個人的2019年アイドル・ポップス ベスト10
2010年から毎年末にアイドル・ポップスのベスト10を他のウェブ媒体で発表してきたのだが、2019年はYahoo!ニュースに掲載する。YouTubeの動画を埋めこんでいるが、映像がないものはApple Musicへのリンクをはる。
1位:真っ白なキャンバス「セルフエスティーム」
シングル「闘う門には幸来る」カップリング。2019年は、いわゆる「楽曲派」のシーンよりも、若者が作るユースカルチャーなシーンへと足を運ぶことが増えた。メインで見ていたのは、6人組の真っ白なキャンバス、通称「白キャン」だ。彼女たちの現場がユニークなのは、若いファンによるコールや「MIX」と呼ばれる掛け声で常に爆上がりしているのに歌詞は内向的で、「セルフエスティーム」のようなじっくり聴かせる楽曲もあることだ。特に「セルフエスティーム」は、「あぁ このまま飛び込む 勇気があれば」と歌った瞬間、全員が横一列に並び、飛び込み自殺を連想させる。アイドルを見ていて死のイメージが現れる衝撃は大きかった。白キャンは2020年にキングレコードからのメジャー・デビューが決定している。
2位:nuance「ハーバームーン」
ミニ・アルバム「botan」収録曲。横浜の女の子4人組による、突然の大人びたラップ・ナンバー。「ロイド眼鏡かけた少女 / 上目遣いで僕をみてる」という歌詞が出てくるなど、彼女たちはもはや「少女」の側ではない。「僕らは旅出つサイドでいたいね」という歌詞は、現在のnuance(ヌュアンス)の野心も漂わす。4人の声質をいかしたパート割りも秀逸。「ハーバームーン」とは「港湾の月」という意味であり、nuanceは正しく横浜の港湾音楽であり続ける。
3位:avandoned「マーガレット」
2019年、宇佐蔵べにを中心とした「あヴぁんだんど」が「avandoned」に表記を変更。新たな6人体制でリリースしたシングル。作詞作曲を担当したつるうちはなが意図的に「子供扱い」しているという楽曲、乙女新党のメンバーでもあった荒川ちかによる細部まで意味性を持たせたMVも素晴らしく、この瞬間ならではの強烈なきらめきを放つ。
4位:でんぱ組.inc「形而上学的、魔法」
シングル「いのちのよろこび」のカップリング。作詞作曲に当時15歳(現在は16歳)の「諭吉佳作/men」(人名である)を起用し、「もふくちゃん」こと福嶋麻衣子がプロデューサーに復帰したでんぱ組.incが、ポップ・カルチャーの最前線に復帰したことを高らかに宣言したかのような楽曲。イメージを洪水のように紡ぎだす諭吉佳作/menによる歌詞、佐野康夫によるダイナミックなドラムなど、何度聴いても強烈な昂揚感がある。2019年12月8日に幕張メッセで行われたライヴでの、でんぱ組.incと諭吉佳作/menによるコラボレーションも素晴らしかった。
5位:フィロソフィーのダンス「シスター」
2019年は、新曲は「ダンス・オア・ダンス」、そしてこの「シスター」しかなかったフィロソフィーのダンスだが、ブラック・ミュージックを歌う4人組としての本領をいかんなく発揮したのが「シスター」。開始2秒で奥津マリリのヴォーカルに吸いこまれてしまう。ここまでヴォーカル・ワークの魅力が圧倒的な楽曲は、J-POPシーン全体を見渡しても珍しいほどだ。
6位:桜エビ〜ず「214」
次々と楽曲を配信している6人組・桜エビ〜ず(現在はukkaに改名)に、sasakure.UKが提供した楽曲。彼が作詞作曲編曲を手がけた「214」は圧倒的なポップネスを聴かせる。台湾で撮影された、森岡千織の監督による映像も、メンバーの表情の切り取り方が素晴らしい。
7位:BiS「BiS-どうやらゾンビのおでまし」
第2期BiSの突然の解散を経て、間髪入れずにデビューした第3期BiSのデビュー・アルバム「Brand-new idol Society」のリード・ナンバー。いまさらサウンド・プロデューサーの松隈ケンタのメロディーの良さに言及するのも野暮だとは思うが、「幕開け」を強くイメージさせるこの楽曲のソングライティングは特に光るものがあった。ライヴで聴くたびに胸が高鳴る楽曲だ。
8位:MELLOW MELLOW「WANING MOON」
3人組ダンスヴォーカルユニットによるシングル。作曲は、フィロソフィーのダンスの全編曲でも知られる宮野弦士よるもの。ミドル・ナンバーながら昂揚感をもたらすのは、流石の職人技だ。MVの監督のKASICOは、この後Perfumeの「再生」も手がけている。
9位:姫乃たま「まだ」
https://music.apple.com/jp/album/%E3%81%BE%E3%81%A0/1459069639?i=1459069842
地下アイドル活動10周年を迎えて、2019年に地下アイドル卒業を宣言した姫乃たま。彼女の地下アイドルとしてのラスト・アルバム「パノラマ街道まっしぐら」の最後を飾るのは、チャクラの1983年のラスト・アルバム「南洋でヨイショ」収録曲のカヴァーだった。「時がたって 元気になったら / 笑いながら / どこかで会おう」という別れの歌詞が姫乃たまの旅立ちを彩った。
10位:オモテカホ「So good!!」
石川県を拠点に活動するオモテカホが、東京のレーベル・doles Uからリリースした全国流通シングル。作曲はHIROYA、MV撮影は山田康太という座組は石川県での活動と変えず、クオリティの高い作品を届けた。石川県のアイドルなのに、MVのロケ地が神奈川県というのも予想外のアイデアにして鮮やか。
その他
ここではCDや配信によりリリースされたものを挙げてきたが、YouTubeにはリリースを前提としていない楽曲もある。
神宿の小山ひなによるMy Hair is Badの「真赤」のアカペラ・カヴァー動画は、グループでふだん彼女が見せない生々しい側面を見せた。
かつて「千影みみ」という名で活動していた安藤未知が、初めて公開したオリジナル曲「さよならばいお君」はYouTubeのみで聴くことができる。作曲のteoremaaは、初期のあヴぁんだんどに数々の名曲を書いてきた人物だ。
中堅どころのアイドル・グループの解散が続いた2018年も過ぎ、2019年は自分の身を置く現場を変えてみたところ、とても楽しい1年だった。音楽的な停滞というものも特に感じられない。シーンの変化を嘆くよりも、自分が変わるほうが正解だと感じた2019年でもあった。