【泉南市】逃げ遅れた時の “最後の砦”『津波避難ビル』。パニック時に備えたい「入口」と「階段」の位置
〈はじめに〉
この記事には津波の画像が含まれています。心身に不安を感じやすい方は、閲覧をお控えください。
2011年3月11日、午後2時46分。
東北の街を津波が襲ったあの日、わたしは何かを口にしながらテレビの前でいつもの午後を過ごしていました。ほのぼのとした番組が、突然 生々しい中継に切り替わり、聞いたこともないような不気味な重低音と泣き叫ぶ人々の声に、ただ口の中のものを飲み込まないという抵抗しかできなかった自分を覚えています。
自然災害に抗うことができない人間の無力さに、ひたすら涙していました。
わたしたちの街にも美しい海があります。
今年は「タルイサザンビーチ」が5年ぶりに海開きをするなど、いつも楽しい話題を届けてくれる碧海。けれど、あの日からこの海が持つ もうひとつの顔を強く意識しはじめたのです。
1メートルの津波の最短到達時間は「75分」
南海トラフ巨大地震発生の切迫性については多くのメディアなどで報道され、海の街に住むわたしたちは、いつ、どこで、どんな被害を受けるのかという不安に日々さらされています。
南海トラフ巨大地震が発生した際の被害想定は、泉南市の最大震度は6強、最大津波水位は3.2メートルで、1メートルの津波の最短到達時間は「75分」。
このわずかな時間内に命を守る行動をとることが求められます。
わたしたちの街では、南海本線より海側が「津波避難対象地域」とされており、対象地域にお住まいの方、また、地震発生時に対象地域にいる方は「警報が発表されたら、すぐ避難!」が原則です。
ハザードマップにおける「行動指針」は以下の通りです。
第一に南海本線を越えて府道堺阪南線(旧国道26号)を目標に、高いところや避難場所を目指す。逃げ遅れた時は、「津波避難ビル」や近くの丈夫な建物の3階以上へ避難する。
みなさんは、この「津波避難ビル」の存在をご存知でしょうか。
障がい者や高齢者、小さな子どもを連れているなど、迅速な避難が困難な方、避難する時間がなくなった方が駆け込む「津波避難ビル」は、言わば命を守る“最後の砦”。
ハザードマップには、その場所が示されていますが、ハンディを抱えたパニック状態の避難者が、平面上の位置情報だけを頼りにスムーズに避難できるかが心配です。
そこで今回の記事は、「津波避難ビル」の「入口」と「階段」の位置にフォーカスをあてます。わたしが駆け込むなら、まずそこが知りたいと思いました。
なお、避難経路につきましては、災害状況によっては道路が寸断されてしまう可能性もあるため、各自 周囲の状況に応じて安全な道を選んでください。
一瞬の判断の過ちで命を落とす危険性もある自然災害。しっかりイメージして、いざという時のために備えましょう。
*津波避難ビルは、緊急時において一時的に避難する施設です。大規模災害時に市が開設する指定緊急避難場所・指定避難所とは異なりますのでご注意ください。
→泉南市公式HP「指定緊急避難場所」(外部リンク)
「津波避難ビル」は沿岸部に12カ所ある
ハザードマップが示す「津波避難ビル」に指定されている施設は、沿岸部に12カ所あります。→泉南市公式HP「地震・津波ハザードマップ」(外部リンク)
【津波避難ビル】
・府営泉南岡田住宅1棟
・府営泉南岡田住宅2棟
・中部ポンプ場
・西信達小学校
・大阪府済生会泉南医療福祉センター
・救護施設りんくうみなと
・府営泉南りんくう住宅
・東洋クロス株式会社
・泉南清掃事務組合
・バンドー化学株式会社
・朝日プラザシティ サザンコーストA棟
・朝日プラザシティ サザンコーストB棟
(2024年12月現在)
*最新の津波避難ビル情報は、泉南市のホームページで随時更新されますのでご確認ください。→泉南市公式HP「津波避難ビル」(外部リンク)
