「空母型」護衛艦いずも就役。これって空母?
3月25日、海上自衛隊史上最大となる基準排水量19,500トン(満載排水量26,000トン)のヘリコプター搭載護衛艦いずもが就役しました。航空機運用に適した全通甲板を備える空母型艦艇としては、おおすみ型輸送艦3隻、ひゅうが型ヘリコプター搭載護衛艦2隻に続くものとなり、建造にかかる総経費は1,181億円。舞鶴基地に転属されるひゅうがに代わって、横須賀基地に配備されます。(下動画は進水時のいずも)
ひゅうが型との違い
ひゅうが型が基準排水量13,950トン、全長197メートルなのに対し、いずも型の基準排水量は約6,000トン増加した19,500トン、全長は51メートル長い248メートルとなるなど、大幅に拡大されています。
いずも型護衛艦は、ひゅうが型護衛艦の拡大型と言える艦艇ですが、ひゅうが型と比べ搭載する武装は簡略化されています。その代わり、航空機の運用能力、指揮統制能力、病院機能はひゅうが型より強化され、ひゅうが型に無かった大型車両の輸送能力や僚艦への補給能力も備えるようになりました。
強化された航空機運用・指揮統制能力
大きく強化された航空機運用能力では、ひゅうが型の約1.5倍の甲板面積を持ち、ヘリの発着艦ポイントも4ヶ所から5ヶ所に増えています。通常は海上自衛隊所属のSH-60K対潜ヘリ、MCH-101掃海・輸送ヘリといった航空機を搭載するものと見られますが、任務に応じて陸上自衛隊のヘリを搭載する事も想定され、今後は平成27年度予算で調達される予定のV-22オスプレイも搭載される事があるでしょう。
また、航空機運用能力と並んで重要なのが指揮統制機能の強化です。艦の戦闘を指揮するCIC(戦闘指揮所)、護衛隊群や陸海空の統合部隊の指揮・調整を行うFIC(司令部作戦室)、外部からの要員を受け入れる多目的区画等、指揮統制に関わる場所の床面積がひゅうが型より拡張されており、統合部隊の指揮中枢として戦闘行動に留まらず、災害救援や国際平和維持活動等の多様な任務での活用が期待されます。
結局のところ空母なの?
しかしながら、いずもは空母型艦船とは言え、高性能の固定翼艦載機の運用能力は現状は無く、米海軍の原子力空母のような防空・打撃能力は備えていないか、限定されたものに留まります。むしろ、各国で配備が進んでいる「多様な状況」に対応する多目的艦として考えたほうが良いでしょう。航空機運用能力に指揮統制能力、輸送力等を高い次元で融合した艦艇は、世界各国で建造が盛んに行われており、指揮・戦力投射艦、統合支援艦等様々な呼び名で呼ばれています。いずも型の様に全通甲板を備えた艦もありますし、それを「空母」と呼んでいない国もあります。
自衛隊もそのような事情は同じで、平成26年度の防衛白書では「多用な活動」という言葉が頻繁に出てきます。東日本大震災での救援活動や、海外での災害救援・平和維持活動と、自衛隊の任務や活動は多様化しており、いずも型はその「多様な活動」の為の艦と言えるでしょう。
今後、改装によりいずも型にもF-35等の固定翼艦載機を搭載する可能性は否定出来ません。しかし、米海軍の原子力空母はもとより、イギリスのクイーン・エリザベス級空母(基準排水量45,000トン)、中国で空母遼寧(基準排水量55,000トン)に続いて建造中の次世代空母と言った最新世代の本格的空母と比べると、船体の規模が小さい為に航空機の搭載数が限られ、防空・打撃能力に関しては大きく劣る事になるでしょう。
もとより、憲法9条についての政府見解で「攻撃型空母」は持てないとされています。航空機運用能力を強化したとはいえ、ヘリ中心のいずも型は多様な任務に対応した多目的艦と見るべきであって、攻撃型空母とは言えません。仮に固定翼機を搭載する本格的な空母を建造するのならば、政府・海上自衛隊はその目的・意義・必要性を広く周知・説明し、国民的議論の末に結論を出す必要があるでしょう。それこそが正しい文民統制のあり方ではないでしょうか。