦が続くことだ。
サウサンプトンは9月22日にリバプール戦、10月7日にチェルシー戦と上位陣との対戦が控えている。ヒューズ監督が格上との一戦で5バックシステムを採用すれば、3CBの一角として吉田が先発メンバーに加わる可能性はある。吉田の先発が濃厚なリーグカップ3回戦のエバートン戦(10月2日)を含め、この期間で指揮官に存在価値をアピールしたいところだ。
■「プレー時間を確保するのが一番大事」
欧州で切磋琢磨することで、選手は一回りも二回りも成長できる。特に、欧州の選手に比べて体格でハンデのある日本人CBとGKは、その傾向が顕著だろう。
折しもブライトン戦には、日本サッカー協会の強化スタッフに加わった藤田俊哉氏が視察に訪れた。藤田氏は「麻也にしても(川島)永嗣にしても、試合に出られない状況は初めてではない。彼らを心配する必要はないと思う」と語っていた。これまで幾度となく試練を乗り越えてきた吉田や川島なら、目の前の壁を飛び越えていける──。藤田氏は、そうエールを送っていた。
吉田自身も「プレー時間を確保するのが一番大事。兎にも角にも試合に出たい。毎年、毎年ですけど、やるしかない。頑張ります」と語気を強めた。
日本代表DFはこれからどのようにアピールしていくのか、筆者も引き続き注目したい。