定年退職した金融マンとお笑いコンビ博多華丸・大吉に学ぶ「正しい辞め方」
●今朝の100円ニュース:個人事業主の景況感悪化(日本経済新聞)
老人になるまで楽しく働き続けるコツを伝え聞いた。発展途上国の経済事情に強い金融マンAさんの話だ。律義なAさんは定年退職をする前に「メールやハガキで挨拶状を送るだけでは水臭い。お世話になった人には直接会いに行こう」と考えて、自費でアジアやアフリカの駐在事務所を回ったという。
駐在員たち(中小企業では社長自ら現地に乗り込んでいるケースもある)はたまに来訪する日本人との会話に飢えている。自腹を切って訪れたきさくなAさんが大歓迎されたのは言うまでもない。
会話の内容は懐かしい思い出話に留まらなかった。いくつかの事務所で、「会社を辞めたのならうちの仕事を手伝ってくれないか。隣国にも事業を広げたのに金融のエキスパートがいなくて困っている」などと持ちかけられたのだ。もちろん、日本からの出張経費は出してくれる。まだ働けると密かに自負していたAさんが引き受けたのは言うまでもない。
Aさんに営業の意図はなかった。ただ、戦友とも言える取引先に礼儀を尽くしただけだ。それでもAさんの能力と人柄を高く評価していた人たちは、「引退させるにはもったいない人材だ。わざわざ来てくれたんだから、わが社のことも悪くは思っていないのだろう。何か仕事をお願いすれば引き受けてくれるかもしれない」と感じたのだ。
長く働くための2つのコツがこの話で見えてくる。1つは、当然ながら「もったいない」と思わせるほどの仕事能力を身に付けること。能力と言っても、専門知識やスキルに留まらない。気持ちよく一緒に働ける人柄や信頼関係で結ばれた人脈も含めた仕事遂行力だ。
もう1つは、ある仕事が終わったらお世話になった人に報告とお礼をすること。Aさんのように直接会いに行けば最高だが、無理ならばメールや電話でもいい。「おかげでいい仕事ができました。ありがとうございました」と感謝されて嬉しくない人はいない。自分の能力を他者のために役立ててきちんと認められると、社会の中での立ち位置を確かめて自信を深められる。「次の機会もぜひご協力ください」などと言われなくても、積極的に助けてあげたくなるものだ。
「まめに連絡をくれる人はかわいく感じる」という心理もある。誰しも多少は他人が怖いものだ。声をかけても冷たくされたらどうしよう、という恐怖がある。それを乗り越えて来てくれる人はよほど自分に好意があると推測できるので、遊びや仕事に誘いやすくなる。
Aさんとまったく逆のケースを一昨日に放映された『しゃべくり007』(日本テレビ)で聞いた。お笑いコンビの博多華丸・大吉を担当するマネージャーの話だ。2人によると、8人目にして実力派のマネージャーに出会ったが、それまでのマネージャーの多くは辞め方がひどかったという。打ち合わせの途中で何気なく「明日、辞めます」と言ったり、携帯メールで退職を伝えてきたり。華丸は「これがゆとり世代?」と笑っていたが、情に厚い2人には理解できないほど殺伐とした辞め方なのだろう。
もしも少し勇気を出して、2人に時間を割いてもらい、「実は来月いっぱいで辞めようと思うんです。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。短い間でしたが本当にお世話になりました」ときちんと頭を下げたらどうだろうか。そのマネージャーが別の業界に転じたとしても、博多華丸・大吉との人間関係は続いていくかもしれない。それは仕事だけでなく人生の宝物だ。
今朝の日経新聞によると、個人事業主の景況感が悪化しているらしい。会社員も他人事ではない。いずれ会社を辞めるときが来たら、みな個人に戻るのだから。そのときまでに仕事能力をどれだけ蓄積できるか。どんな辞め方をするのか。長く幸せに働くためには、努力だけではなく勇気と律義さが必要なのだと思う。