「津波避難ビル」の指定基準は、「原則として3階以上のRC(鉄筋コンクリート造)またはSRC(鉄骨鉄筋コンクリート造)の建築物」「1981年に施行された新耐震設計基準に基づき建設された建築物または新耐震基準に準じた耐震工事を完了した建築物」「海抜5メートル以下の地域の施設(特に南海本線より海側の地域)」と定められています。
また、利用開始・終了につきましては、大阪府に「津波警報」または「大津波警報」が発表された時点で利用が可能となり、「津波警報」の解除をもって利用の終了となります。
一度にすべての施設の状況はお伝えできないため、今回は同市が管理している4カ所の施設を、泉南市 行政経営部 危機管理課の横谷 勇人(よこたに ゆうと)さんにご同行いただき視察してきました。
撮影可能であれば、追って残りの施設も取材する予定です。ご紹介する施設の中には、平時は関係者以外の立ち入りが禁止されている場所もあります。建物の内部や動線を知ることは、瞬時に行動へ移すための大きな手助けとなるはずです。
*「泉南清掃事務組合」さまも同市が管理している「津波避難ビル」施設ですが、諸事情により撮影ができませんでした。
①府営泉南岡田住宅1棟
府道63号線「岡田北」交差点より内陸側やや北東に位置する「府営泉南岡田住宅1棟」(Googleマップ参照)。周辺には「大阪府警察学校」や「岡田浦漁港」などがあります。
避難者の収容人数は約420名。避難場所は3階以上の廊下。夜間・休日の利用も可能です。
この付近は遊泳場がないため、予想できる避難者は府道63号線を通過中の運転者、漁港関係者や漁港をご利用中の方の中でハンディにより南海本線を越える避難が難しい方、または、逃げ遅れた方。近隣住民で障がい者や高齢者、小さな子どもがいる方など。そして、お隣の田尻町からの受け入れも可能です。
この建物は山側が6階建て、海側が4階建てとなっており、「階段」は3カ所(山側から①②③)に設置されています。
状況にもよりますが、可能な限り海から一番遠い「山側の階段①」を目指しましょう。
「山側の階段①」
踊り場まで8段。階段の幅は約130センチとやや狭く、大人ふたりが並んで通ると肩が触れあうほどです。
階段を上ってみた印象は、段差がゆるやかで運動不足のわたしでも息を切らすことなく3階まで上りきることができました。
ただ、この建物の3階から見る景色は、思いのほか低く感じます。
間近に見えるあの海から巨大な津波が迫ってくる場面に恐怖を感じるかもしれません。状況に応じて、上階(4階~6階)を目指すと良いと思いました。
「真ん中の階段②」
共用廊下に面している「真ん中の階段②」も、6階まで上ることができます。
この廊下を通り抜けると広場があり、その先に「府営泉南岡田住宅2棟」があります。エレベーターも設置されていますが、災害時は緊急停止する危険性もあるため、階段を利用しましょう。
「海側の階段③」
「海側の階段③」は4階まで上ることができます。府道63号線(海側)からの避難を想定した場合、一刻も早く垂直避難(*)が必要な場合は、建物横の遊歩道(府道63号線と府営泉南岡田住宅を繋ぐ)の途中の柵を飛び越えてこの階段を上るという手段もありますが、柵の下の壁の高さは195センチ。
*「垂直避難」とは、地震や津波、台風、豪雨などの災害時に、自宅や近隣の建物の2階以上へ避難すること。(「水平避難」災害時に危険な場所からできるだけ遠くにある安全な場所へ移動する避難方法)
ここでケガをしたら逃げ遅れてしまいます。
命を守る行動は、最終的には個人の判断に委ねられますが、からだが傷つかない選択をしましょう。
ここからさらに遊歩道を山側へ進むと右手に「山側の階段①」が見えてきます。
②府営泉南岡田住宅2棟
「府営泉南岡田住宅1棟」と建物の構造は同じですが、2棟は8階建てとなります。
避難者の収容人数は約780名。避難場所は3階以上の廊下。夜間・休日の利用も可能です。1棟より やや内陸側に位置しているため、こちらの「山側の階段①」を目指すとより安心かもしれません。同じく3階以上に避難しましょう。
