猛暑に負けず、白球と夢を追い続ける独立リーグ球団、滋賀ユナイテッド
豪雨が去ったかと思えば、連日の猛暑。その中、甲子園を目指して高校野球の予選が行われている。この真夏のさなか、真昼間に野球などさせていいものかという議論も巷では起こっているが、長年、年中行事として行われてきた高校野球は、この炎天下に行うからこそ、ある種のドラマ性を形作ってきたと言える。スタンドにいるだけで、それこそ溶けそうな気分になる暑さの中、フィールドで汗にまみれ、泥だらけになっている球児たちに感動を覚えない者はいないだろう。
しかし、炎天下、白球を追い続けているのは球児たちだけではない、球児たちが甲子園とともに夢に描く、「プロ野球選手」の陽炎を追い続けている「元球児」たちも暑さをものともせずフィールドで汗にまみれている。
湖国滋賀にできた独立リーグ球団
滋賀県守山市と言っても、その場所を言い当てることができる人は少ないだろう。琵琶湖の東岸にある地方都市だ。駅からほどない場所にある(と言っても歩けば2、30分はかかるだろうが)水田に囲まれた運動公園に守山市民球場がある。真夏の日差しが照り付けるデーゲーム、しかも平日とあって、収容6000人ほどの小さなスタンドを備えたこの球場に、この日、足を運んだ観客は70人ほどに過ぎなかった。
日本にふたつある独立リーグのひとつ、ルートインBCリーグは昨年エクスパンションを行い、ついに近畿地方に進出した。「滋賀ユナイテッド」。総合型地域スポーツクラブを目指すため野球チームらしからぬチーム名を名乗っているこの新球団だが、野球は盛んなものの、人気チームのプロ野球球団、阪神タイガースの圧倒的な存在のため、独立リーグに衆目はなかなか集まらない。球団発足の昨年は、ナイトゲームもそれなりに組んだのだが、だからといって客足が伸びるわけでもなく、結局、費用対効果という現実の前に、今シーズンは、ほとんどの試合が照明代のかからないデーゲームとなった。
「練習場所の確保も大変なんですよ。いつも同じ場所というわけにもいかないし、時間も終日とれるわけでもないですから」
と、今シーズンからチームの指揮をとる松本匡史は、独立リーグの置かれた現状について語る。長年、プロ野球の世界で暮らしてきた彼には、独立リーグの現実は厳しいものに映るだろう。選手にとってももちろんだが、来月には64歳を迎える指揮官の体に連日の猛暑が堪えないはずがない。それでも、昨年までネット裏で仕事をし、現場復帰を望んでいた松本は、夢を諦めきれないあすなろ集団に、彼らが目指すプロとは何たるかを教えるため、フィールドに立っている。
==アジアンドリームを夢見て==
「久しぶりね!」
一塁側ベンチの裏に出ると、ひときわ大きな声がかかった。
ジョニー・セリス。滋賀ユナイテッドの4番を張るベネズエラ人だ。2011年に来日というから、日本でのプレーは8年目となる。母国のウィンターリーグでプレーしているところを今はなき関西独立リーグから声をかけられ、来日。そのシーズンの横浜ベイスターズとの練習試合でのプレーが目に留まると、ベイスターズは、人数不足のBCリーグとの交流戦にファームの一員(練習生)として彼をかり出した。残念ながら、ベイスターズに残ることはできなかったが、その交流試合をきっかけにBCリーグの富山サンダーバーズに移籍、その後、チームは変われども、現在に至るまでBCリーグでプレーし続けているリーグ最古参選手のひとりだ。来日以来、基本的にオフシーズンも日本で過ごし、今では日本語を流暢に操り、ひらがなはほぼ完璧にマスター、漢字もある程度は理解する。日本での生活にはすっかりなじみ、こちらも話していると、日本人の気のいいあんちゃんと話しているような気分になる。将来的にも日本で暮らすことを考えている彼は、自らを「黒いサムライ」と呼ぶ。
BCリーグには、ベネズエラ人選手をはじめ、ラテン系の選手が多いが、それも彼の存在あってのことだろう。シーズン中は連戦続きで、食住についてはほとんど金のかからないアメリカと、生活費は月々の給与の中から自弁が原則など、外国人選手には、なにかと勝手の違うことが多いが、そういう生活面も含めて、彼は各球団の外国人選手の良き兄貴分となっている。
プロ(NPB)に在籍するベネズエラ人選手とも連絡を取り合っていると言う。
「ラミちゃん(アレックス・ラミレス横浜DeNA監督)とは、この間も電話で話したよ。ロペスとも昔からのなじみさ、ウィンターリーグで別のチームだけれど一緒にやってたからね」
彼の実力が、十分に上のレベルでも通用することは、一昨年の冬、久々に帰った母国で古巣ティブロネス・デ・ラグアイアに復帰し、20試合で.327の数字を残したことが証明している。ウィンターリーグトップレベルのベネズエラリーグのメンバーは、ほとんどがメジャーリーガー、マイナー最上級の3Aの選手で占められ、野球の質的な違いはあるものの、日本のプロ野球と比べても遜色のないレベルである。
この冬は、スカウティングチーム(プロ契約を目指す選手が集まり、プロ球団などと試合をするチーム)の一員として、台湾に渡り、現地プロチームから声がかかったものの、外国人枠の関係で本契約には至らなかった。今年32歳になるが、独立リーグに甘んじるつもりは全くない。
「とにかく、日本でなくても、韓国、台湾でもいい。トップリーグのチームと契約したいね」
ジョニーのアジアンドリームはまだまだ続く。
「夏祭り」、巨人戦での奮闘を誓って
発足当初、海のものとも山のものともつかず、スカウトがなかなか足を運ぶことのなかったBCリーグも、発足10年を過ぎた今では、プロ(NPB)側にとっても重要な選手獲得源となっている。この日も、ベテランスカウトがふたりネット裏に陣取っていた。
プロ(NPB)との交流戦は、ステップアップを目指す選手にとっても、スカウトにとっても重要なショーケースである。とくにジョニーのような外国人は、スカウトの目に留まりさえすれば、ドラフトを待たず、すぐにでもNPB球団と契約を結ぶことができる。
BCリーグとは、とくに三軍をつくった巨人が交流戦を盛んに行っている。BCリーグ側にとっては公式戦扱いのこの試合は、集客を見込める数少ない試合で、滋賀球団も、特別のチケットを発注、ナイター興行をうって、名門チームを迎える。巨人側も、独立リーグ支援の意味もあるのだろう。BCリーグ全球団に遠征をし、普段見ることのできない地方のファンにジャイアンツのユニフォームを披露している。
滋賀ユナイテッドと巨人三軍の3連戦は、来週末にある。この時ばかりは、閑古鳥の鳴くスタンドが「夏祭り」の様相を呈することだろう。
(写真は全て筆者撮影)