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【医師監修】乾癬治療中のワクチン接種と休薬期間の目安を詳しく解説!

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

乾癬は慢性の炎症性皮膚疾患で、全身に赤みやかゆみを伴う鱗屑(りんせつ)を特徴とする発疹が現れます。近年、乾癬の治療は目覚ましい進歩を遂げ、生物学的製剤や分子標的薬などの新薬が次々と登場しています。これらの薬は免疫系に直接作用することで高い治療効果を発揮する一方、ワクチン接種時の効果や安全性への影響が懸念されています。

そこで今回は、全米乾癬財団(NPF)が発表した最新のガイドラインをもとに、乾癬治療中の予防接種について皮膚科専門医の立場からポイントを詳しく解説します。新薬を使用中の方はもちろん、乾癬でお悩みの全ての方に役立つ情報をお伝えしたいと思います。

乾癬治療に用いられる主な薬剤と作用機序

解説に入る前に、乾癬治療に使用される代表的な薬剤とその作用機序について簡単に説明しておきましょう。

生物学的製剤: 乾癬の発症に関わる特定のタンパク質(サイトカイン)を標的とした抗体医薬品。TNFα阻害薬(アダリムマブ、インフリキシマブなど)、IL-23阻害薬(リサンキズマブ)、IL-17阻害薬(セクキヌマブ、イキセキズマブなど)が含まれる。

分子標的薬: 乾癬の炎症に関与する細胞内シグナル伝達を阻害する低分子化合物。ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬(トファシチニブ)、ホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害薬(アプレミラスト)などが該当。

これらの薬剤は免疫反応を抑制することで乾癬の症状を改善しますが、同時に感染症のリスクを高める可能性があります。そのため、ワクチン接種を含めた感染予防対策が重要となります。

【ワクチンの種類による休薬期間の違い】

ワクチンは、生ワクチンと不活化ワクチンの2種類に大別されます。生ワクチンは弱毒化した生きた病原体を使用するのに対し、不活化ワクチンは死んだ病原体やその成分(タンパク質や多糖体など)を使用します。

乾癬治療薬を使用中の方が生ワクチンを接種する場合、ワクチンの効果が十分に得られない可能性や、ワクチンに含まれる弱毒生ウイルスによる感染症発症のリスクが高まることが懸念されます。そのため、生ワクチン接種前には治療薬の休薬が推奨されています。

NPFのガイドラインでは、生物学的製剤や分子標的薬の多くで、生ワクチン接種の2~3半減期前から休薬し、接種後2~4週間は治療を再開しないことが望ましいとされています。半減期とは、体内の薬物濃度が半分に減少するまでの時間のことです。一方、不活化ワクチンについては、ほとんどの治療薬で休薬の必要はなく、治療を継続したまま接種が可能です。

【主な乾癬治療薬ごとの休薬期間一覧】

以下に、主なワクチンと乾癬治療薬の種類別に、目安となる休薬期間をまとめました。

〈生ワクチン〉

・TNFα阻害薬(アダリムマブ、インフリキシマブ、エタネルセプトなど): 接種2~3半減期前から休薬、接種後2~4週間は再開しない

・IL-12/IL-23阻害薬(ウステキヌマブ): 接種2~3半減期前から休薬、接種後2~4週間は再開しない

・IL-17阻害薬(セクキヌマブ、イキセキズマブ、ブロダルマブ): 接種2~3半減期前から休薬、接種後2~4週間は再開しない

・IL-23阻害薬(グセルクマブ、チルドラキズマブ、リサンキズマブ): 接種2~3半減期前から休薬、接種後2~4週間は再開しない

・ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬(トファシチニブ): 接種1週間前から休薬、接種後2~4週間は再開しない

・ホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害薬(アプレミラスト)、レチノイド(アシトレチン): 休薬不要

・メトトレキサート: 接種2~4週間前から休薬、接種後2~4週間は再開しない(ただし0.4mg/kg/週以下の少量であれば生ワクチン接種が非禁忌となる可能性あり)

〈不活化ワクチン〉

上記の治療薬全て: 基本的に休薬不要(メトトレキサートのみ接種後2週間の休薬を検討)

なお、これらの休薬期間はあくまで目安です。実際の対応は、患者さん一人ひとりの状態や使用薬剤の種類・投与量などを総合的に判断し、主治医と相談しながら慎重に決定する必要があります。

【かかりつけ皮膚科医との密な連携が重要】

乾癬は症状の程度や治療薬の種類が患者さんによって大きく異なるため、ワクチン接種のタイミングも個別に検討する必要があります。特に重症の乾癬では感染症のリスクが高くなるため、定期的な予防接種が重要です。

普段からかかりつけの皮膚科医と情報を共有し、乾癬の症状とワクチン接種時期のバランスをしっかりと見極めていくことが大切だと言えるでしょう。専門医の適切な助言を受けながら、乾癬の治療とワクチン接種を両立させ、感染予防にも万全を期していきたいものです。

参考文献:

J Am Acad Dermatol. 2024 Jun;90(6):1170-1181. doi: 10.1016/j.jaad.2023.12.070. Epub 2024 Feb 7.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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