「海側の階段➂」について、ひとつ気になったことがあります。
すぐ横に「レンタルトラック」の会社があり、大量の大型トラックが駐車されています。この大型トラックが、津波と一緒に押し流されてくることも想像できますので、「海側の階段➂」付近は警戒が必要です。
複数の選択肢をもつ
府道63号線「岡田北」交差点から山側へまっすぐ進み、南海本線を越える避難経路もありますが、アンダーパス(*)を通過する必要があり、地震による崩壊が心配です。
*「アンダーパス」とは、鉄道や道路の下を通る地下道のこと。立体交差。
避難行動は、災害の状況に応じたフレキシブルな対応が求められます。
避難経路においても二次災害のリスクも考慮し、複数の選択肢をもつことが重要だと感じました。
③中部ポンプ場
「イオンモールりんくう泉南」の向かいに位置する「中部ポンプ場」(Googleマップ参照)。
海のすぐ目の前に建つ「津波避難ビル」の存在が、逃げ遅れた人にとってどれほど心強いかは言うまでもありません。この施設は、同市の下水処理場で、平時は関係者以外の立ち入りは禁止されています。避難者の収容人数は約380名。避難場所は屋上。夜間・休日の利用も可能です。
予想される避難者は、海または海岸沿いの施設利用者や府道63号線を通過中の運転者の中で、ハンディにより南海本線を越える避難が難しい方、または、逃げ遅れた方など。
ゲート(入口)は、府道63号線側とサザンぴあ側の2カ所。平時開門しているのは府道63号線側のゲートのみです。開門時間は9時から17時。それ以外の時間帯は施錠されており、有事の際に開門されます。
サザンぴあ側のゲートは、常時施錠されており、有事の際のみ出入り可能となります。
ここで、ひとつ注意点があります。
「階段」に通じる建物の「入口」は1カ所で、それは、府道63号線側のゲート付近にあります。「タルイサザンビーチ」側からの避難を想定した場合、サザンぴあ側のゲートまで海沿いを歩いて移動する手段は、遠回りとなります(A)。
「SENNAN LONG PARK」(泉南りんくう公園)の北端(大阪方面)の出口から、府道63号線沿いの歩道に出て、府道63号線側のゲートを目指すのが「入口」までの最短ルートです(B)。
「タルイサザンビーチ」から「入口」までの時間(女性のはや歩き)
→検証結果:A 約10分 B 約6分40秒
「階段」は狭い、そして急勾配
府道63号線側のゲートを入って右へ進むと建物の「入口」があります。
入口手前の3段の階段は、つまずきやすい箇所ですので、十分にご注意ください。
館内に入ると正面に扉があり、その先に赤い階段が見えます。
あの階段で屋上を目指します。
入口からの光で視界は確保できますが、階段は薄暗く大人ひとりが通れるほどの狭さです。
緊急避難時は、停電していなければ電気をつけていただけるとのこと。
上ってみた印象は、急勾配の階段は、思った以上に体力を消耗します。手すりが設置されているのは、最初の踊り場までの12段のみで、そこから先は手すりがないため、高齢者や小さな子どもは安全に配慮して上る必要があります。
3階に到着しました。足に疲労感があり、息切れもしています。
屋上まで行くのが難しい方は、ここで待機することもできますが、可能な限り屋上を目指しましょう。
屋上に到着しました。
鍵をあけて外へ出ます。
約380名収容できる屋上スペースは、広々としています。海がすぐ目の前にあることから、恐怖を感じるかもしれません。
けれど、この場所は、避難が困難な状況の人々にとっては 安息の地となるはず。
まずは、南海本線を越えて府道堺阪南線(旧国道26号)を目標に、高いところや避難場所を目指す。逃げ遅れた時は「津波避難ビル」に駆け込む。それを知っているだけで、命を守るための素早い判断ができます。そして、緊急時に慌てず、安全に避難するためには、あらかじめ「入口」と「階段」の位置を把握しておくことが大切です。
④西信達小学校
2023年に創立150周年を迎えた「西信達小学校」(Googleマップ参照)は、南海本線「岡田浦」駅から徒歩約1分のところにあります。
地域にながく存在する伝統校も、生徒の家族と卒業生以外は足を運ぶ機会もないかと思います。避難者の収容人数は約610名。避難場所は3階以上の廊下、屋上。夜間・休日の利用はできないため、状況によっては南海本線を山側へ越える避難が必要となります。
敷地内の左手奥にある校舎の「入口」から「階段」を目指します(土足でOK)。
校舎に入って右手奥へ進むと、突き当り手前に階段があります。
階段は3階までが13段。3階から屋上までは14段の緩やかな傾斜。
緩やかとは言え、13段あると3階までの道のりがながく、きつく感じます。
避難行動は体力と心の準備が必要です。ふだんから軽い運動を心がけ、いざという時のために備えましょう。
屋上に到着しました。階段を上がると左右に2つの扉があります。
災害発生時は、正門と2つの屋上の扉が開放され、先生と子どもたちは、西信達中学校へ避難し地域住民を受け入れます。
屋上は、街を一望できる高さで安心感があります。
大きな羽のような白いフェンスが避難者たちをやさしく包み込み、不安をやわらげてくれそうです。なお、西信達小学校は「緊急避難場所」にも指定されているため、屋上倉庫に備蓄があります。
その他の「津波避難ビル」は、緊急時に一時的に避難する施設のため、備蓄はありません。
*西信達小学校は、令和10年の西信達中学校との統合に伴い、避難場所としての役割を終えます。
周辺の環境
周辺には、「りんくう南浜公園」や「岡田浦漁港」、マーブルビーチのグランピング施設などがあり、そこから避難者が発生することも考えられます。ですが、ひとつ気になる点があります。この付近は住宅が密集しています。古い木造住宅やブロック塀も多く、地震によって道路が寸断されてしまうのではないかと一抹の不安がよぎります。
命を守る選択肢を増やす
災害が起きたら避難するべきか、その場に留まるべきか、あるいはどこに避難するのが安全かは、被害状況や生活環境、一人ひとりの健康状態によってその判断は大きく分かれます。
ですが、街を歩き避難経路を探ることや避難場所の動線を思い描くことは、 “命を守る選択肢” を増やします。そんな「安全貯金」を今すぐにでもはじめてみませんか。
泉南市では、土砂災害や浸水被害、地震のときに建物が倒壊する危険度などがわかる「泉南市総合防災マップ」のほか、地震や台風、大雨など、災害時の情報をまとめて確認できる「泉南市防災アプリ」の導入も進んでいます。防災マップや指定避難所などの情報はもちろん、防災無線の内容を自動でお知らせ(プッシュ通知)してくれるなど、配信されるコンテンツも豊富。もしもの時に備えて、「泉南市防災アプリ」をスマホに忍ばせておくと安心です。
→泉南市公式HP「泉南市防災アプリについて」(外部リンク)
1メートルの津波の最短到達時間は「75分」。
情報を素早くキャッチして、命を守る行動を。
そして、逃げ遅れた時は、「入口」と「階段」をめがけて全力で“最後の砦”に駆け込みましょう。あきらめないで。
能登半島地震、阪神・淡路大震災、東日本大震災をはじめとする、大規模地震で被災されたみなさまに心よりお見舞い申し上げます。
【基本情報】
「津波避難ビル」
〈お問い合わせ先〉
泉南市 行政経営部 危機管理課
072-479-3601/内線3205
取材協力 泉南市 行政経営部 危機管理課 奥野 繁 様 横谷 勇人様
*記事内容は取材当時のものです。
*津波避難ビルは、緊急時において一時的に避難する施設です。可能な限り、南海本線を越えて府道堺阪南線(旧国道26号)を目標に、高いところや避難場所を目指して避難しましょう。